第54話 異世界剣術特訓配信
「うひょー! ここが異世界かあ! いやあ、あの魔女と戦った時もちょっと見えたけどよ。まさかこんなにあからさまに異世界だとはなあ……! 自分が降り立つなんて考えてもいなかったぜー!!」
「チャラウェイテンション高いねえ」
俺が感心すると、チャラウェイがウェイウェイ言ってきた。
当然だろみたいなノリらしい。
そして八咫烏もまた、嬉しそうに異世界の土の上でポンポン跳んでいる。
「石畳だねー。異国情緒を感じるなあ。苔むしてるし壊れてるから、随分古いのかな? これは調査が待たれるねー」
背後では、ムラカミ姿のシノが説明をしてくれた。
「今、迷宮省の調査チームが組まれているところですので。異世界は無限の可能性を秘めているとこちらは考えています」
どうやら仕事モードの時はこっちで、配信でスパイスのサポートをする時はシノ、我が家で休憩しているときは狐の姿になっているらしい。
オンオフがはっきりしていらっしゃる。
「よーし、それじゃあスパイスちゃん……さん?」
「ああ、この姿だと呼びづらいですよね」
八咫烏に配慮して、俺は変身することにした。
「メタモルフォーゼ・スパイス! イグナイトフォーム!」
『ん焼結ぅ!』
白黒螺旋とオレンジの輝きに包まれ、俺はスパイスに変身!
「ってことでスパイスでーっす」
「うおー! スパイスさんがスパイスちゃんになった! でもどことなく仕草は似てるよね。じゃあ、僕がどこまで練習相手になるか、ちょっと試してみてよ。そうだな……僕はこの割り箸を使うんで」
割り箸!?
「あの魔女と戦った時に使ってた、物を飛ばす魔法でよろしくね。おっと、こちらも……バーチャライズ」
八咫烏が、上品なお兄ちゃんから黒いレザーコート姿のイケメンに変わった。
髪の色は黒だが、インナーカラーが赤い。
切れ長の目にすっと通った鼻梁。目頭と目尻に、赤い隈取みたいなのがうっすらされている。
女性人気がありそうだなあー。
「それじゃあ、どうぞー」
八咫烏は棒立ちだ。
構えない系?
「えーと、それじゃあ手加減なく……」
『うおー、主様、魔法の怖さを分からせてやりましょう! いけいけいけいけいけ潰せ潰せ潰せ潰せ潰せ』
「フロータは常に物騒だなー! でも、威力あるの使わないと分かんないもんね! そーれ、瓦礫射出! フロート・アクセール!」
猛烈な勢いで瓦礫が撃ち出された。
当たったら怪我じゃすまないんじゃないかくらいの勢いだ。
で、対する八咫烏は割り箸を持って棒立ち……と思ったら、既に割り箸が前に突き出されてる。
瓦礫が割り箸と衝突した……と思った瞬間、瓦礫の軌道が明らかに変わった。
ふわっと横に流されて、周囲の家屋に炸裂する。
「えっ、なに今の!?」
「受け流したんだよ。割り箸を剣に見立ててね。ほら、僕が配信でやってるでしょ、ラーフの銃身でモンスターの攻撃を受け流すの」
「そりゃあやってるけどー」
眼の前の現実として見るのでは、ヤバさが違う。
俺は次に、何発もの瓦礫を撃ち出した。
これを、八咫烏は次々に割り箸で受け流して見せる。
力を使っているようにも見えないのに、瓦礫は全くこの男に届かない!
なんだこいつー!
「攻撃も見せちゃおう。撃ってきてー」
「わかったー! おりゃー! いけー! アクセール!!」
バシュッと撃ち出されたのは、真正面からの瓦礫。
これを八咫烏は握った割り箸で、真っ向から打った。
パンっと音がして、瓦礫が粉々に弾ける。
割り箸は無事。
瓦礫の破片がこっちに飛んできて、スパイスの頭の上を通過した。
うひょー!
どういうこと!?
「これはね、瓦礫の勢いを割り箸から体で吸収して、ぐるっと回転させてまるごと瓦礫に戻してやったら、自分の力で壊れてしまったのさ。ごく基本的なカウンターだね」
「基本じゃねえからな! おかしいからな!」
チャラウェイの突っ込みに、スパイスもムラカミも頷くしかない!
なるほど、剣の先生としては適格なのだ。
というか意味がわからない次元の剣の腕だな!
でも、これはリスナーに受ける。
ということで始めてみました、配信!
「どーも! こんちゃー! 魔法少女な配信者、黒胡椒スパイスでーっす! 今日は突発のコラボだぞ!」
※『こんちゃー!』『スパイスちゃんかわいいー!』『あれっ、八咫烏とチャラウェイいるじゃん!!』
「そーなんです! 今日はスパイス、新魔法の特訓をするんだけど……そのためには二人の協力が必要なんですー! お呼びしちゃいました!」
「どうもどうも、八咫烏でーす。今日はね、普段のラーフからこのビニールの剣に持ち替えて剣術のお相手をします。あ、難燃性だよ」
ビニール剣をびよんびよん曲げて見せる八咫烏。
さっきは割り箸だったけど、配信では見栄えを重視して剣の形のものを使うんだそうだ。
「ヒャッハー! 俺はまあおまけなんだけど、せっかくなんで参加していくぜ! 二人がやってる間、異世界を歩き回って俺のチャンネルで配信するからよろしくな!」
「うちが補佐しますねえ」
※『幼女と野獣!』『シノちゃんとヒャッハーがw!』
うんうん、そっちはお二人に任せて……。
それじゃあ行ってみよう。
「噴き出せ、トーチ! はいみんな注目ー! これが新魔法だよ! 筒から炎が噴き出して剣みたいになります! 灯りとして使う魔法なんだけど、まずは炎の扱いに慣れるために、戦闘でも使っちゃうね! ここに芯として細長く切ったトイレットペーパーの芯を投入して……刀身としてかっこをつける……」
※『トイペの芯から炎が!?』『燃えないの!?』『もうちょっとさあ、絵面ぁw!』
『んんんいいぞ主ぃー! まるで剣だぁー! なお、芯が燃え尽きるまで一分くらいだから素早くなぁ』
「はあい。行くぞ八咫烏さん!」
「いつでもどうぞー!」
「おりゃー!」
「おっ、なかなかの気迫!」
炎の剣と、ビニールの剣がばしばし切り結ぶ。
八咫烏は、わざとオーバーアクションして見栄え良くしてくれている。
本来なら不動で圧倒できる腕前だが、そこはプロの配信者なのだ。
で、素人剣術のスパイスをよく見せてくれている。
ありがたいなー。
芯が燃え尽きたところで、八咫烏からの指導が入った。
「踏み込みはこんな感じで、剣の振りはこうかな? スパイスちゃんの気合が入ってると、炎もちょっと実体みたいになるっぽくて、受け止めた手応えが凄かったよ」
「なるほどー! ありがとー!」
※『八咫烏の手がスパイスちゃんの腰に!』『ピピーッ、事案、事案! イエスロリータノータッチ警察です!』『おじさんとおじさんじゃないのか……?』
八咫烏の配信のコメントも、大いに沸き立っているようだ。
だが、あらかじめ八咫烏がスパイスをおじさんだと説明していたので、吹き上がる勢は少ない。
目に余ると八咫烏担当のスタッフがそのリスナーをBANするそうなんで、安全みたいだね。
ガチ恋されそうな感じの配信者は大変だなあ。
その日用意したトイレットペーパーの芯は5つ。
これを使い切るまで指導を受けて、ちょっとは形になってきた気がするのだった。
うーん、スパイスの体は覚えがいいぞ!
若さと、思考に忠実に追従してくれる肉体性能がある。
「イグナイトとしてはどう?」
『んんんトーチはこれで完成ぃぃぃぃ! ファイアボールを学んでもぉ、いいだろぉー!』
「やったー!!」
※『ファイアボールマジ!?』『ゲームでもよく見る魔法じゃん!』『いよいよ魔法使いっぽくなってきたなスパイスちゃん!』『剣の修業とファイアボールにどういうつながりが……?』
かくして色々な反応を呼びつつ、俺は新たなステップに進むのだ。
ありがとう八咫烏、チャラウェイ。
この後、近場の焼肉屋で打ち上げしよう。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




