りんご vs みかん【果物かご炎上事件】
読んで頂く前に、私は、夢野久作先生の作品をこよなく尊敬しているということをご理解していただきたいです。先生の童話には、一見ユーモラスでありながら、どこかぞっとするような真理が潜んでおります。何気ないお菓子や小さな出来事を通じて、人間社会の縮図を描き出すその手腕に、ただただ感服するばかりです。
私程度では、到底真似を行うなど不可能ですが、私なりの新しい解釈を持って書きたいと思った次第です。
読んで頂けたら幸いです。
りんごとみかんが、果物かごの中で口げんかを始めました。
「なあ、みかん。お前なんて小さくて酸っぱいだけだろ。俺を見てみろ。つやつやに赤く色づいて、一つ食べればお腹も満たせる。正真正銘の主役は俺なんだ」
みかんは負けじと叫びました。
「ふざけるなよ! 俺は手でスルッと皮がむけるんだ。冬のこたつでは、家族みんなのセンターだぞ。冷蔵庫の隅で忘れられるお前なんかとは格が違うんだよ!」
「安っぽいクセに偉そうにするな!」
「ナイフがないと食べられないくせに!」
二つの果物は激しくぶつかり合い、ついには取っ組み合いに。
その様子を見ていたぶどうやバナナ、なしやいちごまで参戦し、かごの中は押し合いへし合いの大騒ぎ。
「俺はワインになるから格が上だ!」
「筋トレ勢に愛されるのはこの俺!」
「ケーキのセンターは私よ!」
――果物たちの自慢合戦は火に油を注ぐように広がり、果物かごはまるで炎上事件の現場のようになってしまいました。
そこへ子供たちがやって来て、目を丸くしました。
「お母さん、大変大変!!
果物たちが喧嘩してる!」
お母さんは、大急ぎで駆けつけて、覗きこむと、深いため息をつきました。
「ほらご覧なさい。一緒に入れておくからこうなるのよ。仕方ないわね。おやつに切ってあげるから、みんなで仲良く食べなさい」
そう言って包丁を持ってきて、りんごもみかんも、ほかの果物たちもまとめて切られ、お皿の上に仲良く並べられてしまいました。
子供たちは、皆んな仲良く美味しいそうにその果物を頬張りました。