第98話 元長官のデビューまでカウントダウン
すぐ横を、半人半馬にライダージャケットを纏った人が通過したので、マシロがビクっとした。
そして慌てて、「あっ、すみませんすみません」と謝る。
ケンタウロスの人も、「いえいえ、まだこの街は俺たちみたいなのが少ないですもんね。びっくりさせちゃってごめんなさいね」と笑った。
あの夏から、この世界には人間ではない人々が住み着き始めている。
エルフだとか、ドワーフだとか、ケンタウロスだとか……。
彼らはダンジョンの起源と同じ世界からやって来ていると考えられている。
世界的に、ダンジョン禍による人口減少に悩まされていたから、彼らは新たな人類として受け入れられることになった。
配信者が同接を力にしてダンジョンと戦う以上、人口は武器だもんな。
そして彼らは、そのものが人類よりも強かった。
銃などが通用しなかったり、素で魔法を使えたり、自動車と同じ速度で走れたりする。
つまり、配信者向きの種族だったし、本人そのものがダンジョンに対抗できるようになっていたわけだ。
異種族脅威論などはありつつも、人口問題解決の大きな一助! ということで、彼らはこの世界に現れてからごく短期間で、市民権を得ている。
「……ってのも大京さんが頑張って通した政策なんだけどよ。今度の長官は前任者の政策を全部ひっくり返すつもりで」
「アホ過ぎる……」
「うちの会社も困ってるッス! 護符の発行が政府の認定したNGOしかできないルールにするとかいう話も来てて、値段も倍に上がるッスよ!」
「官民癒着だー!」
『これは亡国の兆しですねー! なんか政府の内側に魔の側の存在が入り込んでません?』
もうそれを疑うレベルの大異変だ。
頭がすげ変わった迷宮省は大暴走を続け、その全てが裏目に出ている。
たった二週間かそこらでこの騒ぎだ。
このままじゃ、本当に国がバラバラになる。
俺とチャラウェイとマシロで、難しい顔をして焼き肉を食べた。
すると肉は大変いい香りがするし、ライスに乗せて食うと実に美味い。
すぐに機嫌は直ったのだった。
「ま、あれは長く保たないっしょ。なんか当初は中林長官を持ち上げてたマスコミが、こぞって叩き出してるし」
「そりゃあね、本当にヤバい状況だってのが分かったんだろ。ダンジョン行政はこのままじゃおしまいだし、その失敗のツケを払うのは国民だし……って、なんでここで政治の愚痴言ってるんだ」
いや、それだけ世の中がひどいってことなんだけど。
話題を戻そうということになり、テーマを確認することになった。
「えーと、まず、フォーガイズ結成は大京さんのデビューの後にやることにするぜ。これで大京さんを応援する意味もあるんだが……。はづきっちがあの人のバックについたからな……。成功が約束されてしまった」
「はづきっち可愛いッスよねー! 現役女子高生って本当なんスか? あ、でも可愛さならうちの人の方が可愛い」
「ふふふ、スパイスの可愛さはかなりのもんだからな」
「おうおう、のろけてくれますねえー!」
『いえいえ、主様の可愛さはまだまだこんなもんじゃないですよ! もっと凄いの見せたげますよ!』
結局俺がいかに可愛いかという話に落ち着いてしまった。
はづきっちというのは、世界トップの配信者、きら星はづきのこと。
彼女と彼女が所属するイカルガエンターテイメントが、大京元長官をバックアップしている。
現在、常に報道が張り付き、世論としても叩く方向性みたいになっている大京元長官だ。
だが、配信を見ている側からするときら星はづきが味方をするなら、悪い人ではないというイメージが広まりつつある。
イメージ戦略大事。
ここは思ったよりも楽に、元長官のデビューを展開していけそうだ。
「俺が大京さんのためのダンジョンは押さえるつもりなんで。ダンミーが改悪されたっしょ。でもあれ、古参の配信者が持ってる特別パスがあるんだけど、こいつはまだ使えるんですよね。ってか、ダンミー管理者たちが今の迷宮省に、仕様を全部教えてないっぽい」
「信頼されてないんじゃないか。でも、それが正解だったな」
「ほんとほんと。そうじゃなきゃさらに被害が拡大してた。で、大京さんのアバターデザインはすげえ速度で進んでるみたいでさ。はづきっち、配信してもアバター作っても凄いのは本当におかしいわ……」
「世の中には天才というのが生まれるもんだからな。世界が求めた才能なんだろう……」
フロータがしきりに、英雄と呼ぶ彼女のことだ。
俺が魔女に掛かりきりになっている間、表の世界でダンジョンを通じて現れる侵略者みたいなのをボコボコにしてくれている。
あまり関わりがないタイプの人種だと思っていたんだが、この間の復活劇では大いにお世話になったし、さらにザッコのフレンドにもなってしまったしな。
今後は色々関わりができそうな気がする。
「ってことで、正式に日程と場所が決まったら連絡するんで! 俺等のコラボが先か、迷宮省がにっちもさっちもいかなくなるのが先か!」
「迷宮省が先じゃないかなあ! んじゃチャラウェイ、よろしく頼みます!」
「ウェイ! 任せてくださいよ!」
こうして食事を終え、別れる俺たちなのだった。
『特に専門的な話題は出ませんでしたねー』
「うんうん、あたしも全部理解できたッス。そんで、今が本当にどうしようもない時期なんだって分かったッス。……どうなるんスか……?」
「分からん……。なるようにしかならない。それよりも、もうすぐスパイスがデビューしてから一周年だぞ」
「おおーっ! あたしが助けてもらったあの日から一周年!? ほとんどのアーカイブは消えちゃってるッスけど、チャラウェイさんとコラボしたところにはスパイスちゃん映ってるんスよねー。今になってスパイスちゃんを知った人から、『ずっとむかしの記録がある!』『記録が抹消されているんじゃないか!?』『何者なんだこの幼女』って話題になってて」
「わはは」
面白いことになってる。
さて、それでは、元長官の準備が万事整うまで……こちらはこちらで、新たに獲得したファンのための配信を行っていくとしよう。
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