第57話 遠出をするぞ、異世界ツーリング
迷宮省側から、ちょっと遠くの地域のデータが欲しいと依頼されたのだった。
つまり、遠出するから護衛して欲しいみたいな内容。
もちろんOK。
問題は、入口があの窓しかないから移動するための道具を持ち込めないことなんだけど……。
「ウェイ! そいつは簡単に解決できるぜ。バイクくらいの乗り物なら公式Aフォンに収納できるんだ」
「な、なんだってー!!」
お助け要員としてお呼びしていたチャラウェイが、驚くべきことを言った。
そう言えば、炎の魔女フレイヤとの戦いの時、彼は車に積んでなかったはずのバイクで現れたな……。
「迷宮省なら、Aフォンに収納できるバギーくらい持ってるんじゃないか?」
「ありますわなぁ」
うんうん頷くシノ。
彼女を見て、チャラウェイがうーんと唸った。
「なんですのん」
「なんで俺とシノさんを交互に見てるの」
「いやさ、二人とも大人の男から幼女に変身するよなあーって思って」
「類は友を呼ぶ、いうこともありますからね」
コココ、となんか狐っぽく笑うシノだった。
さてさて、迷宮省の人たちがやって来る。
この間の協力会社の人も一緒だ。
「収納型バギー? ええ、極秘ですがあります。というかそれがなければ異世界で遠出はできないでしょう」
職員の人が当然ですよ、と言った。
なるほどなあ……。
世の中の技術は進んでいて、想像もできないことになっているのだ。
「それを言ったらスパイスさんだって、非公式の民生品Aフォンなのに、どうして受け答えなどの機能が公式を上回るものを持っているんですか」
「あっ、それは魔導書に教育されてまして」
『私が育てた!』
『ん俺が育てたぁ!』
『よろしくお願いします』
こうして賑やかな、異世界の遠出が始まった。
もちろん!
配信する!
イグナイト・スパイスにフォームチェンジして……!
「どーも! こんちゃー! 黒胡椒スパイスです~! 今日はねー、今まで異世界の街の中をうろうろしてたから、ちょっと遠くまで行ってみようっていう企画です。迷宮省協賛だよー。ほら、あそこに見える黒い装甲バギーが迷宮省の……装甲バギー!?」
※『どーもー!』『こんちゃー!!』『おおー、どこまで行くの?』『迷宮省の乗り物いかついなー』
「色々な状況でも壊れないようにしとります」
※『シノちゃんキター!』『シノちゃんがいるだけで、迷宮省の怖いイメージがあんまなくなるよね』『今日もカワイイ』
「ふひっ、おおきに」
「ナイスフォロー、シノさん! なんかめっちゃ照れてるけど! あとねー、スパイスだけだと乗り物を運転できないので! ほら、背丈とか的にね」
※『スパイスちゃんちっちゃいもんねー』『身長どれくらいなの?』
「ヒールこみで130センチかなー。世界の何もかもが大きく見えるよー」
※『ちっちゃ!』『カワイイ!!』『ちっちゃいと思ってたらそんなちっちゃかった!』
「ということでー、スパイスは今回! シノさんと一緒にチャラちゃんのバイクに乗せてもらいまーす! 二人乗りはよくないけど、異世界は治外法権だからねー!」
「ヒャッハー!! 俺に任せてくれぇーっ!!」
身長190くらいありそうなチャラウェイが現れたので、コメント欄がウワーッと沸いた。
※『モヒカン棘付き肩パットサングラスのマッチョな巨漢が幼女を乗せる!?』『いつもながら事案すぎるw』『チャラウェイのバイク、三人も乗れたっけ?』
「うちはこう言うふうに変身もできますんで」
どろん、とSEが鳴り、シノが狐になった。
これをスパイスが抱っこするわけだね。
※『狐になった!』『かわいいー!』『なんだ今の音』
「今のはフロッピーが合成してくれたSEだよー」
※『すごい』『フロッピーちゃん天才』『カワイイ』
『恐縮です』
フロッピーが空中でゆらゆらしてる。
照れてる?
『うおおおおー! 私達の英才教育あってのことですよー!!』
『ん教師たる俺達をぉ崇めろぉ!』
そして魔導書は荒ぶっているのだった。
こんな賑やかな面々のまま、配信はスタート。
チャラウェイバイクは座席の後ろに、非常に大きな背もたれがある。
トゲがついててギラギラ輝いてる。
非常にアポカリプス的なデザインなんだが、ここのお陰でスパイスがすっぽり収まることができるわけなのだ。
なお、トゲはスポンジ製で柔らかい。
「えーと、座ってるとスパイスが何も見えないので……よっこらしょ!」
背もたれに自分を預けながら立ち上がるスパイス!
「こうやって立ったまま、チャラちゃんの肩に手を置いて配信して行きまーす! うんうん、浮遊の魔法あってこその無茶な体勢だね! みんな絶対に真似しちゃダメだぞー」
「ヒャッハー!! あっ! 俺のモヒカンに狐が乗っかって!!」
※『やらないやらないw』『シノちゃんが加わってちょっとしたブレーメンの音楽隊みたいになってる』『世紀末バイクの上にモヒカン、モヒカンの上にスパイスちゃん、やっぱりモヒカンの(物理的な)上にシノちゃん!』
配信的にあまりにも面白い姿になってしまったな……。
バイクが走り出す。
トゲ付きの大きくて太いタイヤは、荒れたり割れてる石畳もなんのその。
「ベースがオフロードバイクなんだぜえーっ!! 改造しすぎて公道じゃ使えないからなーっ!! ヒャッハー!!」
「存分に走れて良かったねーチャラちゃーん!」
「本当だぜーっ!! 後はこの間みたいなダンジョン配信でしか使えないぜ! いやあ……道を走れて本当に良かった……」
なんかほろりと来てるじゃん。
街の中をぐるりと巡る。
そこそこ大きな、ヨーロッパ的ファンタジー世界の町並みだ。
あちこちに崩れた空き地みたいなものがあって、植物が繁茂していた。
木造の家屋があったんだろう。
「こんこん」
「シノさんどうしたの? あ、狐になるとあんまり自由に喋れない系?」
こくこく頷くシノさんなのだった。
スパイスとの念話みたいなことはできるけど、声帯が動物なので言葉を発することができないのだ。
なのでここは……。
「フロッピー、翻訳して!」
『かしこまりました。わんにゃん翻訳アプリを起動します。シノ様は、「この街が放棄されてから数十年は経過している」と仰っています』
「あ、植物の繁茂の仕方で分かるの? なるほどなあー」
迷宮省の人たちが車を止めて、写真や動画撮影を始めた。
植物や土も採取している。
まだ街を出てないのに!
「早く早くー!」
※『スパイスちゃんに急かされて慌ててる!』『迷宮省を急かす人っていたんだ……』『この幼女、大物なのでは』
「だって早く外の風景を見たいじゃん! その方が撮れ高もあるからね!」
スパイスの言葉を聞いて、フロータがしみじみと『主様も完全に染まりましたねー!』とか言うのだった。
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