第79話 リスナー分からせ配信
「精神の魔女関連ですけど、迷宮省としてはスパイスさんに全面協力する方向ですねえ。ですけど、異世界との境界が曖昧になった件もありますし、みんなてんやわんやな状況なんで、割ける人員はうちだけになりそうです。……たまに長官が見に来るかも……?」
「長官が!?」
つまりは委託業者であるシノが俺のバックアップを務めるという。
これは今までと変わらない。
精神の魔女の本格的な侵攻に対抗するため、迷宮省は設備や資金面で援助をしてくれるということだ。
あと、大京長官は何を見に来るというんだ。
「長官も配信したがってるっぽいんですけれどねえ」
「そうなの!? あの強面の偉い人がなあ……」
もともと、ダンジョン配信が始まる前にダンジョン潜って戦ってた人だ。
今の時代のスタイルでやってみたいのかも知れない。
スパイスのは参考にならないと思うが……?
「ほんで、今日は何をなさるんで?」
「今日は本格的に、ASMRでリスナーを分からせて行きます。ではメタモルフォーゼ・スパイス!」
光に包まれて、スパイス登場だよ!
「シノさんもASMRやるー? 絶対人気だよ、京言葉ASMR」
「やめときますー。うちがあまり表に出ると、陰陽方面からバックドア突かれそうで」
「あー。リスナーがいないとそういう危険が! それは仕方ないねえ」
「配信者って、思ってらっしゃる以上に呪的防御が強いんですよー。それこそ、同接三桁いると一流の術者並の守りになってますねえ」
「そんな凄いんだ!!」
つまり配信者の魔法防御みたいなのはとても高い、と。
物理防御に関してはこの間試してみた。
その時は同接1000人に達した段階で、梱包材のプチプチを丸めた筒を武器としてゴブリンと戦ってみたのだ。
いやあ……。
プチプチで受け止めたゴブリンのナイフが、一方的に折れたね!
同接四桁に達すると、プチプチが同じ太さの金属棒くらいの頑丈さになる。
これは配信者の肉体も同じだろう。
同様に、同接を集めると声は攻撃になり、精神攻撃になり、あるいは守りになるのだ!
ここは大手配信者企業と協力して、迷宮省が調査していたらしい。
だがある日、今や超有名配信者であるきら星はづきに協力してもらった所、計測機械、スカウターがぶっ壊れたんだそうだ。
機械の修理中なので、研究はストップ中。
スカウターの計測上限を上げないとね。
「よーし、それじゃあ始めるよ! どーもっ! こんちゃー! スパイスでーす!」
※『こんちゃー!』『どーもー!』『今日は背景が大人っぽい感じ?』『なんか紫だ!』
「今日はねー、ASMRするからねえ。本格的にやって、ペッパーどもの脳みそをかき回しちゃうぞ」
※『うおおおおおお』『きたああああああ』『よく眠れそう』『メスガキ音声助かる』
「ははーん、まずはメスガキトークをご希望だね。分かったよ! えーと、それじゃあみんな、ヘッドホンかイヤホンの準備はオーケーかな?」
※『おけ!』『いつでもこい!』『私は逃げも隠れもしない!』
「うんうん。行くよー。…………お兄ちゃんたち、お姉ちゃんたち……明日から学校とかお仕事なの? スパイスはねえ……明日は一日ゴロゴロするの~。うふふ、学校やお仕事で大変なみんなを想像してゴロゴロするの。たーのしぃ~」
※『ぐわあああああ』『うわああああ』『ギャピーッ』
おっ、コメント欄でのたうち回るリスナーが見える。
これは喜んでいるのだろうか。
※『こ、こ、このクソガキィ~』『大人を舐めやがって~^^』『もっとちょうだい! そういうのもっとちょうだい!!』
「大好評だった! これはねー、スパイスが用意してたASMR音声から抜粋した、体験版です! 完全版はこの配信が終わったあとに発売するのでみんな買ってねー!」
※『うおおおおおお』『きたあああああああ』『何分くらいなんです?』
「えっとね、何日もかけて収録したんだけど、多分60分くらいある? 生意気な妹キャラのスパイスに60分煽られ続ける音声だよー」
※『買います!!』『さっきのが一時間続くの!?』『悔しさで昇天しそう』『スパイスちゃんがメスガキキャラをマスターし始めた……!』
なお、この配信の横ではシノが床をごろごろのたうち回っている。
共感性羞恥にやられたな?
そんなことじゃ配信者としてやっていけないぞ!
多分これが苦手だから配信してないんだな、この狐。
フロータとイグナイトは大盛りあがりで天井を飛び回っている。
魔導書には恥じらいというものはないからな!
「みんなの脳髄にスパイスの音声が焼き付くまで、今日は配信していくよー! じゃあここからは、事前のマロでリクエストしてもらったやつを読み上げていくねー。えーと……ハミチキください……」
※『ぐわああああ』『こいつ、直接耳の中に……!!』『あげちゃう! 売ってるの全部あげちゃう!!』
コメント欄でのたうち回る老若男女のリスナーたち。
すごい光景だ……。
「あっ、エッチなの来てる! いけませーん! スパイスの配信は全年齢向けなので、こういうエッチなのは読みません! 次!」
※『ええ~!!』『助からない』『コンプライアンス完璧過ぎる』
あまりに要望が多いので、おねだり妹ボイスは発しておいた。
のたうち回るコメント欄。
そして昇天。
「これはみんなの脳の奥底にスパイスのボイスが焼き付いちゃったなあ……」
※『一生忘れない』『忘れたと思っても聞いたら絶対思い出す』『ボイス発売はよ!』
「じゃあみんなに覚えてもらったところで、スパイスの配信はこれで終了! またねー! おつスパ~!」
※『おつスパ!』『乙スパ!』『スパ~』
配信終了!
いやあ、同接が一瞬五桁行ってたな。
とんでもないことだ。
そしてダウンロード販売サイトに登録した音声が、物凄い勢いで売れてる。
開始三十分で1000ダウンロードを超えたぞ……!
「えーと、一本千円だから手数料引いて……ははあ、三十分で飛頭蛮マイクの値段の三割強が戻ってきたねえ……」
「ASMR、おっそろしいもんですわあ……!! うちも耳が溶けるかと思った……」
シノがガクブルしているのだった。
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