第77話 効くわけないだろう、そんなの!
「効くわけないでしょそんなの! それじゃあ使徒のみんな、じっくり行くわよー。みんなから送られてきたマロを朗読しつつ、お答えASMRしながら突撃するわね」
※『お答えタイム!』『これを待ってたんだ!』『クソマロには耳を溶かす罵倒が返ってくるからなあ』『最高……!』
使徒のみんな教育が行き届いてるぅ!
マロというのは、他にも色々な呼び方がされるけど、お題箱形式で相手に匿名メッセージを届けるサービス。
配信者はよくこれをやって、そこで集まった面白いメッセージに返答をしたりするのだ。
なるほどー、これを戦闘中に、しかもASMRで……!
熾天使バトラ、なんてトリッキーなスタイルなんだ!
「バチョ、スパイスちゃんこんにちは、こんにちはー」
「こんちゃー!」
※『右耳からバチョ、左耳からスパイスちゃんの元気な挨拶が!!』『うおおお耳がビリビリ言ってる』
ごめんごめん!
なお、このやりとりだけでASMRフィールドみたいなのが発生したらしく、ヘルメットモンスターの軍勢と拮抗し始めている。
モンスターたちがグワグワギャアギャア叫びながら、武器をフィールドに叩きつけているのだ。
視認できるASMRだ。
もうなんでもありだな……。
「僕は今年大学受験をするのですが、ずっとバチョの配信を聞いてしまって勉強に身が入りません。将来のことが心配ですが、いっそ失敗したら冒険配信者を目指してみるのもいいかなと思っています。みんなと同じルートを行くんじゃなく、自分らしいルートを探せるかも知れないですし。バチョはどう思いますか? スパイスちゃんも意見を聞かせてくれると嬉しいです! だって。うーん」
戦場をぐんぐん前進し、ASMRフィールドで激しくモンスターたちと争いながら。
熾天使バトラは真面目にマロへのお答えを考えているのだ。
「私はねえ、武器は多いほうがいいと思うな。まずはきちんとみんな同じことを勉強するのはいいんじゃないかな? 好きなこと、やりたいことはそれをしながらでも、どんどん湧き上がってくるものだし。スパイスちゃんはどう?」
スパイスはスーッと息を吸い込んだ。
「社会を舐めるな~!」
※『うひょおおお』『耳ないなった』『【悲報】スパイスちゃん、ASMRはリスナーの耳破壊だと心得る』『正しい』『幼女の叱責いいぞ~』
「ということでね、スパイスも大学を出てますからね。幼女大学ですけどね、それで会社勤めしてから配信してるんで、どこからでも配信者になれるんで。身が入らない時は存分に寄り道してから、その後何時間っていう感じで短時間集中でやってくしかないよー。受験は暗記。暗記は集中力。慣れてきたら習慣化!」
※『が、含蓄のある幼女のお言葉!!』『ためになる~』『俺が若い頃にスパイスちゃんがいたらなあ』『この幼女、歳上なのではないか』
「はいスパイスちゃんありがとうございました~。これにて、このマロは昇天ということで……はい、召されまーす」
最後の一言がとびきり甘いささやきだった。
リスナーが大喜び。
ZZZとかコメント残して寝てるアピールしているのもいる。
そして、この囁きが最大火力になった。
ASMRフィールドが弾けるように広がり、一気にモンスターを飲み込んでヘルメットごと吹き飛ばした!
『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』『ウグワーッ!! 昇天~』
「聞いたこと無い断末魔あげてる!!」
「どんなに数がいても、防音装備してても、私のASMRは直接脳内を撃ち抜くからねー」
「戦闘手段だった!」
※『バチョがこんな積極的に戦っていくのは珍しい』『普段はもっと肉弾戦だもんな』
「割と味方を巻き込む攻撃だもの。普段はお手軽な白兵戦をしてるわね。スパイスちゃんはこれに耐性があると睨んだから、積極的に使用しているわ。それから……あまり連発するとありがたみが無くなるでしょ? あっ、ASMRは切り抜き禁止でーす」
にっこり笑って、画面に向けて指先でバッテンを作るバトラなのだった。
こういうところが人気なのだろう。
参考になるー。
「スパイスの配信でも色々真似していいですか?」
「もちろん! スパイスちゃんはもうバトラの弟子だからね」
「やったー! 弟子入り!」
※『カワイイ師弟』『ダンジョンASMR道が広がっちまったな』『だがスパイスちゃんは耳を破壊しに来るからな』
「そこは注意しまーす!」
こうしてずんずんと進むダンジョン攻略。
最大の建物である工場跡は、広大な空間だった。
あちこちからモンスターたちの声が聞こえてくる。
きっとこれは、精神の魔女によって統制されたモンスターたちがたくさん潜んでいることだろう……。
面倒だぞお……。
と思ってたんだけど、いきなり全然統制されてない感じでオーガとかオークがバタバタ走ってやって来た。
「おりゃ! 瓦礫アクセル! あとファイアボール!」
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!!』
「いきなり敵が統制されてないんだけどどういうこと?」
『これは恐らくですねー』
フロータが浮かび上がってきて解説してくれる。
『魔女にASMRが直撃して、とてもコントロールしてる状況じゃ無くなったんじゃないですか? あのASMRやばいですねー。魔法を使う精神集中をガンガンに乱すんで、精神の魔女特攻ですよこれ』
「ほんと!? じゃあ極めるしかないなあ」
ASMRの可能性が見えてくる~!
当然、相手もこの配信を見ているだろうから、対策はしてくるだろう。
だけど半端な対策なら真っ向からぶち抜けるというのをバトラが見せてくれたもんね。
「うおお、スパイスもASMRを鍛え上げて、魔女の耳を破壊するぞー!」
「その意気その意気! 今度コラボ音声作ろうね」
「やろうやろう!」
※『バチョとスパイスちゃんのコラボ音声!?』『入眠しかけたらスパイスちゃんの声で叩き起こされるやつw』『ほしいー!』
というわけで。
ダンジョンを攻略しつつ、魔女の弱点だとか新しい仕事のネタだとか、得るものの多い配信なのだった。
お疲れ様ー!
よし、後でマシロで色々試してみようっと。
……おっと。
配信が終わり、バトラと別れた後だ。
スパイスのコントロールパネルに新しいスロットが増えてる……?
『さすが感知の断章、存在を感知させること無く滑り込んできましたねー』
「ええええ!? じゃあこれ、魔法感知できるようになったってこと!?」
『そうなりますねえ。まあ、ちょっと私が使いこなせるようにやってみますよー。オイコラ断章! 私の言うこと聞け! ウワーッ反逆! こなくそー!!』
どたばたやり始めた。
大丈夫かな……。
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