第51話 異世界に降り立ってみよう
異世界で配信するには、迷宮省と密に相談などしなければならない。
黒胡椒スパイスの配信で明らかになった、我が家から行ける異世界。
これはちょっとした話題になったが、その後は動きがなかったので話題も落ち着いてきた感じだった。
俺はこの間、ちょこちょことダンジョン配信などした。
マシロ家からのアプローチは依然続いている。
色々恩義もあるので、ここは一つ親密な付き合いくらいは今解禁しておいていいだろう。
マシロさんとは一歩進んだ関係性を目指してですね。
いかに一線を超えずにこちらの活動を進展させ、環境を安定させるかに掛かっている。
こりゃあハードだぞお!
なんて思っていた矢先、マシロの就職活動が実ったのだった。
おめでとう!
新生活で忙しくてデートどころではなくなるな!
生活が落ち着いたらお互いの将来について考えようじゃないか。
「というわけで、もう二月も半ばになってしまったが……。早い、早すぎるぞ時の流れ! だが……迷宮省の許可が降りましたー!」
※『わーっ!』『おめでとうー!!』『なにするの?』『スパイスちゃんの家から繋がってる異世界を探索するんでしょ』『異世界行楽しみすぎる』
既に配信は始まっている。
なお、世の中の話題はVR空間での超大型ロビーのオープンと、そのセレモニーでもちきりなんだけど。
お陰でこっちはこっそり、そこまで大きな話題にならずにやっていけるわけだ。
有名になりすぎても活動しづらいからね。
「ということでー、スパイスは今回、迷宮省のエージェントさんをお迎えして一緒に配信して行きますね。つまりこれは国とのコラボレーションです」
※『うおおおお国家案件』『凄いことになってきたな……』『確かに異世界絡みだと国策でしょ』『でも表はニュースで何も言われてないな』『まだ小さいプロジェクトってこと?』
「そうだねえ。色々物事は根回しが必要だし。じゃあ紹介しましょう! 迷宮省のムラカミ・シノさんでーす!」
「はいはいはい、どーもどーもどーも。ムラカミシノいいますー。皆さんはうちのこと、シノって呼んで下さいねえ」
その時、ペッパーどもとお肉どもに戦慄走る────!!
※『きっ!!』『狐耳!!』『ロリ巫女!』『待て、あれは狩衣だ!』『陰陽師ってこと!?』
「正確には狩衣ではないんやけど、迷宮省の委託で国選陰陽師の一人としてやらせてもらってますー。もちろん、別の姿と声ですけどー」
一気にリスナーのハートを掴んでしまった。
さすが、狐の妖怪っぽい人だ。
『主様! シノさん凄い人気ですよ! リスナーを取られちゃう……!』
「いやいやフロータ、こういうのはねー、リスナーっていうのは推しを複数持てるわけだよ。だからね、スパイスとシノさん同時推しになるってわけ! で、シノさんは迷宮省の委託の人で別の仕事してるわけだから、自分で配信はしないでしょ」
「そうですー。うち、自分で枠建てしてリスナーさんを抱えて、ずーっとエンタメやるなんてしんどいことできませんわあ。なのでこうやって、たまーにスパイスさんの枠に出させてもらってお手伝いをする役割なんですー」
※『な、なるほどー!』『迷宮省め、とんでもない隠し玉を持ってやがったな』『スパイスちゃんにシノちゃんをぶつけてきたのは正解』『カワイイとカワイイが合流してダブルカワイイになっている』
ずっとコメントを読んでいたシノが、ちらっとこっちを見て、
「永遠に褒めてくれはるやないですかこの人たち。な、なんかうち、開いてはいけない扉が開きそうやわ」
「でしょー。承認欲求をハンマーでガンガン殴ってくるんだよリスナー。チャンネル開設してみる?」
「いや、うちは絶対途中でめんどくなってサボる。で名声が失墜する。うちの一族は飽きっぽいんですわ。だからスパイスさんに相乗りさせてもらう形で十分。承認欲求満たさせてもらいますー」
シノはうちの異世界専任スタッフみたいになりそうだな……。
式神が駐在するという話だったのに、ほぼ毎日、本人がいるし。
どうやら迷宮省に式神を派遣して仕事させているらしい。
「ということで、新しい仲間も増えたスパイスちゃんねる! 元気に異世界探索行ってみようー!!」
「おー!」
※『おー!』『おおー!』『行くぞ行くぞ行くぞ!』
『ん出発だぁぁ! 俺をメインフォームにするよなぁ!?』
「そうだねー。じゃあイグナイトフォームで。メタモルフォーゼ!」
『ん焼結ぅ!』
ばしゅーんと変身、イグナイトフォーム!
「うほー! ほんまにアバターやのうて変身しとるんやねえ! 魔法やあ」
※『えっ!? 演出じゃなくて本当に変身してるってコト……!?』『本物の魔法少女だった!?』『じゃあ、あの魔女との戦いはデーモンじゃなくて本物の魔女戦……!?』
「あーっ! いけませんいけません! スパイスの秘密は隠したままでよろしくお願いします」
「あっ、あははははは、今のはなし! なしやからねみなさーん!」
※『アッハイ』『はい』『うす』『押忍』
ということで、スパイス一行は異世界と繋がった部屋へ。
「浮かび上がれ、レビテーション!」
俺はふわっと舞い上がる。
「シノさん手につかまる?」
「うちは狐やから、これくらいの高さ全然楽勝!」
ぴょんぴょんっと壁を駆け上がって、窓に飛び乗るシノなのだった。
やはり人間の身のこなしではないのでは。
こうして窓の外に飛び出した俺たち。
トン、と足をついた異世界の大地は、荒れ果てた石畳の上。
黒胡椒スパイス、異世界に立つ!
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