普通に生きてたらテンプレなんて起こらないよねっていう話(+α)
初投稿です。
誤字、脱字はご報告くださるとうれしいです。
突然だが、世の中にテンプレと呼ばれるものは存在しない。
曲がり角で人とぶつかって(←まずこの時点で中々ない)、しかもその人が美少女で、更には自分の通う学校に転校してきてクラスも一緒になり、挙句の果てには席が隣になる(もちろん席は窓際一番後ろである)。
いやね、どれだけ天文学的確率やねんと。
こんなん起こるなら当事者でなくてもいいから見させてくれと。
挙げたのはあくまで一例だが、”テンプレ”というものの存在はまずもって絶望的で、まして起こすのは不可能だ。
本当だろうか。
本当に、絶望的で、不可能なのだろうか。
天文学的確率?あるじゃん、可能性。(2ch風)
そう、これは悪魔の証明なのだ。可能性がある限り、必ず起こらないとも言い切れないのだ。
はいそこ蓋然性がないとか言わない!とにかく、起こることは起こるのだ。なら、いけるはず。いや、絶対いける。まってろ、俺のキラキラ輝く高校生活!
ピピピピピ………
俺のはたから見れば恥ずかしすぎる妄想はそこで途切れた。
「いいとこだったのに」
そう独り言ちて、体を起こす。
今日から俺、瀬野太陽の高校生活が始まる。
現在時刻、9時ちょうど。夢うつつの状態から覚醒して、時刻を認識する。
ちなみに本日執り行われる、俺が通う予定の市立城南高等学校入学式は、10時開始である。
もういちど。10時開始である。
「・・・・・・マジで言ってる?」
家から学校まで40分。電車の時間もある。
「誰か起こしてくれよ!」
一人暮らしの家に虚しく響き渡る叫び声。親は出張で家にいない。もちろん今日の式にも来ない。
ベッドから跳ね飛び、すぐさま新しい制服に着替える。昨日のうちに準備をしていた昨日の俺ナイスと深い感謝を捧げつつ、急ぐ。朝ごはんは、要らない。今日はどうせ入学式だけだ。昼前には帰ってくる。
「いってきます!」
駅まで通常徒歩10分、デッドラインとなる電車は7分後。絶妙に諦めきれない時間だ。
こういう時こそ体育で習った走り方を実践すべきなのだろうが、いくら思い出そうとしても出てこない。新品同然の制服が汗まみれになることも厭わず、全力で走る。走る。走る。
と、ここで。
ハッ!
これはさっき妄想した、"曲がり角美少女ぶつかり"のチャンスではないか?
シチュエーションはドンピシャだ。ワンチャンある。
これはいけない。このように全力で走っていてぶつかれば相手に怪我をさせるかもしれない。
スピードを、落とす。ちょっと間違った方向にインスピレーションを得てしまったかもしれない。
しかし、こうなってしまえば止められない。一応走ってはいるが、ジョグ程度にしてそのときを待つ。
曲がり角があるたび周りをチラチラしながら走ること、およそ5分。
無事駅に着いた。着いてしまった。結局何も出会いはなかった。不本意だが、ただただ曲がり角で右左の確認を小学生並みにする不審者であった。
当たり前は当たり前なのだが、それでも頭のどこかの認めたくない気持ちと戦いつつ、普通に間に合った電車に乗りこみ、英単語帳を取り出す。テストと冤罪の両方の対策を兼ねた優れものなのだ。さて、これからどうしようか。
ひとたび電車に間に合いさえすれば遅刻はしないのが高校生活。
時刻は9時55分、無事ギリギリではあるが校門をくぐった。ひどい息切れで、たまにすれ違う人に
何事かという視線を向けられながらもたどり着いたのだ。入学式そっちのけで祝杯をあげたくなったが我慢して、受付をする。ちらっと見えた名簿の見えた範囲では、俺以外はみんなすでに来ているらしい。入学式に遅れてやってくる猛者はいないようだ。会場は校舎の8階。8階?しかもエレベーターは故障中?階段で登れ?まさかまさかだ。青天の霹靂とはまさにこのこと。入学式に遅刻することが確定した瞬間であった。
20XX年、春。
進む地球温暖化によってかは知らないけど、すでに散った桜は葉桜へと移行しようとしている。そんな今日、俺はこの高校に入学する。
別に、何かやりたいことがあってこの学校に入学したわけじゃない。校長先生の大変ありがたいお話を
右から左へと聞き流しながら、そう思う。青く澄んだ空とは真反対のどんよりとした憂鬱さが俺を覆う。この3年間、どうやって暇をつぶそうか。
こんなよくあるモノローグを考えたところでなんにもならないのが高校生活。
振り分けられた教室に入ってみても、すでにグループができている。なにかのSNSを介して入学前からつながりがあったグループのようだ。イ〇スタとかイキってるとか思ってた昔の俺をぶん殴りたくなる。
俺も誰かに話しかけようと周りを見渡した次の瞬間。
「おっはー。寝ぐせついてるよ。太陽!」
ポンと気安く肩に手を置きつつ話しかけてきたのは、八本松山茶花。
一応、幼稚園からの付き合いであるいわゆる幼馴染というやつだ。みると、教室中の注目がこちらに向いていることがわかる。さっきまで君ら本当に初対面か?というくらい盛り上がっていたSNS組(俺命名)でさえも会話をやめ、こちらに注目を集めている。
「・・・寝坊したからかな」
すこし返事がおざなりすぎただろうか。いや、こんなものだろう。仲が良いと思われてヘイト買っても
嫌だ。
なにせこいつ、八本松はとてもかわいい。地毛らしい、肩まで届く程度の茶髪はよく手入れされていて、アーモンドアイといわれるような大きな目はこちらのすべてを見透かすかのよう。肌も結構至近距離にいるはずなのに毛穴一つも見当たらない。身長と胸のほうはそこまででもないが、ついこの間まで中学生であったことを考えると十分すぎるくらいには発達している。
つまるところ美少女であるのだが、その容姿ゆえか、はたまたその底抜けな明るさと優しさゆえか、中学生のころは告白されることが絶えなかったのだ。そのため、今のクラス中の注目が集まるこの状況は至極当たり前といえるし、明日からは告白ラッシュが始まり、幼馴染だからという理由で一緒にいる俺が嫌われるであろうことも当然の帰結といえる。というか、中学の頃はそうだった。高校で同じ真似はしたくない。
「あはは、どうせドキドキして眠れなかったんでしょ。高校生になってもそういうとこ変わんないね」
一つため息をつく。幼馴染とはいっても家が隣とかいうわけじゃないから、その辺は悪しからず。
隣とかなら起こしに来てもらえて今日も遅刻しなくて済んだのに。おや?なんか山茶花の目が鋭く・・・?
「あっ、そうそう。今日さっそくだれか遅刻したんだって。入学初日からなんて肝が据わってるよね」
ギクッ
「あ、そうなの?馬鹿な人もいるもんだな。あはは」
「そーいえば、太陽今日寝坊したんだよね。何か知ってる?正直に山茶花様に言ってみなさい」
「な、なんのことやら」
「はあ、さすがに苦しいよ、太陽。3秒以内に自白しなかったら君のお母さんにチクります。さーん、にーい、いー「ああもう。俺だよ、俺。遅刻したの。認めるからそれだけは勘弁してくれ!」はい、よくできました」
なんとも性格の悪い幼馴染だ。親に遅刻がばれたりしたら一人暮らしが解消されかねない。少なくとも長時間の説教は確定である。よって回避は必須なのだ。というか、俺がそそくさと入っていったところを誰かに見られてたのだろうか。
「ま、遅刻したのが太陽だってこと、知ってたんだけどね。見てたし」
「まじか。列の端だったし、誰にも気づかれてないと思ってたんだけど。それに、知ってるならなんでわざわざ声かけて訊いてきたんだよ。今は新しい友達作る時間だろ?」
今の時間は友達づくりのゴールデンタイム。今を逃せばグループが出来上がり、ボッチが濃厚になってくる大切な時間である。少なくとも幼馴染を詰問するような時間ではないはず。
「私にとっては新しい友達よりも、太陽のほうが大切だからね。当たり前なのだよ」
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<山茶花side>
突然だが、世の中にはテンプレというものが存在する。
もちろん創作物の中だけでなく、現実でもだ。
幼稚園のころから今に至るまで、ずっと一緒に生きてきた男の子がいる。
名前は、瀬野太陽。いわゆる幼馴染で、好きな人だ。
筒井筒の恋のように、小さい時からはぐくんできたこの想いは、だれにも負けない自信がある。両想いじゃないところだけ相違点だけど。
私たちの周りにはたくさんのテンプレがあふれていた。太陽の両親はここ5年くらいずっと出張だし、子供のころには一緒にお風呂だって入った。なんなら将来、結婚する約束までした。その時に交換した指輪は、今も持ってる。太陽のは知らないけど。
中学生のころは、本当に大変だった。なまじ小学生高学年からの異性と関わるのは恥ずかしい風潮に太陽が踊らされて、不本意ながら距離ができてしまったのだ。そのすきを突かれ、太陽をたくさんの泥棒猫が狙い始めた。恥も外聞もない、自らの愛欲で動くメス猫どもを蹴散らすのにはとっても苦労した。あの手この手で太陽のハートを奪おうとしてくるし、体で訴える不埒な女郎まで現れた時にはここまでするかとビビったものだ。
好きになったのに特に理由があるわけではない。気づけば好きになっていたのだけれど、好意を自覚したのはきっかけがある。これまたテンプレ通りに、小学生のころクラスのカースト最上位の娘の好きな人から告白され、それを振ったということ。お決まりのいじめが始まって、その時に助けてくれたのが太陽だった。その時にカースト上位の娘に言った、
「おまえ、すきな人がじぶんをすきになってくれないからっていじめるのはやめろよ。おれだってさざんかがすきだけど、さざんかがだれかとつきあったりしてもおうえんするぞ。ほんとうにすきならすきなひとのしあわせをよろこべよ」
という言葉は今も覚えている。いじめの対象は私から太陽に変わった。このほぼ告白な台詞は、太陽が当時見ていたアニメの台詞をそのまま言ったもので、特に意味は分かってなかったらしい。ほかにも、ナチュラルにイケメンな行動をするし、そのくせ鈍感なんだから本当に女泣かしだ。お義母さんにチクってやろうか。
太陽の本棚にライトノベルが増えてきて、ちょっと夢見るお年頃になってきた今がチャンス。中学の二の舞は舞わない。高校は初めからくっついて、周りへのけん制をしていかないと。太陽のことだから、高校でもフラグを乱立するだろう。片っ端から折って回るのと同時に、立たせないことも重要だ。高校こそ必ずオトしてみせる。高校生活をラブコメのテンプレでそめてあげるんだから!
読んでいただき、ありがとうございました。
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