「全員、それぞれの持ち場で動いてくれ。」
東京湾・輸送艦「しらたま」の沈没現場周辺。
「じゃ、オレはちょっと泳いできますわ!」
西崎 健太はおどけた口調でそう言うと、防水仕様の通信機を耳に装着し、黒いウェットスーツ姿で波打つ海面に飛び込んだ。
「慎重に行動しろ。見つかったらただじゃ済まない。」
東雲 鷹が冷たい声で通信越しに告げるが、健太は軽く肩をすくめただけだった。
「大丈夫っすよ、リーダー。オレを捕まえられるヤツなんていませんから。」
海中に潜り、沈没現場付近の様子を探る健太。散乱する船体の破片の中に、錆びた金属とは異なる異質な機材の破片を見つける。それを慎重に撮影しつつ、通信を入れる。
「鷹さん、これ、多分軍用だ。普通の輸送艦に積んでるもんじゃないっす。」
同時刻、仮設指令室内
「……確かに不自然ね。」
神崎 梨央はノートパソコンを前に、輸送艦の航行記録データを解析していた。その手元の画面には、膨大な数のログデータが流れている。
「沈没前の20分間、外部からのアクセスログが異常に増えてる。それに、これ……暗号化されたデータを発信してる形跡があるわ。」
「暗号化されたデータ?」
東雲が彼女の後ろに立ち、その画面を覗き込む。
「ええ。この艦が、ただの輸送任務だけをしていたとは思えない。誰かが、国家機密に関連する情報を盗み取った可能性があるわね。」
彼女の指先がキーボードを叩き続ける音だけが響く中、画面に暗号化されたファイルの一部が表示される。
「アクセスの出元を特定できるか?」
「やってみるわ。でもこれ、かなり手の込んだハッキングよ。」
海上保安庁の仮設検視室
「さてと、これがどうして死因になったか調べるかね……」
五条 剛は引き揚げられた遺体に向かいながら、軽く呟いた。その目は鋭く、手元の検視器具を正確に操る。
「……やっぱりおかしいな。」
防護マスク越しに漏れる声には、独特の興奮が混じっている。
「普通の爆発じゃこんな毒物は出ないはずだ。それに、この痕跡……化学兵器の類だな。」
検視レポートに手を動かしつつ、通信機を手に取る。
「鷹さん、これただの爆発じゃない。船に積んでた何かが原因で毒性のガスが発生してる。」
「つまり、その『何か』が沈没の鍵だということか。」
東雲の声が通信機越しに響く。
仮設指令室
各メンバーの報告を受け、東雲は冷静に情報をまとめる。健太が発見した軍用機材、梨央の暗号データ、そして五条の毒物痕跡。全てが繋がり始めていた。
「……この輸送艦、『国家機密に関連する積荷』を運んでた可能性が高いな。」
「国家機密って具体的に何を?」
梨央が問いかけるが、東雲は答えず、壁に貼られた現場写真に視線を向ける。
「それを知っているのは、退艦した連中か、このデータの送り先だ。」
「じゃあ、次の手はどうするんです?」
通信越しに健太が尋ねる。
「退艦者の素性を洗い出す。梨央、暗号データの復元を急げ。五条さん、毒物の成分特定を頼む。全員、それぞれの持ち場で動いてくれ。」
東雲の指示に、メンバー全員が静かに頷き、それぞれの任務に戻っていった。