第34話 炎の魔女戦、生配信!
「この間手合わせしてから、そうかなーと思ってたけど、想定以上に術中に嵌まってくれた感じかなー」
俺はダンジョンの中に駆け込みながら、そう感想を口にしていた。
『思った以上ってどういうことなんですか主様?』
※『スパイスちゃんあのデーモンと戦ったことあったの!?』『あれが魔女ちゃんですか……』『スパイスちゃんと全然ちがーう!』『モヒカンつよつよ量産型女子のようなノーサンキューぶりを感じる!』『やっぱスパイスちゃんよ』
「ありがとーありがとー! 実はスパイスねー、とあるところであの魔女の人とちょっと対戦したんだけど、そうしたら向こうがカッとなって周りを巻き込んで攻撃してきてねー。あっ、この人、瞬間湯沸かし器みたいな性格で、怒ったら周りが何も見えなくなるタイプだーって気付いたんだよね! 今回の作戦はそれを利用してます! フロータ、配信では全部声に出して喋っちゃって!」
『いいんですかー? ペッパーおよびお肉どものみなさーん、こんにちはー! もうすぐこんばんはー!』
※『フロータちゃんだ!』『声が良すぎる』『こんばんはー!』『クリスマスの夜の前にこんなイベントがあるなんて!』
ダンジョンの入口が吹き飛び、炎を纏った化け物みたいなのが入ってくる。
オレンジの髪に瞳はどちらも炎を吹き上げ、やっぱり炎の色のローブみたいなのを纏い、炎の翼を広げているのだ。
炎の大渋滞だ!
一気にダンジョン内の温度が上がったねえ。
あんまりにも目立つから、ゴブリンたちがゴブゴブ言いながら突っかかってきて……。
「雑魚が! 近寄るな!! 燃えろーっ!!」
『ゴブグワーッ』
睨まれただけで一匹が燃え上がり、頭を掴まれて一瞬で燃え尽きて炭になって崩れ落ちたり、炎の翼で叩かれて炎上しながら転げ回ったりしている。
ひえ~。
「怖いねー! 触ったらアウトだよあれ!」
※『やべえ』『もう見てて分かるもん!』『なんだあれ!』
『いえいえ、あんな炎、見た目だけの虚仮威しですよー。余計なことに魔力を使ってるから、あいつの攻撃は散発的でセンスがないんですよねー』
フロータ辛辣ぅ!
これを聞いて、フレイヤがもちろん激怒した。
「クソガキが!! ここで焼き尽くしてくれる!! 燃えろ!!」
炎の魔女の目が光った気がしたので、俺は慌てて目を背けながら地面を蹴った。
実は既にレビテーション済み。
横にスイーっと移動したら、さっきまでいた場所に火柱が上がっている。
「あぶなー!! でもでも、スパイスも反撃しちゃうぞー! 取り出したりますこのボールペン! それからこれは1人分の体重まで支えられる難燃性のプラスチック板! あと、難燃性の布! これで戦っていくよ!」
※『炎の備えはバッチリだ!』『難燃性なら燃えないだろうなー』『難燃性って?』
「それはねー」
説明している間に、炎の魔女が猛烈な勢いで迫ってくる。
もう、自らの手で直接俺を焼きたくて仕方ないようだ。
火柱でも飛ばされたら面倒だったが、相手が直情径行で助かる。
スパイスの姿になっているせいか、俺は異常に冷静だった。
そして眼の前にいるこいつは、祖母の仇の一人なんだなーとクールな頭の片隅で実感する。
「燃え尽きろ、ガキィィィィ!!」
炎上する手が振り下ろされる!
そこをめがけて、俺はボールペンを浮かせて対抗した。
「アクセル! ボールペンミサイル!」
百均で購入したボールペンセットが、次々に撃ち出される。
一本が魔女の腕を弾いてから溶け落ちた。
何本かが魔女の体にあたってから溶ける。
「ぎいいいいいっ!! なんだコレ! うざい!! なんだこの攻撃!!」
ダメージにはならない。
当たる直前に溶けて力を失うので仕方ないのだが、それでも俺が射撃攻撃をもっているということで、魔女の動きが少し鈍った。
無意識に警戒してしまうんだろう。
だが俺は、この魔女がアホだと知っている!
「難燃性っていうのはねー。ただの布ならこうやって……アクセル!」
「ふん!!」
俺が飛ばしたただの布を、一息で燃やし尽くす炎の魔女。
「燃え尽きちゃうでしょ? でも難燃性の布は簡単に燃え尽きなくて、割と粘るんだ! こんな感じ! アクセル!」
次に飛ばした布が、炎の魔女が生み出した火柱の弾丸とぶつかりあった。
火柱も結構な勢いがあるんだが……。
なんと、俺の難燃性の布はそれとしばし拮抗する。
『わー!! 主様分かりやすーい! 実践のお手伝いありがとうございますクソ魔女ー』
※『ほんとに燃えないんだ!?』『すっげえ』『職場で使ってるけど実際に燃えづらいのを見るのは初めてだな』
「なんだと!? 布であたしの炎を受け止める!? 舐めるなクソガキぃぃぃぃ!!」
「イッツ、同接パワー! 絶対にリアルでは試さないでね!! あと、スパイスのフロートは浮かせたものを空間座標に固定するからね。物理的な押しには弱めだけど、魔法同士なら力比べだよ!」
「あたしの方が魔力が上だ!! クソガキにそれほどの力があるわけがないだろう!!」
「だから同接でブーストしてるんだっての! いやいや、配信業界に疎いおばさんには分かんなかったかなー! ごっめーん!」
「ガキィィィィィィ!!」
怒り狂った炎の魔女が、炎の翼を大きく伸ばして俺に熱風を送ってくる。
サウナなんて目じゃないような熱風だ。
だが、ここに難燃性ののぼりを配置して壁にします!
「ガード!!」
※『難燃性すげー!!』『難燃性万能じゃん』『同接でブーストされてるからって、炎と渡り合うのやばすぎでしょ!』
実際は、難燃性でも燃える。
なので固定した布もゆっくりと焼かれて縮んでいってしまっているわけだが。
これでペッパーどもに、難燃性はかなり燃えない! というイメージをつけることができただろう。
この間、例の話題になっている配信者、きら星はづきに関するまとめ配信を見て直感したことだ。
彼女の武器は、なんと野菜のゴボウ。
そんなもの、武器になるはずがない。
だが彼女は多くのダンジョンでこのゴボウを振り回して活躍し、ついにリスナーは、きら星はづきのゴボウはダンジョンに極めて効果的な武器である、という共通認識を持ちつつあるのだ。
実際に、ゴボウはスーパーに売っているものでさえ、ダンジョンにおいて武器として機能する事が確認されている。
つまり……。
リスナーの共通認識になるほど、その屁理屈やデタラメは真実になる!
鰯の頭も信心からって言うもんね。
ってことで、この切り札であるプラスチックの板をどう当てるかなんだよねえ。
スパイスだけだとここで拮抗するのがせいぜいなのだ!
「そろそろお助けー! チャラちゃーん!!」
「ヒャッハー!! 騎兵隊の登場だぜぇーっ!!」
チャラウェイの叫びが響いたと思ったら、彼がダンジョン入口からバイクで駆けつけてきた。
※『なんかびっしょり濡れてる!』『外雨だった!?』
※『チャラウェイは炎対策で水をかぶってきたんだぜぇーっ!』『これで備えは万全だ!』
チャラウェイのリスナーさん解説感謝!
「ヒャッハー!」
いやいやいや、そんなバカな、とお思いでしょう。
「馬鹿め! 水程度であたしの炎が!!」
炎の翼が伸び、チャラウェイを打ち据える!
だが、こいつをチャラウェイは手にしたゴム製のトマホークで受け止めたのだ。
そしてひっきりなしにトマホークに水鉄砲で水を掛けている。
「完璧な備えだぜぇーっ! ヒャッハー!!」
※『うおおおおおお』『さすが俺たちの世紀末系モヒカン配信者チャラウェイ!!』『完璧な対策が大当たりだったなぁーっ!!』『手の内を知られたがうぬの敗因よ』
既にチャラウェイのリスナー、正気にあらず!
これは我に返って、中途半端に常識的な事を言った人から死ぬデスゲームみたいなものなのだ。
リスナーの信心が!
鰯の頭でも魔除けと信じ込むような心が!
古代の魔女の超神秘と拮抗する!
俺たちの鰯の頭を喰らえ、炎の魔女!!
「ば、ば、馬鹿なーっ!! あたしの炎を水鉄砲で!?」
それでも、信仰を集めた水被りは魔女の炎によって蒸発してしまう。
チャラウェイは水鉄砲を攻撃に転じ、溶け始めたゴムトマホークを捨ててバイクを走らせた。
百均の水鉄砲の水を撃ち尽くしたら、バイクにマウントしていたかっこいいウォーターガンをぶっ放し始める。
運転しながら片手でウォーターガン射撃をするのはさすがチャラウェイ。
俺もこの隙に、次々に燃えにくい百均グッズを放って魔女に嫌がらせをした。
「くそっ! くそっ! くそっ! お前ら、ウザい!! なんだお前らは!! あたしはこんなコケにされたのは初めてで……!!」
怒り心頭の魔女は、かといって俺とチャラウェイの攻撃を無視できず、炎の力で防ぎながらじりじりと迫ってくる。
しょぼい攻撃が信仰を得て、魔女に届く聖なる一撃に変わりつつあるのだ。
俺もチャラウェイも、かなり同接が伸びてきてる。
威力は増すばかり。
魔女も、これは異常な状況だと理解したのだろう。
俺を叩き潰して状況を終わらせようと、速度を上げた。
炎が生み出す揚力で、魔女が飛び上がる……!
そして到着したのは、ダストシュートの真下だ!
「追い詰めたぞ、クソガキ!!」
俺の背中には壁!
頭上には魔女!
イッツ・ベストポジション!!
俺は笑う。
「あははー!! 追い詰めたのはこっちだよ、おばさーん!!」
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