第55話 男四人(?)焼き肉打ち上げ
俺、チャラウェイ、八咫烏、ムラカミさんの四人で焼き肉を食べに来た。
個人経営のお店で、出る肉が美味いとこだ。
火力に自信のガス式。
じゅうじゅうと焼き上げられる肉がなんともいい香りだ。
「今日はお疲れ様でした。ご協力いただきありがとうございます!」
俺がビールを掲げると、三人は一様に自分の手元の酒を持ち上げ、乾杯だ。
一斉にグーッとグラスの中を飲み干す。
うまい!
「じゃあ俺は二杯目からはハイボールで」
「僕日本酒かなあ」
「俺はひたすらビールだぜえ!」
「私はそうですね、レモンサワーで」
そして焼き上がった肉は、めいめい順番に取っていく。
基本的にムラカミさんがガンガン肉を並べていき、僕らは食べる専門でいられるのだ。
こんなところでまでサポート役とは。
おほー、カルビうめー。
「スパ……じゃなかったショウゴさん、剣の話なんだけど」
「あ、はい」
外では配信者名を使うと特定される危険があるため、基本的に本名で会話する……。
正体を隠すために本名?
考えてみれば不思議だな。
「今日教えたことで基礎は全部なんで、あとは実際に使ってみて。弱い相手ならいい練習相手になると思うし、同接ついてればなんとかなるからね」
「ありがとうございます! いやあ、助かりました」
「ウェイウェイ! 俺の近接戦の師匠もこいつだからなあ。生活ぶりはダメ人間だけど、専門分野では本当に頼りになるっすよ! 存分に使ってやってください!」
「いやあ、でもあの箱(配信者企業・グループのこと)のトップの一人じゃないですか」
「あそこでも持て余してるみたいなもんなんすよ。相方が一昨年引退してから、すっかり気が抜けたみたいで」
「あー、あの方ですか」
ムラカミさんが遠い目をした。
肉をガンガン焼いているはずなのに、自分はきちんと焼き上がった肉を確保。
いつの間に頼んだのか、白飯の上に乗せて食べている。
「坊っちゃんと並び立てる人間がいると思いませんでしたよ。あれでバックボーンのない市井から出現した突然変異でしょう? まあ、その妹が例のきら星はづきだと言われると納得しかありませんが」
「斑鳩ねえ……。あいつは社長になっちゃったからなあ」
イカルガエンターテイメント。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのトップ配信者、きら星はづきを擁する新興配信者企業である。
斑鳩という男の名前は俺も知っていた。
ちょっと前に、なうファンタジーという業界最大手企業の、男性配信者トップだった男だ。
彼が引退したことで、配信者界のパワーバランスが変わったと言われている。
眼の前でもりもりと、脂身の多い肉を美味そうに食べている八咫烏。
彼の相棒が斑鳩だった。
確かデビューも同時期だったはず。
娯楽として冒険配信はよく見ていたからちょっと詳しいぞ。
「んで、この八咫烏がスパ……ショウゴさんが出てきてからちょっとやる気なんすよ」
「えっ、俺がいるからですか!?」
「そうそう。なんか面白いことになって来てるみたいじゃない。まさに、退屈な日常に一振りのスパイスってやつ。僕は期待してるんで、また厄介事があったら巻き込んで下さいよ」
「坊っちゃんは所属している企業をまた困らせてますね」
「ちゃんと向こうの大規模イベントには参加しているからいいだろう? なかなかね、元相方の妹とは絡むのが照れくさくてね……」
色々あるんだなあ。
だが、俺の存在でこの最強クラスの配信者がやる気を出すならいいことだ。
それに自分から俺の陣営に来てくれるんだ。
魔女戦があったら頼りにさせてもらおう……。
うーむ、チャラウェイの人脈恐るべし。
本当に得難い人だ。
彼を大事にせねば。
「グラス空いてるじゃないですか。どうぞどうぞ」
「おっとっと、ありがてえっす! いやあ、労働の後のビール最高! ビールで流し込む焼き肉、最高! ウェーイ!」
彼がグラスを掲げたので、俺もハイボールのジョッキをぶつけた。
と、そこでスマホにLUINEの通知が。
あっ、マシロ!
そうか、もう夕方だ。
仕事が終わる時間なんで、今日は飯の誘いに連絡してきたんだな。
「どうしたんすか、複雑そうな顔して」
「いやあ、前の職場の後輩がですね。飯の誘いをしてきたんで」
「呼んじゃえばいいじゃん。僕は気にしないよ」
「坊っちゃんはこう見えて無法ですからね」
八咫烏の無法はなんとなく分かってきたよ。
「でもいいんですかね? 配信者の中に一般人が紛れ込むことに……」
俺の言葉に、チャラウェイと八咫烏がにんまり笑った。
「いいのいいの! だって俺等だってもともと一般人っしょ?」
「そうそう! そう言うの気にしないのが僕らだよ。連れてきちゃってー」
出来上がってないか?
ムラカミさんは肩をすくめ、野菜焼きを注文した。
仕方ない、迎えに行くか。
マシロは駅にいるようだ。
この焼肉屋から駅まではかなり近いので、俺はちょっと外に出てすぐに到着できた。
「あっ、せんぱーい!」
スーツ姿のマシロがいる。
前の職場では作業着だったから、新鮮かも知れないな……。
「おっす。どう? 仕事上手くやれてる?」
「やれてるッス! 慣れなくて大変ッスけど、どこも人手不足だから大事にしてくれるし」
「そりゃ良かった! んで、飯だけど……ちょっと今友達と飲んでて。焼き肉でさ。一緒に食う? 奢るけど」
「行くッス!! ……女子とかいないッスよね?」
「男ばっかだよ」
マシロが妙に安心した顔になった。
なんだなんだ。
俺はホイホイ女に手を出す男じゃないぞ。
こうして俺はマシロを焼肉屋に連れて行ったのだった。
「ウェーイ! よろしくぅ!」
「どうもー。よろしくね」
「はじめまして」
チャラい男、上品な感じの男、お硬い雰囲気のスーツの男。
彼らが同じ席にいたので、マシロが混乱したようだ。
「……ど、どういう組み合わせッスか」
「俺がやってる事業の協力業者の人達」
「な、なるほど……。付き合いが広いッスねえ……。あ、どうも! 先輩がお世話になってます!」
マシロがペコペコ頭を下げた。
うーむ、俺の日常と配信者としての世界が今交差した。
不思議な気分だ。
「ショウゴさんー。こんな可愛い女の子だなんて聞いてないんすけどねえー。いやあ、隅に置けないなあ」
チャラウェイがニヤニヤしながらそんな事を言う。
「うおお、外見通りのいじりをしてきた……!!」
「か、可愛い? うへへへへ」
マシロまで機嫌が良くなっているではないか。
俺にまで可愛いを要求してきたらどうするか。うーむ。
だがまあ、この顔合わせはいい感じになったし、結果オーライだろう。
俺はマシロのために、新しい肉と白飯を注文するのだった。
酒は控えておいてくれよ。
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