「こりゃ話し合いじゃ済まないってことか……!」
翌日、東京都心の高層ビル街の一角にある「トリプルスター・インターナショナル」のオフィスビルに、健太が姿を現した。スーツ姿で堂々と受付に立つ彼の手には、名刺が握られている。
「本日、物流プロセスの効率化についてご提案させていただきたく伺いました。私、○○物流コンサルティングの田中と申します。」
受付嬢は特に疑う様子もなく微笑みながら、健太を社内へと案内した。その裏で、健太は冷静に周囲を観察していた。
(さて、どんな情報が掴めるかな。)
オフィスの奥へと進みながら、健太は内心の高揚感を押し殺し、任務への集中を高めていった――。
健太は、案内されたオフィスの一角で「営業部長」と名乗る男と向かい合っていた。
背広姿の男は親しげな笑みを浮かべながら、健太の差し出した資料に目を通している。
「なるほど、物流効率化の提案か。面白そうだね。」
営業部長はそう言いながらも、目線は資料ではなく、健太の様子を伺うように泳いでいる。
(おっさん、探りを入れてるのか?俺が誰か気づいてるか?)
健太は内心を読み取られないよう、柔らかな笑みを浮かべたまま返した。
「はい。特に貴社のような急成長中の企業には、物流改善が大きな成果をもたらすと考えています。」
言葉を繰り出しながらも、健太は部屋の奥にある大型モニターに注目していた。そこに映るのは、トラックの移動ルートを示すリアルタイムの物流管理画面。
(これだな……おそらく輸送艦と繋がるデータがあるはず。)
「では、ここで少しお待ちいただけますか。社長にお伝えしてまいります。」
営業部長が立ち上がると、健太は慌てる素振りも見せず頷いた。
「もちろん、お時間はたっぷりありますので。」
部屋に一人きりになると、健太はポケットから小型のUSBデバイスを取り出した。
(梨央の準備したこのおもちゃ、頼むぜ。)
彼は慎重に立ち上がり、モニターの下にある管理端末に歩み寄る。
「ふぅ、意外と警備は緩いな。」
声に出さず呟きながら、端末にUSBを挿し込み、プログラムを起動した。
数秒後、彼のイヤピースから梨央の声が聞こえてくる。
「接続確認したわ。データをコピーするけど、急いで。誰か戻ってくるかもしれない。」
「了解。」健太は短く返事をして周囲を警戒する。
その瞬間、背後でドアが静かに開く音がした。
「おや、何をされているんですか?」
低く冷たい声が部屋に響き渡る。振り返ると、営業部長ではない、スーツ姿の別の男が立っていた。
その目は明らかに敵意を宿している。
(しまった、セキュリティか!)
健太は咄嗟にUSBを引き抜き、笑顔を装った。
「いやー、ちょっと資料を見てたら、端末に触っちゃったみたいで。これ、貴社の物流システムですか?素晴らしいですね!」
しかし、男は無表情のまま懐に手を伸ばした。その動きに気づいた健太は即座に身構える。
「こりゃ話し合いじゃ済まないってことか……!」
次の瞬間、男が懐から取り出したものは拳銃だった。
「動くな。ここでじっとしてもらおうか。」