第88話 辿れ、お台場までの道
「迷宮省から連絡でーす! 目的地、お台場!」
※『そうか、大魔将との東京湾決戦だから』『見栄えのするところでやるんだなー』『ここならスパイスちゃんも目立てそう』
「うんうん、大魔将は凄いとこ狙ったよねー! 目立てたらいいなー」
空を飛びながら、現地へ向かっている。
お台場付近じゃないけど、まあまあ近くに降りられる魔法陣……ゲートは以前にも使ったことがある。
あ、いや、業平橋は墨田区だから、江東区にあるお台場……東京テレポート駅へは遠いか……?
『恐らく魔法陣の座標が、あの辺りに曖昧に設定されてるんだと思いますねー。私いじりましょうか?』
「フロータそんなことが!?」
『はっはっは! 浮遊の魔導書は空間をも操りますからね! 人間の作った原始的な魔法陣くらいならちょちょいのちょいですよー』
心強い!
『ちなみに専門家は色彩の魔導書でやんす。あのお人はあらゆる細々としたことのエキスパートでやんして、フロータはこれを横から見て技を盗んだわけで』
『ゴラァ!! ばらすやつがあるかー!!』
『ギヒェーッ!! 空中で角をぶつけてくるのは勘弁でやんすぅ!!』
※『スパイスちゃん回りが本当に賑やかになっていくなあ!』『話聞いているだけで面白い』
「ねー。スパイスがなんも喋らなくても間が持っちゃうよー。あ、みんなみてみて。あれがね、毒の沼地。ドラゴンがいるねー。こっちを嫌そうな顔して見上げてる。あっ、シッシッってした!」
※『超嫌われてて草なんだ』『まあねえ、二回もとんでもないことに巻き込まれたらねえ』『二回ともスパイスちゃん無事に戻ってきてるし』『二度あることは三度ある』
「うんうん。スパイスとしてもドラゴンにはお世話になっちゃったからねー。今度お礼の品を持ってこようかなあ。ねえみんな、ドラゴンは何が好きだと思う?」
これは魔導書たちとリスナーに呼びかけた言葉。
『やっぱりドラゴンならいけにえじゃないですか? 幸いこの世界は死にたい人もちょこちょこいますから連れてきたらいいんですよー!』
「うわあ洒落になんないってフロータ!」
『んそうだなあ! 毒に関係したものぉ……! 広義の毒なら激辛食品もぉ含まれるぅ! この間コンビニで見た激辛拉麺を作ってやるのはどうだぁ!』
「あー、いいねそれ!!」
※『激辛ラーメンを食べるドラゴン!』『草』『ウケるw』
『あとはそうでやんすねえ。あいつの毒は相手を腐らせたり溶かしたりするでやんす。つまり酸性のものを愛していると思うんで、なんかシュワシュワした飲み物とかないでやんすか? ドラゴンは発泡性の酒を好んだりするでやんすよ』
「なーるほど! ビールだ! あるいはコーラだ!」
激辛ラーメンにビールとコーラ!
これだ、これで行こう。
スパイスが完全復活した暁には、お礼をするからねー。
ドラゴンが下の方で、怪訝そうな顔をしていた。
あれはこっちの会話が聞こえてたなー。
ということで到着でーす。
「前にチャラちゃんと地上を行った時はめちゃくちゃ危険だったのに、空だと安全だねえ」
『あんなに空中のモンスターと遭遇したのにでやんすかぁ? ま、あっしがいりゃあ三下のモンスターなんざ物の数でもないでやんすけどね!』
『きぃーっ、メンタリス風情が調子に乗ってー!』
フロータが悔しそう。
だが、実際にメンタリスの精神魔法は役立った。
マインドチルの力は最小限の魔力で行使できるから、あっという間にモンスターたちのやる気を削げるのだ。
なるほど、精神の魔法、低級である方が使い勝手がいい……。
『じゃじゃーん! ここで嬉しいお知らせでやんす! 主が魔法を使いまくったお陰で新しいページが解放されたでやんす~! はい、これロックオン。こっちはマインドショック』
「ほえー、どういう魔法なの?」
『ロックオンは他の魔法と組み合わせて使えるでやんすねー。あっしら魔導書やフロッピーちゃんと協力して、対象をロックオンするでやんす。この対象に必中の魔法を放つか、あるいは仲間を範囲魔法の対象外にするかを選べるでやんすよー』
「うおーっ、便利じゃーん!! 超絶便利な魔法だよ! なんで精神の魔女は使わなかったのさ!」
『あいつ友達がいなかったでやんすからねえ』
「あっ」
※『それ以上いけない』『悲しいなあ』『うッ……』
炎の魔女への思慕も、一方通行だったのかも知れない。
ロックオンでターゲッティングするまでもなく、世界の全てが魔女の敵だったのだ。
で、精神支配にこだわってたのはなんか復讐みたいなものだったのかもなあ。
なので負けた!
チルとかロックオンとか使ってきてたら絶対にヤバかったよ!
「おっと、ここでもう一回センスマジック!」
ピコーンと広がっていく虹色の波紋。
向こうでドラゴンが波紋をペチッと叩いて打ち消している。
もう対抗方法を思いついたか。
こっちはこっちで、目的地を完全にサーチした。
空をびゅんと飛んで到着だ。
魔法陣がぼんやりと光り輝いている。
「異世界に来てからたった一時間半で到着しちゃったよ! 近いっちゃあ近い」
※『地方住みだから感覚わかんないけど、電車乗るより早いのかな』『場所によるなー』
そうだねえ。
スパイスの家からだと電車より一時間早いかな?
ここで降り立ち、フロータに魔法陣の調整を任せるのだ。
『ちょっと待ってて下さいね。ええと、ここをこうして、ちょいちょいちょいっと。ほほーん、向こう側からも迷宮省が手伝ってくれてるみたいですねー』
『あっしは主とフロッピーちゃんに魔法を教えるでやんすよ。マインドショックは相手の精神を揺さぶって放心状態にさせる魔法でやんす。格上には効かない……なんてことは全然なく、ふつうに精神に衝撃を与えられるでやんす』
「えーっ!! 精神の魔法は格上にも通じたの!?」
『一般的な攻撃魔法なんで通じるでやんすが、不思議なことにあっしを所有した魔女は相手の支配とか洗脳にこだわるでやんすよ。こういう単純なショックを与えるだけの魔法なら誰にでも使えるでやんすのにねえ。魔法によるダメージは軽微でやんすが、場合によっては致命的な隙を作れるでやんす! ちなみにあっしが独自に試したでやんすが、AIが入ってれば機械にも通じるでやんすね。この場合は割と致命的なダメージになったりもするでやんす』
「やばー!!」
※『スパイスちゃんが超絶パワーアップしてしまった!!』『精神の魔法やべー!』『やっぱ何もかも使い方なんだなあ』
『感謝しますお兄様。魔法を記録しました』
『うへへ、フロッピーちゃんは素直でいいでやんすねえ~』
デレデレじゃないかメンタリス!
『ん俺も負けてはいないぞぉー! このフレイムウイングを受け取れぇ主ぃ!!』
「うわーっ、魔法のスロットが強制的に拡張されたー!! なあにこれ?」
『炎の翼で左右を一気に攻撃するぅ! 熱によって生まれた揚力で飛び上がれるぅ!』
「見栄えするなー!!」
突然パワーアップが連続するじゃん!
コメント欄も大盛り上がり。
見せて見せてと言われたので、スパイスはフレイムウイングで飛び上がったのだ!
おー、レビテーションよりも不安定だけど、面白そう。
これは研究のし甲斐があるねー。
『終わりましたよ! お待たせしました主様~!! あーっ!! 二人とも勝手に魔法を教えてるんじゃないですよーっ!!』
フロータが戻ってきて、ついに準備は完了。
魔法陣が起動した。
スパイスの体を光が包み込み……。
次の瞬間、荒れ狂う海が見える場所に立っていた。
「到着! お台場だー!」
※『うおおおおおお』『目的地ー!!』『回りにもたくさん配信者いる!』
うんうん、見知った顔も、見知らぬ顔もたくさん。
そして今まさに、太平洋側から何かの群れが迫ってくるところだ。
いきなりの決戦かあー?
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