第69話 ネタバラシ
シロコに正体をバラす配信、いやあ受けた受けた。
大いに受けた。
リスナー大喜びで、スパチャがガンガン飛んだ。
ホクホクですよ。
しかもラーフのアピールも成功し、特別に作られたスパイスマークのロットが一瞬で売り切れたらしい。
バズブロウ社の人がコメント欄に現れ、スパチャとともに報告したので、リスナーの盛り上がりが最高潮に達した。
というわけで。
配信が終わった今、頑張ってくれたシロコことマシロには報いねばなるまい。
ここはビルの最上階。
「ここで変身を解くとバレちゃうからねー。ちょっと移動しようね!」
「は、はいッス! ……本当に先輩なんスか? 二人きりなのに普通にスパイスちゃんの喋り方なんスけど」
「スパイスというガワに人格を引っ張られてるからね! 当然この姿の時はついてないから隅から隅までスパイスなんだよ……!!」
「ひいーっ」
戦慄するマシロ。
さて、スパイスは彼女の後ろに回って腕でがっしりホールド。
「レビテーション! アクセル!」
『ほいほーい! 主様行きますよーっ! 向かいの雑居ビルまでひとっ飛び!』
「ぎゃーっ、飛んでるー!!」
廃墟ビルからまだ生きてる雑居ビルへ!
そして降り立つ階層のテナントは、本日お休み。
人が通らない場所になっているのだ。
ここでスパイスもマシロも変身を解いた。
見慣れた俺が出現したので、マシロが「ふわわわわ」とか鳴いた。
「あ、あんなに小さくて可愛かったスパイスちゃんがデカい先輩に……」
「50センチくらい縮むし、体積的には半分以下になるからな……。不思議だ。というかマシロもバーチャライズしていると背が伸びてるんだなあ」
「あたしの理想の身長です……! もうちょっと背丈が欲しかった」
気持ちは分からないでもない。
「じゃあマシロ、ドッキリ配信に付き合ってもらったし、お陰で何もかも大成功だ。お礼をしなくちゃな。なんでも好きなもの奢ってやるぞ!」
「奢りッスか!? それじゃあ……」
この辺りで一番高い焼肉屋に来てしまった。
「本当にマシロは焼き肉好きだなあ」
「そうッス! いっぱい食べられるし、なんかパワーがつく感じがするッス!」
入店し、個室を取った。
まずはサワーとかで乾杯。
「あっ、ぐいーっと飲みやがった! また酔いつぶれて俺に運んでもらうつもりか!」
「ふへへー、酔いが覚めるまでご休憩で休んでてもいいんですよー」
「既成事実を作られてしまう」
「あたしはいつでもオーケーなんで!」
「ついに口に出したな……!」
「先輩がのらりくらりと逃げるからッスよー!」
わあわあ言っていたら肉が来た。
まずは上ロースである。
じゅうじゅうと焼く。
焼いている間は互いに肉を注視するので無言になる。
そして肉のことしか考えていない。
焼き肉は無心で焼くべし!
おっ、いい焼き加減。
これをちょっとタレにつけて、肉汁が滴るのをパクっと……。
「うめー」
「うまーい」
感想がハモった。
「配信で疲れ切った体に染み渡るッス……。多分アルコールと一緒に染みていくッス……」
「マシロなあ、配信のやり方もかなり無茶だぞ。もっと命を大事にやっていこうな」
「えー。これは全部先輩のせいッスよ」
「なんだって」
「あたしはスパイスちゃんになった先輩に助けられて、先輩が配信道具買ってて、配信でスパイスちゃんが大好きになって、真似して配信してたらスパイスちゃんに声を掛けられて……。そしたら先輩がスパイスちゃんだったッス」
「全部俺のせいだった」
間違いない。
「なので面倒を見ていただきたいッス。どうかどうか、この通り」
「あっ、三つ指つきやがった。くそー、責任を感じてしまうところはあるし、辞めさせるつもりだったけどついつい応援してリスナー増やしてしまったしな……」
『全て計算通りだったってわけですね! うひょー! なんと計算高い女なんでしょう! 主様、こういう知恵の働く女はいいですよ! さっさと子作りしましょう!』
「フロータは黙っててね!」
「……先輩、それもしかして、配信で出てくるフロータちゃん……?」
『そうでーす!』
スポーンとカバンから飛び出すフロータ。
『主様が持つ魔女の血を受け継がせるために、子どもは必要だったんです! ですけど前々からずーっとマシロは近くをうろうろしてるし、絶対この女、主様のこと好きだし! ということでお二人はサッと子どもを作ってですね!』
「うわーっ」
「なんて直接的な物言いをする魔導書なんだ」
マシロが真っ赤になり、俺は飛び回るフロータをキャッチしてカバンに押し込んだ。
『あーれー』
「まず、話をまとめていこう。俺が魔女たちと戦っているという話。これは本当だ。スパイスの設定とかそういうのじゃない。明確に人知を超えたヤバい敵がいて、絶対にこいつらを倒さないといけない」
「な、なるほど」
マシロが居住まいを正した。
だがどこか嬉しそうである。
あれか?
ずっと蚊帳の外だったのが、ようやく話の中に入ってこれたのが嬉しいのか。
「つまりだ。俺の身内であることが分かると、マシロが危険になる。だからあまり近くに置くことはできないってわけだ。俺がもう少し力をつけて、魔女をあと一人が二人減らせればいいんだが」
「ふむふむ……。さっきはちょっと舞い上がってたッスけど、あたしもまだ再就職したばっかッスし……。じゃあどうッスか? 予約ということで……」
「なんの予約なんだ!?」
「来年になったらスパイスちゃんはもっとビッグになってると思うッス! だからあたし、スパイスちゃんの全面サポートをするための勉強をするッスよ! そしたら先輩のとこで雇ってほしいッス! うちのうるさい親もそうしろそうしろって言うし、あんま言われるのもアレだし。先輩にマンション紹介したからって父親の方もなんか期待してるし」
あの最高の環境を紹介してもらったのは確かにありがたい。
それに、現在女性と縁のない俺にとって、マシロは一番気心もしれているしこうして深い内情まで分かってもらえた相手だ。
ここは一大決心のしどころであろう。
「……分かった。では来年の春! マシロを雇おう! まあ、お前ならうちにも通えるしなんなら泊まっていってもいいし」
『ファミリーに迎え入れるんですよね! 名実ともに!』
「うるさいよフロータ! まあニュアンスとしてはそう。家族的な感じになる」
「か、か、家族!? うううう~! やったー!! 頑張るッス!! あのっ、あのっ、ちょっと家に報告するッス!!」
「あっあっ、ちょっと待てマシロ! そこまではまだ決心は」
「ご注文の上カルビでーす」
「あっ、これはどうも……」
「ママ? あのね、あのね、プロポーズされちゃった」
「うわーっ!!」
『主様に逃げ場なし!! 腹をくくりましょうよー!』
ついに追い詰められた俺。
上カルビはとても美味しかったのだった。
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