2 叔父の懸念side石舟院源
2 叔父の懸念side石舟院源
石舟院家の離れにある屋敷の書斎にて。
石舟院源は前当主である石舟院平次の双子の弟にして、現当主、石舟院家礼の叔父。
源はとある懸念があった。
双子の兄の息子の筈なのに、全く自分に似ていないのだ。
自分と兄の容姿は良くて十人並みのような顔をしているのに甥の家礼は容姿端麗を絵にかいたような美しい容姿だ。
「何故なのだ。
もしや、家礼は兄の子ではない? それになんだ?
家礼は女子のような仕草をする。それは何の意図があるのだ」
源は理解が追い付かなかった。
甥である家礼は謎多き、ミステリアスな子供だ。
叔父である自分にも心を開かず、逆に後ろめたいことがあるのかという態度だ。
家礼の母親は早くに亡くなっており、死人に口なし。
「ならば、DNA鑑定をするしかあるまい。
だが、それは大きな賭けだ。まずは家礼に接触を図るしかあるまい」
我が甥を疑うのは本来ならば言語道断な振る舞いだ。
人の道に反する非道な行いだが、致し方ないと、源は最悪の場合、DNA鑑定を行うと決めた。
そして、家礼と面談を取り付けた源は石舟院家屋外庭園で、相まみえる。
白夜に彩られたテーブルと椅子に二人は座した。
家礼は澄ました顔をして涼し気に此方を見据えている。
叔父と甥の腹の探り合い。
思わず見入ってしまう程、家礼は可愛い。
美男子だ。
いや、女子のように可憐さがある。
本当に男なのか、疑念が脳裏を過る。
だが、仮にも我が甥、家礼は石舟院家の若君であり、当主だ。
身分が違う。
枝分かれして分家となった自分よりも遥かに雲上人のように偉いのだ。
だが、それが偽りであった場合、家礼は断罪されるべき存在へと変わる。
今まで可愛がってきた甥を断罪する胆力は源には備わっていない。
所詮は分家。
帝王の資質は自分にはないということかと源は自嘲する。
「家礼。学業の方も申し分ないようだな。
体調も崩す日が多いと聞くが、見たところ健康そうで何よりだ」
源は当たり障りのない会話から糸口を探そうとした。
「源叔父様。僕の事を気にかけてくださり、恐悦至極に存じます」
柔らかな物腰は女性の特有のもであった。
だが、一人称は僕なので、やはりミステリアスな子供だ。
「家礼、お前は私の兄の子だ。
その身を案じる気持ちに嘘偽りはない。何かあれば言いなさい」
そう源が言った途端、家礼の体は一瞬強張った。
まるで、何か後ろめたい事があるかのように。
二人の邂逅は思いのほか、短いものであった。
しかし、源はより一層、家礼に対して強い疑念を持つようになる。