第83話 対決、精神の魔女
精神の魔女に支配されているであろう、空を飛ぶモンスターが襲ってくる。
傾向は……。
「翼の生えたゴブリンみたいなのがいっぱい」
『グレムリンですねー。本来は自由にやらせて、機械とか仕掛けの類を扱わせると一級品なんですけど、これだけの数を操るとなるとそれぞれの個性を殺さざるを得ませんから』
「つまり?」
『運用方法大間違いですねえー。精神の魔導書は卑屈なやつなんで、持ち主を全肯定するばかりでそういうの指摘してくれませんからね!』
「うわーっ、諍いを避けるだけの駄目なタイプの指導者みたいな!」
※『フロータちゃんの説明が分かりやすい!』『そっか、精神の魔女って宝の持ち腐れか』『精神の魔法って言ったらもっと色々できそうなのにね』
「ほんとにね!」
ところで問題がある。
精神の魔女は人間の姿をしている。
ということは、リスナーからは人VS人に見られてしまうということだ。
これがよろしくないのは……。
人が人を殺めるような映像は、大変に問題があるのである!
この大ダンジョン時代でも、倫理観はそれ以前とそこまで変わらないところがあるからね。
『そうですね、その辺りはちょっと考えながらやりましょうか』
そこまで余裕を持てる相手かな?
『本人は弱いんですよー。あいつが取り巻きを連れてるのが厄介なだけで。今代の精神の魔女は才能が無いですねー。全肯定する魔導書にすっかり流されてます。先代は魔導書の言う事を信用しなかったんで強かったんですけどねー!』
なるほどなあ……と念話でフロータと会話するのだった。
まずは飛行しながら、モードチェンジ!
「まずはASMR! 飛頭蛮マイクで……からあげさんレギュラーでください……」
スパイスの声が響くと、グレムリンたちの動きが明らかに鈍くなった。
ゆらゆら揺れて、全然統制が取れないままバラバラに襲ってくる。
「メタモルフォーゼ! イグナイト・スパイス!」
オレンジの光に包まれて、いつものゴスロリドレスにオレンジの差し色が入ったイグナイトモードに変身!
手にした様々な筒から、トーチを飛び出させる。
「おりゃー! 寄らば斬るー!!」
ヘロヘロになりつつ襲ってくるグレムリンを、片っ端からトーチを押し付けてじゅうっと焼く。
そう!
トーチは炎が吹き出してるだけなので切れない!
でも、羽の一部が焼けるとグレムリンの飛行能力が大きく落ちるみたいで、ギャーッと言いながら落ちていく。
戦力としてはそこまで強くないっぽい。
『八咫烏が頑張ってますからねー! なんなんですかあの人? 一人でスタンピードと戦える人間なんているんですか?』
「配信者にはちょこちょこいるんだよ……」
ドン引きのフロータに教えてあげるのだ。
なんなんだろうな、配信者!
「よーっし、ファイアボールも行くぞー!! とびだせ、ファイアボール!! これをトーチで……カキーン!!」
ファイアボールを撃ち出す!
それがグレムリンの群れの中で炸裂した。
何かにあたって砕け散るファイアボールは、対集団戦で威力を発揮するのだ!
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
ファイアボールを連発しながら、爆風の中を通過!
イグナイトモードの時は、炎でダメージを受けないからねー。
おお、熱風が涼しい。
『ん主ぃ! ファイアボールに習熟したようだなぁ! ではぁ! 爆裂火球の制限を解除するぅ!!』
「爆裂火球!?」
※『新しい技来たー!!』『どんなのなんだ!?』『使ってみて使ってみて!』
「ほいほーい! 弾け飛べ、爆裂火球!!」
読みはエクスプロード・ファイアボールね!
でっかい火球が出た!!
これをつん、とトーチで押し出すと、ボーリングの球みたいに空中をゴロゴロ転がっていく。
グレムリンの群れがこれを警戒してちょっと散開したけど……。
ASMRはそんな彼らのなけなしの統制を奪っている!
爆裂火球は構わず、その場で大爆発を起こした。
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
爆発でけーっ!!
数十匹のグレムリンが巻き込まれて、消し炭になる。
ダイナマイトとかTNT爆薬とかそのレベルじゃん。
「たまやー! でも現実世界だとそこまで威力ないはず」
『ん爆裂火球レベルならぁ、主の力がもうちょっと上がるとぉ、現実でも小さなビル一つくらい粉砕できるようにぃなるぅ』
「やばいやばいやばい」
炎の魔導書、殺意高すぎでしょ。
だけど、この爆裂火球で空の敵影は大体なくなった。
生き残りのグレムリンは衝撃で我に返ったらしく、すごい速度で逃げ出している。
うんうん、死地に飛び込むのはよくないからね!
そして到着です、精神の魔女上空!
「来たなあ、クソガキ魔女めえええ!! ずっとずっとわたしをコケにしやがってええええ!!」
下から魔女が怒鳴っている。
小物……!!
圧倒的小物……!!
だけど、能力だけは一流なのは分かってる。
「あんまり距離を詰めすぎると、よくないっぽいからね……」
※『よくないって何が?』『やっちゃえスパイスちゃん!』
「お前の取り巻きを消し去ってやる!! メモリー・バッシュ!!」
あっ、ヤバいの来たぞ!
スパイスは慌てて、何も見えないけど回避行動に移った。
そしてコメント欄に……。
※『あれ? 私、なんでこの配信見てるんだっけ?』
そんなコメントが流れ……同接がちょっと減る。
リスナーの記憶をふっとばしたな!
やっぱり!
こいつの攻撃の一番やばいところが来た。
これを本格的にやられるまえに仕留めたいが……!
『主様! センスマジックがドラゴンの接近を感知! またあいつが来ますよー!!』
「うおおおお、魔女との戦いに凄い乱入者がくるーっ!!」
「クソガキがーっ! お前の何もかもを奪ってやるからなーっ!! わたしは、わたしは百年以上生きた大魔女なんだぞーっ!!」
あっちは全然気づいてないし。
『あのアバズレもセンスマジックは持ってるでしょうけど……頭に血が上って使うどころじゃないみたいですねえ……。主様』
「うん、ドラゴン戦に巻き込んでやっつけちゃおう!!」
遠くに点のようなものが見えている。
グリーンドラゴンがやって来たのだ。
スパイスにとっても脅威だけど、同時にお前が勝利の鍵でもあるぞ!
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