第70話 身内ということで巻き込んで会議
焼肉屋の個室……。
男女二人、何も起きないはずはなく……。
「カバンの底で寝てたイグナイトも目覚めたから、デザートを食べながら会議するぞ」
「えっ!? なんか先輩ともっと甘い雰囲気になってこのままお持ち帰りされてもいいなーみたいなそういうのを想像してたッス」
「何度も俺の家に出入りしてるのに今さらお持ち帰りもないのでは?」
「言われてみれば特別感が無い……」
ということで。
『精神の魔女の影響がありますねー! あいつ、多分異世界を通してこっち側に魔法を使ってきてますよ!』
『んそれは由々しき事態だぁ! あんにゃろめぃ! 直で殴り合えば物の数ではぁないのにぃ! こういう搦め手を使って来るぅ!』
「ふおおおおお配信で聞いてた声と一緒ッスぅ! 本当に先輩がスパイスちゃんだったんだぁぁぁ」
「眼の前でメタモルフォーゼ解いたじゃん」
「あれは悪夢か何かかと……」
なんという形容をするのだ。
焼き肉を一通り食べ終わった俺たち。
二時間入れ替え制なのであと三十分ある。
この時間を使っての会議だ。
「こちらに直接攻撃を仕掛けてくる可能性はあるんじゃないか? こっちの世界を視認しないで魔法を使っても、今回みたいな中途半端な感じになるだろ」
『それはそうですねえ。ちょっとの間、この周辺地域のダンジョンの危険性は上がると思いますけど。主様が配信しましたからね』
「あ、なるほど。俺が出てくる場所を探ってたのか。で、これから出てきそうなところを絞って集中的に戦力を投下すると? いやらしいなあ」
『んあいつはぁ、搦め手しか無いのだぁ! 魔女同士では精神攻撃が通用しないからなぁ!』
「そうだったのか……」
『より魔力の弱い相手を支配するんですよ。だから精神の魔導書では、格上に対抗できません。相手の魔女が格上だったら目も当てられませんからねー』
「なるほどなあ。じゃあ、精神の魔女に出会った配信者とかヤバそうだな」
『ヤバいですねー! 支配されちゃいますねー!』
こりゃあ一大事だ!
精神の魔女を見つけ出してやっつけないと。
「あ、あのう」
おずおずと挙手するマシロである。
「あたし、その、一般人がここで参加してて場違いじゃないッスか……?」
以前ならそうだったかも知れないが……。
『全然場違いじゃないですよー! 私、主様とマシロさんのエンゲージを歓迎してますからねー! 魔女にも、魔女の夫というものがいてですねー。権力や武力といった力で魔女を守る存在なんです! こうして社会に溶け込むことで、魔女は安全に影響力を行使してきたわけですねえ』
「あたし、権力とか腕力とか全然ないんですけど!?」
『んお前の父親がぁ! あの素晴らしい隠れ家を提供してくれたではないかぁ。これこそぉ……ん権力ぅ!!』
「な、なるほどーっ!」
『あとは主様のお子さんを産んで下さいねえ』
「フロータド直球のセクハラ!」
「う、うっす! 頑張るッス!!」
「こっちもやる気だ!!」
俺の夏の陣は終わったようだ。
国家安康、君臣豊楽だ。
まあ、マシロの身の安全を守るためだったので仕方ない……。
それに、今回みたいに案件をバシバシ受けられれば収入も上向く。
税理士の人と契約し、節税なんかも教えてもらってだな……。
そういう生活をやっていくためには、まず精神の魔女をぶっ倒さないといけないのだ。
「じゃあどうするかだ。どうやって精神の魔女を見つけ出す? 俺はあいつの姿も形も知らない。魔法が分かるだけだ」
『知覚の断章をゲットしましょう! センスマジックを得るんです! 魔法というのはそれぞれのジャンルごとに特定の魔力の動き……波動というんですがそういうのをしていますからね! センスマジックが手に入れば一発ですよー!』
「それだな。でも、なんで今までその話をしてくれなかったんだ」
『戦闘に直接関わらない魔法をゲットする余裕なかったじゃないですかあ』
「ほんとだ」
イグナイトがそれなりに使えるようになった今、ようやくメタモルフォーゼ以外の魔法拡充をする余裕が出来たというわけだ。
「よし、じゃあセンスマジックを探ろう! ムラカミさんにも伝えておかないとな」
『あの狐なら伝手を使って探せると思いますよ! 手探りだときりがないですからね! それに、存在を知覚して望めば断章は向こうから近づいてきてくれるのは今までのことでお分かりですよね!』
なるほど、知覚の断章をイメージしながら配信すればいいのか。
そして使えるものなら、迷宮省でもなんでも利用しよう!
そういうことだ。
「よし、会議終了! 会計するね」
テーブル会計なので楽ちん。
二人で三万円か。
結局最高級のお肉は貧乏性の俺たちは頼まなかったしな。
ノールックで注文できるくらい成り上がりたい。
店の外に出ると、すっかり真夜中だった。
ちょうどやって来た電車の座席が空いていたので、スパッと座った。
酔いの回っているマシロは俺にもたれかかって、ぐうぐう寝ている。
ここですうすうという寝息じゃない辺りがマシロだなあ。
『いやあ、私の心配が晴れてすがすがしい気分ですよ』
「フロータはひたすら俺に子どもを持たせようとしてたもんな」
『そりゃあそうです。魔女なんかいつ魔女狩りにあって滅ぼされるか分からないですからね。あるいは魔女同士の争いで死ぬことだってありますから。魔女は血の力で魔法を使います。だから常に、強い血を受け継ぐ子孫がいたほうがいいんですよ』
祖母も俺に至るまで、血を繋いでくれていたわけだしなあ。
とか考えていたら、LUINEで連絡が来た。
古き魔女じゃないか。
久々だなあ。
『精神の魔女の出現を感じました。彼女はあなたが以前に発見した異世界を、もっと前から活用していたようです』
「ふんふん、なるほど……。じゃあ、精神の魔女が飛行機をまるごとジャックしてこっちに来なかったのは……」
『多くの人間の意識や記憶をいじれば、それだけ目立つでしょう。彼女は一度に多数の人間の口封じをする危険をよく知っています。多くの人が精神に異常を来すことがあった時、衆目を浴びるのは必然です。彼女はそれによって自分が発見されることを恐れています』
「なるほどなあ。つまり大多数の記憶をぶっ飛ばすなんか、自殺行為だってわけか。もしやってくるなら……自爆覚悟の時だな」
そいつをぶっ倒す時に、自暴自棄になってやって来そうだな。
恐らくそれを、決定的に防ぐというのは難しい。
こっち側でダメージコントロールするか、あるいはダメージから回復する手段を身に着けておかないと……。
『操作された精神を戻すには、強い衝撃があればいいのです。例えば心の奥深くに焼き付く思い出や、声とか……』
思い出に、声……。
声……!?
俺はハッとした。
声でいけるなら、専門家がいるじゃないか。
ダンジョンASMR。
これこそ、精神の魔女との戦いの切り札だ。
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