第342話 対策を練るぞー
帰宅したスパイス。
そうすると、最上階の廊下で社長とくるくる髪の羊みたいな女の人がお喋りしていたのだった。
あれはライブダンジョンで、社長の同期の人だ。
社長がドラゴンと知っているのに、同期としてぐいぐい来る恐れを知らない女の人。
スパイスが「どーもぉー」と挨拶すると、彼女も「どぉも~」と挨拶した。
今、社長のお腹を指でつんつんしてなかった?
社長が振り返る。
「おうスパイスよ。先程人間めが我の巣に攻撃を仕掛けてきたな。まあ、このコーラルの築き上げた巣が、あの程度の攻撃で揺らぐことはないわけだが」
「あー、なんとなーく当たりをつけて攻撃してきたか!」
「ということは、スパイスの関係者か?」
「いえーす! 詳しい話はうちでします?」
「そうしよう。ではな」
「はいはーい。また配信でねー」
羊みたいな女性は手を振ると、座天使くおんさんの部屋に入っていった。
社長の同期チーム、ライブダンジョンでもかなりの存在感を見せつけてるらしいなあ。
みんな強烈なキャラなんだろう。
さてさて!
社長を迎えての最も古き魔女対策会議!
最近分かったんだけど、このマンションにいる限り、アネットの名前を出しても全く問題ないのだ。
社長の力が強いから、魔女の魔法がここまで影響を与えられないわけだね。
「なるほど、富士山の前で魔女の端末と対決をしたか。彼奴もリスクを負う気はあるまい。我の巣に攻撃をしてきた端末も、取るに足らぬレベルだった。あれならば幾ら繰り出しても、本体には何ら消耗はあるまいな」
「量産型アネットってこと!? なーるほど、尖兵を作りながら、次は自分の分身を繰り出す作戦か……」
より手広く、細やかに情報を集めていく。
アネットの狙いは一体なんなんだ。
『そうですねえー。あの人、基本的に自分以外の全てが嫌いなんですよねえ。だからきっと、滅ぼせそうなところを全部滅ぼす、くらいの思想だと思いますよ!』
フロータがとんでもないことを言った!
「そんな破滅的な! っていうかフロータのマスターだった頃からそうだったの?」
『そうですよー! 今までは力が足りないから出来なかっただけで、ついに魔王の力の一部を手に入れたでしょう。上手いこと動けば世界のあちこちを滅ぼせるって言うんで、そのための準備を開始してるんだと思います!』
「ひえーっ」
世界の敵!!
滅ぼすことが目的で攻めてくるやつ!
最悪じゃないかー!!
フロータも、アネットがどこから来たのかは知らないらしい。
最初からあの姿で、その頃はギャル口調じゃなかったっぽい。
『一番攻撃的で、相手を嘲弄しやすい口調だからああいう喋りなんだと思いますねー。あの女に、こだわりなんてものは無いですよ』
世界に対する悪意以外、何も無い空っぽな怪物。
それが最も古き魔女アネットというわけだ。
「あれっ? 端末とアネットが直通してるって考えると……任意のタイミングで端末を呼び寄せてぶん殴ったら、本体が来る?」
『あまりに強く攻撃すると警戒してこないんじゃないですか?』
「めんどくせー!! 嫌らしいし、変なところで慎重でチキンだし! なんなのあの魔女!」
『マスター、あの端末からどこかに魔力でパスが繋がっているのは確認しました。その魔力の波長も記録しています』
「フロッピーえらーい!」
「ほう! フロッピー、我にもその記録を分けてくれ。礼に受肉させてやっても良いぞ」
『社長にはお世話になっていますし、信頼できる方ですから無償で……』
「いい子だのう」
社長が孫を見るお婆ちゃんのように!!
魔導書たらし、人外たらしのフロッピーだ!
というか社長、さっき気になること言ってなかった?
受肉?
フロッピーも魔導書たちみたいな、活動形態を手に入れるってこと?
わあわあやってたら、マシロがお茶と茶菓子を用意して持ってきた。
さっきまでルームランナーで運動してたらしい。
「ショウゴさん……っていうかスパイスちゃんお疲れ様ッス! 社長も、はい。コーラは切らしててごめんなさいッス」
「よいよい。気にするな。ほう、双子もすくすくと育っておるな。生まれながらにして魔導書の薫陶を受けた、純粋培養の魔女。世界が初めて挑戦する領域となろう。いつでも英才教育をしてやるからな」
「社会に適応できる範囲でお願いしますー」
スパイスからはこう言うしかないのだ!
ここで、社長と話をしてまとまったこと。
1・アネットは端末を使ってこちらを見ている。
2・端末に恣意的な情報を見せて、アネットの意識をある程度コントロールできる。
3・あまりに力を見せつけるとアネットはブルって出てこなくなる。
4・こちらで準備を整えつつ、アネットをおびき寄せる必要がある。
フロータで時速800kmを出せばアネットの端末が来ることは分かったからね!
今後も少しずつ実験し、データを集めていこう。
さらにさらに、全国でアネットへの攻撃を行えるように共闘体勢を作り上げ……。
「うーむ!」
「考えているな」
「スパイスちゃんがこっちに専念できるように、あたしが会社のことを頑張ってるッス! 実はお肉どもさんの有識者の人も手伝ってくれてて」
「黒胡椒スパイスの総力戦ということだな? 我も身内だ。頼るがいい」
「ありがたいッス~!」
こうして!
対アネット戦線は新たな局面に向かうのだ!
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