第91話 黒胡椒スパイスの帰還
「おっしゃー! みんないくぞー! あと一押しだー!」
スパイスが空に浮かびながら大きな声を張り上げると、配信者のみんながうおーっと応えてくれた。
向こうでは、雀卓を囲んだ四人が役を作るたびに魔法? 陰陽術? 道術?みたいなのが発動してモンスターを蹴散らしている。
「フロータ、あれなに?」
『知らない子ですね……。なんだあの魔法体系』
フロータも知らない麻雀魔法なんてものがあるのかあ。
それはともかく、スパイスたちがモンスターの上陸を阻んでいる間に、きら星はづきが大魔将と激突した。
おおっ、海が割れた!
海底に落っこちる大魔将オクトデーモンと、それを追いかけてピョーンと跳ぶきら星はづき。
でたらめな戦いだなあ。
『ん時代ごとにぃ、魔を祓う英雄が現れるぅ。今は記録から抹消されているがぁ、百年前の大戦でもいたぁ』
「そうなの!? 百年ごとにあんなの出てくるんだー。やべー世界だなあ」
※『今明かされる世界の真実!』『そんな話をしてたら!』『スパイスちゃん後ろ後ろー!』
「おっとーっ!? トーチ!!」
指を丸めて筒に見立てて、そこから炎を噴き出して迎え撃つ!
あっちー!!
だけど我慢して、飛びかかってきたモンスターをジューッと焼いた。
『ウグワーッ!!』
「いやー、魔法使いは接近されたらダメだね! スパイスは遠距離を保つべく、もっと注意深く行動するよー! 油断ダメ、絶対!」
※『うんうん』『スパイスちゃんは注意しまくっててもとんでもない目に次々遭うからなあ』ランプ『我々が記憶を取り戻せたから良かったようなものの』
「ほんとだねえ! 魔女もあと5人いるから、体を大切にしながら仕留めていかないとね! おっと! 海の向こうから『ウグワーッ』って大きな声がしたね! 空が晴れていく~!! どうやら終わりみたい」
周りにいた、魚介類モンスターたちが次々に地面に倒れ伏し、ピチピチ跳ねたかと思ったらジューッと肉体が蒸発していく。
残るのは骨だけだ。
その骨もカラカラに崩れて、吹き付けた風に流れていってしまった。
そして……。
差し込む日差しが暑い!!
夏ぅ~!!
こうして、大魔将オクトデーモンを迎え撃った近年最大級の戦いは幕を閉じたのだった。
いや、スパイスは途中で耳にして参加しただけなんだけどね!
なんか利用させてもらっちゃったなー。
それに、ザッコのフレンド欄にあのきら星はづきが増えた。
現代の英雄だよ、英雄。
恐らくコネと考えると、これ以上のものはない。
まあ、御本人は気さくに新人配信者たちに声を掛けて回る人柄みたいだし……。
そこまで重い意味合いはないだろう。
こうして配信を終了したスパイス。
物陰でショウゴに戻って、さて帰宅だ。
せっかくなので、復活した電車を使ってのんびりと帰った。
当分異世界は見たくないな。
たっぷり二時間ちょっと掛けて自宅まで戻ってくると……。
扉の前でマシロが膝を抱えて座っていたのだった。
「あっ! 暑いだろうになんて無茶を」
「うおーっ!! その声は! 先輩ーっ!!」
飛び起きたマシロの横で、半分になったスポーツ飲料が倒れた。
水分対策はしてたわけだな……。
で、走ってきた彼女が俺に抱きついてきた。
「よ、良かったッス~!! あたし、記憶が吹っ飛んでて……先輩のことも忘れてたッス! なんなんスかあれ! お陰で一ヶ月、死ぬほどつらかったあ~」
うわーんと泣き出すので、これはご近所迷惑である。
俺は彼女をぶら下げたまま部屋の中に入った。
「おやお帰りなさい……おっと」
シノがドロン、と狐に変身した。
「あれ? 誰がいたような……」
「魔導書だろう」
『そうですそうです』
フロータが口裏を合わせてくれる。
しがみついて離れないマシロを、どうにかして持ち上げる俺。
そのまま冷房の効いた室内にストン、と座らせてやった。
「麦茶を入れるから待っててくれ。水ようかんでいい?」
「いただくッス」
ずびーっと鼻をかむマシロなのだった。
その後、詳しい状況を彼女に説明した。
カバンから飛び出してくる魔導書三冊と、Aフォンのフロッピー。
四人で天井近くを飛び回っている。
「この家も賑やかになったッスねえ……。もともと賑やかだったけど……」
「こんこん」
「あれっ、シノも水ようかん食べたいッスか? 先輩、犬って水ようかんあげていいんスか?」
「基本的にはダメだけど、シノさんは特別だからあげて大丈夫」
妖怪の類だからな。
おお、もりもりと水ようかんを食べている。
そして器にある麦茶をチャプチャプ飲む。
「それで先輩、あたしは配信、休止したッス」
「見た見た。俺が原因? もう戻ってきたから、配信復活する?」
「当分しないつもりッス。っていうか、先輩のことがほんっとうに心配なんで、あたしは先輩のお手伝いをするッス!」
「お手伝い!?」
「スタッフになるってことッスー!! ほら、そのう、あたしたち結婚するんで、そういうことするのは全然自然っていうか、普通って言うかあ」
もじもじし始めた。
今さら照れるか。
「よし分かった。じゃあマシロはうちに通ってきて、配信の手伝いをやってな。スタッフとしての雇用関係にしよう。……となると……。そろそろシノさんのことも明かさねばなるまい」
「こんこん」
シノが頷いた。
「明かす? どういうことッスか? この狐っぽいワンちゃんが?」
どろんと音を立てて、シノが変身した。
狐耳少女の姿になる。
「こういうことですわあ」
「う、う、うわーっ!!」
マシロがひっくり返る。
「い、犬が女の子になった!! なんスか! なんスかこれ!!」
「女の子だけではあらしまへん。こう」
またどろんと音を立てて、今度はスーツ姿にサングラスの男性に変身した。
「迷宮省から参りました、ムラカミシノと申します。よろしくお願いします。まあ協力関係にあるだけで、私自身はフリーランスの陰陽師ですが」
そうだった、この人はフリーなんだった。
マシロが俺と一緒に仕事をするなら、この人とも顔合わせしておかねばならない。
思わぬ専任スタッフの登場に、マシロは目を白黒させるのだった。
さて……挨拶する二人を背後に、俺は俺で作業をしなくちゃな。
始まりの140人に、サンキューボイスとオリジナル壁紙をプレゼントせねばならないのだ……!!
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