第62話 計算通り!
紅野シロコの配信にて、彼女が焦りながら報告をしている様を眺める俺。
『みみみみ、みんなー! 大変ッスよー! あ、あ、あの黒胡椒スパイスちゃんから! お誘いが来ちゃったッス! コラボ! コラボのー!!』
十人ちょっといる同接が、わいわいと盛り上がる。
こういうアットホームな雰囲気もいいものじゃないか。
だがこの同接数で危険なダンジョンに挑むのは感心しないな。
知らない若者が若気の至りで突撃するのは止められない。
個人の自由だからだ。
だが、それが大変よく見知った仲であるマシロならどうか。
いかーん!
許せるわけがない。
せめて俺が同接を増やす手伝いをして、彼女の身の安全を確保したい。
さらに言えば、配信者としてのいろはを教えてやらねば。
俺は使命感に燃えていた!
『なんだかんだで主様、あのマシロって娘のことを気にかけてますよねえ』
「同じ大学の後輩だし、入社した時から俺が面倒見てるからな……」
年度が5年ちょっと離れているので、実際に顔を合わせたことはない。
だが、OB参加OKの飲み会に行った時、新入生だったマシロを見たことがある気がする。
学校関連ではその程度の付き合いでも、同じ大学の出だというのはやはりシンパシーを感じる。
それが俺の直接の部下になり、ここまでまるまる一年の付き合いがあるというのは、やはり何らかの縁があるのだろう。
なんかマシロ一家が、俺の堀を埋めて彼女とくっつけようとしてきているのは解せぬが。
さて、約束の時間だ。
俺はマンションを出ると、電車に乗り込んだ。
そして予定していたダンジョンの近くに到着。
既に野次馬がやって来ている。
マシロが迂闊に配信場所を漏らしたためである。
このあたりのガードの甘さも色々教えていかねばな……!
そこは個人経営だった廃病院。
噂によると、治療に失敗して患者から訴えられ、医者が夜逃げした病院だとか。そして夜な夜な、死んだ患者の怨霊が出る……といわれている。
が、実際は違う。
後継者がいなかったので医者が引退したあと、病院は役割を終えた。
空き家になった病院に、ウェイウェイ言う若者が入って来てパーティをし、酒で酔っ払って空き瓶で滑って転んで頭を打って死に、その無念さから怨霊になってダンジョン化したのだ。
はー!
しょーもな!!
「医者の人、完全に風評被害じゃんかねえ!!」
既に物陰でスパイスへの変身を終えた俺は、ぷりぷり怒った!
アホやるのはいいけど他人に迷惑かけるんじゃなーい!
ダンミーにもその旨が書かれているが、集まっている野次馬はそんなこと聞いちゃいないのだ。
「治療失敗で怨霊が……」「逃げ出した医者が……」
はー、風評被害!!
思わず配信前なのに、野次馬に話しかけちゃったよ。
「ちょっとちょっと、チミたちー」
「はっ、その声は!」「ウワーッ!! スパイスちゃん!!」
「そう、スパイスだよー。ちなみにこのダンジョンは! お医者さんはなーんも関係ありません!!」
ここからシロコとの合流場面の撮影が始まってるよ!
一般の人達はフロッピーが顔と声を加工してるからね!
「中に入り込んだ若人が、若気の至りで若気の至りを振り回して、若気の至り死したら怨霊になったの! よろしい?」
「わかりました!」「すごくわかりやすかった」
物わかりのいいリスナーは好きだよぉ。
『主様が投げキッスしたらふたりともメロメロでしたねー!! 魔女の色気というものをマスターしてきましたね!』
「よせよー、おじさんなのにー」
『色っぽい魔女であることに性別なんか関係ありませんよー!』
ほんとうー?
そんなこんなで野次馬なリスナーたちとわちゃわちゃ喋っていたら、向こうから黒いコートの女がやって来た。
そして、近くに来てパッとコートを脱ぐ!
へ、へ、変態だー!!
って思ったら、もうバーチャライズを終えたマシロじゃん。
ここではシロコと呼んでおこう。
「は、は、は、初めましてッス! 紅野シロコッス! こ、今回はお誘いいただき光栄ッス!!」
ガチガチに緊張してるじゃん。
声と口調がまんまマシロなんだよなあ……。
「やあやあシロコちゃん! スパイスだよー! 今日はよろしくね! 先輩配信者としてー、心得みたいなものをたくさん教えちゃう! ダンジョンは常に危険地帯だけど、攻略は楽しくやっていこうねえ」
「はいッス!」
ということで、スパイスとシロコが揃ったところを、野次馬リスナーたちがパシャパシャ撮影した。
大いに宣伝してくれたまえ!
なに、PickPockで動画にして流す?
どうぞどうぞ。
シロコをちょっとでも有名にして同接を増やすのだ!
ファーストバズりが無ければ、配信者は上には行けない。
ちなみに。
人間の時は、俺の方がマシロより頭一つ近く背が高いのだが。
スパイスになるとシロコの方が頭一つ背が高い。
うーん、スパイスは相当ちっちゃくなってるからねー!
あっ、シロコ、どさくさに紛れてスパイスの頭を撫でているな!
そういうのは周りから見ると、てぇてぇ、という概念に通ずる。
よく分かってるじゃないか、許そう。
でも一応次からは許可を取ろうな。
PickPockに流れた動画は大いに若者たちの耳目を集めたらしい。
開始した配信に、どんどん人が集まってくる。
コラボ配信のいいところは、コラボした相手にも同接によるブーストが掛かる所だね。
弱点は、同接ブーストが分配されるから、見た目の同接数ほどのパワーが出ない所。
なので、同接数に差がある同士のコラボはダンジョンとのパワーバランスを慎重に見極めねばなのだ。
ま、今回のダンジョンなら楽勝よ、ラクショー!
『ん主ぃ、フレイヤも慢心して主にぶっ飛ばされたぞぉ』
「おっととと!! 気を引き締めないと! そんじゃあ配信、行ってみるかあ!」
『こちらが画面です。どうぞ主様』
フロッピーの呼びかけに応えて、俺はそっちに笑顔を向けた。
「どーもっ! こんちゃー! スパイスでーす!! 今日はコラボだよー!!」
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