「任せて。すぐに復元してみせるわ。」
夜遅く、オフィスには静寂が広がっていた。デスクに向かう神崎 梨央は、ノートパソコンの画面を凝視しながら、USBから抽出したデータの解析を進めていた。健太が貿易会社から命がけで持ち帰ったこのデータには、事件の核心に迫る情報が隠されているはずだった。
「こんなにも分厚い暗号……本当に手間をかけてるわね。」
梨央は小さく息を吐きながら、キーボードを叩く手を止めない。画面上には、無数の数字と文字列が並び、少しずつそれが解読されていく。
「進捗は?」
東雲 鷹がデスクの傍に立ち、梨央の手元を覗き込む。
「順調……と言いたいけど、かなり手強いわ。この暗号化の仕方、普通の企業が使うレベルじゃない。」
梨央は画面の一部を拡大しながら答える。その目は集中の色を宿していた。
「さすがだな。敵組織がどれだけ情報を守ろうとしているかが分かる。」
鷹がホワイトボードに向き直り、メモを書き加える。
「でも、こっちも負けてないわ。」梨央の指が再び動き始めた。やがて、一部のデータが解読され、画面に地図が浮かび上がる。
「これは……」
鷹が画面を見つめ、眉をひそめる。その地図にはいくつもの点と線が描かれており、日本国内の特定地域を示していた。
「そう。このルート、USB内の暗号化されたファイルに含まれていたデータよ。おそらく、外国スパイが国内でどんな行動をしていたのかを記録したものね。」
梨央の声にはわずかに興奮が混じっていた。
「見て、ここ。」
梨央がカーソルを動かし、地図の一部を拡大する。そこには、首都圏を中心とした複数の重要施設が点として表示されていた。
「首都圏の施設ばかりだな。」鷹が静かに呟く。「敵組織がこの情報を守ろうとしている理由が、少し見えてきたな。」
その時、梨央のパソコン画面が一瞬揺れ、警告音が鳴り響いた。
「……何?」
梨央が驚いて画面を確認すると、データが突然アクセス不能になり、画面に「外部からの不正アクセス」の警告が表示されていた。
「ハッキングだ!」梨央が叫ぶと同時に、鷹はすぐさまオフィスの警戒モードを指示した。
「健太!五条さん!全員、注意しろ!」
鷹の声がオフィス中に響き渡る。
「またかよ……!USB奪うだけじゃ飽き足らず、データまで壊しにきやがったか!」
健太が椅子から飛び上がり、すぐに鷹の隣に駆け寄る。
梨央は慌てる様子もなく、素早くキーボードを操作してデータのバックアップを確認する。
「大丈夫……完全に消されたわけじゃない。敵が手を加える前に一部は守ったわ。」
「さすが梨央。」鷹が静かに頷き、すぐに状況を整理する。「敵はこのデータを守りたいんじゃない。逆に、この情報が明るみに出ると自分たちが危うくなる。だからこうして妨害してきた。」
「だとしたら、ここに相当な核心が隠されてるってことだ。」健太が拳を握りしめる。「この情報、何が何でも奪われるわけにはいかねぇ!」
「その通り。」鷹は静かに頷いた。「梨央、復元が終わり次第、この行動ルートの次の目的地を特定してくれ。健太、五条さん、それまでにこちらの守りを固める。」
梨央が自信満々に微笑む。「任せて。すぐに復元してみせるわ。」