第84話 決着はドラゴンで!
「こっちこっち! センスマジック!!」
再び魔法を使うと、虹色の波紋が広がっていく。
これがドラゴンに当たると、遠くで羽ばたきが大きくなった。
怒ってる怒ってる!!
さて、ここからは……。
「地上でたくさんのモンスターたちがスパイスを見上げているわけですが、あそこに降りるのはちょっとねー。空という圧倒的に有利なところから攻撃させてもらうよ! ファイアボール!!」
魔女めがけてファイアボールを落とす。
これは、飛び出してきたモンスターが庇った。
うんうん、そうなるよねえ。
「ぬぎぎぎぎ!! 降りてこい! 卑怯者ーっ!!」
「相手を精神支配して使って、自分は隠れてる魔女に、そんなこと言われる筋合いないですよーう」
「ガキがーっ!! 許さねえええええ!!」
画面には翻訳が出てると思われる。
コメント欄が湧いている。
※『キレてるキレてる!!』『ナイス挑発!』『でもさっきあいつが魔法使った時、なんかグラッとしたな』『リスナーに攻撃してくるやつ!?』
そうなんだよねー。
こちらは数が多いから、一人ひとりが受ける影響は限定的だと思うけど……。
恐らくスパイスが思うに、ヤケクソになった魔女に一旦みんな記憶をふっとばされると思う。
ただ、それだけの力を使ったら、精神の魔女もただでは済まないんじゃないかな。
『まあ使ってくるわけないですよねー! おっと、アバズレが巨人型のモンスターを呼んできましたよ! 空に向かって攻撃してきますねこれは!』
「ほいほい! スパイラル準備! まあ、でもスパイスは常に最悪の事態を想定してるからね。あいつは自爆覚悟で魔法を使って、スパイスは巻き込まれて色々ゼロに戻ると見た!」
※『ゼロに戻る?』『スパイスちゃん何を言ってるんだろう』『ははーん、読めたぞ』
勘の良いリスナーがいるねえ……!
「ちゃんとそのために備えてきたんだからね。さいごはASMRをみんなに伝えられる場所を、後々に用意できればよし! なんかたくさんの人が見てる場で、スパイスにスポットが当たるような……」
『うおーっ、主様の深遠なお考えー!』
『ん深謀遠慮ぉ! 社会人経験とやらがぁ、生きているなぁ!』
「事故が発生する前提で仕事はやってかなきゃ嘘でしょー! そのためにスパイスは常に余裕を持って行動してますから!!」
「一人で話を進めてるんじゃねえーっ!!」
精神の魔女が吠えた。
下からは、投石機でがんがん巨大な岩が打ち上げられてくる。
これはスパイラルでギリギリそらすので精一杯だなあ!
一瞬気を抜いたら撃ち落とされちゃう!
「お前みたいなガキが、フレイヤを殺しただと!? フレイヤは……フレイヤはもっと強くて綺麗で、わたしたちの一番前を走ってるやつだったんだ! あんな綺麗なフレイヤがどうしてお前なんかにやられなくちゃいけなかったんだ! フレイヤはいいやつだったのに! わたしの憧れだったのに!!」
「お涙頂戴で来たねー! 私達も人間なんだ、ひどいことをするなーって。これ、反社の論理です」
※『うおおスパイスちゃんドライ!!』『サクッと切り捨てたな!』
「こういう身内に人情がある人ほど、身内以外には冷酷だからね! 世界の過去に起きた虐殺とかそういうのは大抵、こういう人情家が起こしてるよ! 怖いねー!」
『主様がアバズレのウェットな話をカラッカラに乾かしましたよ! さっすがー!』
『ん血も涙もなぁい』
「あるよ!! ってことで、炎の魔女はスパイスに仕掛けてきたので罠にはめて宇宙までぶっ飛ばしたよ! 宇宙なら酸素がないから、炎も燃えないもんねー」
「なんで! なんでそんなひどいことをする!! わたしはお前が許せない!! だから私はこうやってお前を殺すために、ずっと仕掛けて……!」
「まあ、君ら、うちのおばあちゃんの仇だからねー。それにスパイスはまだ弱いので、使えるものはなんでも使います! はい、ご到着~!」
『モギャオオオオオ!!』
物凄い咆哮が響き渡った。
グリーンドラゴンが到着したのだ。
※『ド、ドラゴンだーっ!!』『でかい!! でっかい!!』『うわあああああ、スパイスちゃん逃げてー!!』
モンスターたちは精神支配されていなければ、気付いていたことだろう。
精神の魔女も冷静だったら、スパイス以外の存在を察知できたと思う。
だけどねー、全部スパイスに意識を集中させてたからね。
こんな大きなモンスターがやってくるのに気付けなかったね!
『我に何度も魔力の波を当てて挑発するとは、いい度胸だちびめえええええ!! この場で骨も残さずブレスで溶かして……あいたっ!!』
巨人型モンスターが下から打ち上げた岩石が、グリーンドラゴンにごつーんと当たった。
ドラゴン、キレた!
「今は小声で話しておくね。ドラゴンはスパイスがわざと呼び寄せたんだよね。あらゆる相手に敵対的なやつだけど、それはつまり魔女の敵でもあるので……」
『我に石ころをぶつけるとは、舐めてるのか貴様らーっ!! かーっ!!』
出た!
毒のブレス!!
地上に群がる、魔女の尖兵モンスターたちに浴びせかけられる。
そうすると……。
『ウグワーッ!!』
次々にモンスターたちが溶けて、毒の沼みたいになっていくではないか。
これがグリーンドラゴンの力だ!
うーん、桁違い過ぎる。
「な、なんだ……! なんだお前、お前ぇ……!! いきなりやって来やがって……!!」
「スパイスが呼んだんだよーん。こっちも危ないけど、それはおたくも一緒でしょー。ともにピンチを乗り越えようよー。やれたらだけどーぷぷぷー」
「く、く、クソガキィィィィ!!」
精神の魔女が絶叫した。
※『うおおおスパイスちゃんの煽り炸裂!!』『メスガキ力があまりにも高い!!』『でもスパイスちゃんどうやって乗り切るんだ!』
「そこは今から考える!!」
社会人にはアドリブも必要だからね!
グリーンドラゴンはスパイスと魔女を交互に見た後、まずは相手が楽そうな魔女に狙いをつけた。
毒沼に囲まれた魔女は、もう逃げも隠れもできない。
「くそっ、くそーっ! 精神を……お前の精神を支配してやるーっ!!」
精神支配一辺倒だあ!
フロータの言ってた通りだなあ。
魔女が放った魔力の波みたいなのが見える。
だけどそれは、ドラゴンに当たって弾けてしまった。
もちろん、ドラゴンは激怒する。
『性懲りもなく我に魔力の波をぶつけるかあぁぁぁぁぁっ!! 挑発か!? それは我を挑発してるのか!? いいだろう! 貴様は溶かすのではなく食らってくれる! あー、毒のないもの食うとちょっと腹を下すのだが仕方ない……』
ドラゴン、渋々といった感じで魔女に襲いかかる!
必死に逃げようとする魔女だが……。
守りであるモンスターを失ってはどうしようもない。
「ぎゃあああああああ! おのれっ、おのれーっ!! せめてわたしの命を使って、お前の全てを奪ってやるーっ!!」
ドラゴンに咥えられ、今まさに飲み込まれつつある精神の魔女。
目を血走らせながらスパイスに向けて叫んでる。
きたきた、来ましたよ。
「みんなー! ちょっとの間だけお別れだよ! でも、必ずスパイスから見つけに行くからね!」
※『どういうこと!?』『お別れって……?』『うひゃー、画面端で丸呑みがーっ』
「グレート・メモリーバッシュ……っ!!」
ごくんと飲み込まれた。
だが、魔女の断末魔みたいな魔法が、物凄く大きな黒い魔力の波になって広がっていく。
『ぬわーっ!?』
「うわーっ!?」
※『うわーっ!!』『なんだこれー!』『ひえーっ!』『きゃーっ!!』『頭が真っ白になるーっ!!』
スパイスの視界も真っ白になって……。
『主様! 主様! 起きてくださいよー!』
『ん主よぉ! 大変なことにぃなっているぞぉ!』
『主様がこのまま死んだら、あっしは無罪放免でやんすか? ヒャッホー!』
『んーなわけあるかい!』
『ウグワーッ!?』
「うるせえー!! スパイスの上で暴れるなー!!」
ガバっとスパイスは飛び起きたよ!
そこは、紫色の空をした、明らかに地球ではない場所。
思い出す。
異世界だ。
魔女の魔法にふっ飛ばされて、スパイスは気絶していたみたいだねえ。
傍らにフロッピーが落っこちている。
電源が切れてる?
スパイスが触れると再起動した。
スリープモードだったんだね。
「どれくらい寝てた?」
『はい。精神の魔女との戦いから、一ヶ月半が経過しています。8月です』
「な、な、なんだってー!?」
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