「さて、『クロスリンク』の出番だな。」
東京湾の沈没現場に到着した特別捜査部「クロスリンク」のメンバーたち。朝日が水平線から昇り始め、薄暗い海面に火の粉のような油膜がきらめいていた。焦げた金属と煙の匂いがまだ鼻を刺し、空気には不穏な緊張感が漂っている。
「これは派手にやられたな……」
警視庁の捜査艇の縁に肘をつきながら、西崎 健太が軽く口笛を吹いた。
目の前には、爆発の衝撃でひしゃげた船体の一部が浮かんでいる。かつて「しらたま」と呼ばれた輸送艦の残骸だ。周囲では海上保安庁や自衛隊の小型艇が慌ただしく動き回っているが、そのどれもが手のつけようがないという様子だった。
「遊んでる場合じゃないだろ、西崎。状況は思った以上に悪いみたいだ」
東雲 鷹が静かに言い放つ。その低い声には、一切の甘さがない。
「悪い、ねえ。リーダー、これ『事故』で片付けられる感じじゃないっすよね?」
健太が肩をすくめた。
東雲は答えず、静かに甲板へと目を向けた。引き揚げられた破片の中に、どう見ても不自然な痕跡がある――焦げ跡が規則的に並び、中心には奇妙な円形の穴。まるで何かを仕掛けた痕のようだ。
「これを見ろ」
近くにいた神崎 梨央が無言でタブレットを差し出す。その画面には、輸送艦の航行データと行動記録が映し出されていた。
「沈没する数十分前、一部の乗組員が艦内の物資保管区画に集まっているのが確認できます。そして――」
彼女が画面をスワイプすると、最後の記録が映し出された。
「これ……?」
健太が画面を覗き込み、眉をひそめる。
「船の通信システムに外部からのアクセスログがあるわ。通常、外部からの通信は制限されているはずなのに……誰かがシステムに侵入した形跡があるの」
「ハッキング、ってことか?」
東雲が眉をひそめる。
「その可能性が高いです。そして、沈没直前に退艦した乗組員たちがいた。どうも単なる偶然には思えませんね」
「退艦したって? 何人だ?」
「確認できているのは四人。でも、全員揃って『命令に従っただけだ』としか言わないんです」
「命令、ねぇ……。」
東雲は甲板の跡をじっと見つめ、視線をさらに遠くへ投げた。その目は鋭く、まるで見えない敵を射抜こうとしているようだった。
「梨央、ログを徹底的に洗え。健太、沈没現場周辺を捜査してくれ。五条さんは遺体の検視だ。この現場、どう考えても事故じゃない。仕組まれたものだ。」
その声には確信があった。そして、その背中からはリーダーとしての揺るぎない信念が滲んでいた。
「さて、『クロスリンク』の出番だな。」
東雲は静かに呟くと、現場の空気がさらに緊迫感を増した。