第326話 会場を下見だ
「ってことで、オフ会の会場なんだけど」
「スパイスさんも急だよねえ。忙しいのは分かるけどさ」
「チャラさんだって忙しいでしょ。お互い多忙だ」
「ほんとほんと」
配信者としての姿とは全く異なる、おじさん二人が訪れた中央線沿線のとあるイベントスペース。
入れる人数は限られてるから、チケットは抽選制。
黒胡椒スパイス初のオフ会を行うことになっているのだ。
既に抽選が始まっており、リスナーたちは激戦の様相を呈している。
みんな無理しないでやってほしい。
四月末なんか、忙しい人も多いだろうからね。
「ほほーん、地下の会場なんだ」
「大きいライブハウスみたいな感じだねえ。あ、どうもどうも、黒胡椒スパイスと申します」
「えっ!? ……あー、これはこれは。お世話になっております」
ペコペコと挨拶する、俺とスペースの担当者。
ここはきちんと現実の姿で対応しておくのが誠実だからね。
「イベントはワンドリンクとフード付き、追加注文は別料金です。時間帯は……」
「ふむふむ」
現場で詳しく話し合う。
ネット越しでもいいけど、やはり現場に来たほうが分かることって多いからね。
「へえー、ライブハウスみたいな感じって聞いてたからどんな広さかと思ったら、結構スペースがあるじゃん!」
チャラウェイが会場内を歩き回って感心している。
彼もオフイベントをたまにやったりしているが、こういう会場を使うという選択肢も生まれるかも知れない。
色々な打ち合わせを現場でできたということで、満足して外に出る。
さて……。
近い駅で大京さんと待ち合わせだが……。
沿線から見える桜が満開だ。
ちょうど今は、卒業式シーズンだろう。
若者たちが人生の新たなステップに進んでいく……。
「はづきちゃんも今日卒業だっけ?」
「だねえ。デビューから見守ってきた俺としては、感慨深いなあ~」
「チャラさんは俺の本当のデビュー戦にもいたもんなあ」
「そうだったそうだった! 何の因果か、本当に大きな出来事のスタートアップに俺が毎度いるんだよなあ」
「運命だよ運命」
「運命かなあ。俺は特別なことも何も無い普通の男だと思うんだけどなあ」
普通の男が、様々な配信者から慕われていたり、異世界からやって来たドワーフたちの社会参加を全面バックアップしたりはしないぞ。
彼は凄い男だと俺は思っているのだ。
ここで、大京さんが合流。
「おーい」
「あっ、あの人、駐車場から来たぞ」
「駅で待ち合わせなんだから電車で来ると思うじゃん普通」
こうして三人が一緒になり、飯に行こうということになった。
「いよいよママ……じゃない、はづきくんが卒業だな」
「外で十代の女の子をママ呼びはやめておきましょうや」
「事案だ事案」
「元政治家の俺が事案で捕まる」
わはは、と笑いあいながら、個室焼肉屋へ。
いいお値段がするが、その分だけ機密が保たれているから安心。
配信者同士でしかできない話題だってできてしまうのだ。
「オフ会か……。俺もやりたいが、まだ一年目だしな。もうすぐ二年になるが。あと、俺のリスナーは何気に女性が多くてな……。どうしてなんだ」
「はづきちゃん謹製のアバターが女子ウケしそうな顔してますからね」
「そうなのか……!? そうなのかあ……!?」
分からぬ、という顔の大京さん。
あなた御本人も、いかつめだけど顔整ってますからね。
これを乙女ゲーの登場人物風にリデザインしたきら星はづき画伯の技量よ。
本当になんでもできるな、あの子。
「俺のアバターもデザインしてもらったほうが良かったかなあ」
「えっ!? 耽美なチャラウェイ!?」
「わはは! それはいい! 後でママに連絡しておくよ」
きら星はづき引退後の初作品が、乙女ゲー風チャラウェイになってしまう!
これは話題になる……!!
ビールが来たので、乾杯する。
昼から飲む酒は美味い!
そして焼き肉!
男三人で、肉をびっしり並べて、じゅうじゅうと焼けていくのを眺める。
「でさ、スパイスさんとこのあれはどうなの? 魔女が魔王の力を使って悪さしてるんでしょ」
「ああ。だけど表立った動きは無いらしい。一応、普賢真人からすると裏の世界に対して攻撃を始めているらしいんだけど」
「ほーん」
チャラウェイが焼けた肉をサンチュで巻いてもりもり食べた。
大京さんはタン塩にレモン汁をちょっとつけてもりもり。
「表の世界で暴れると、彼女が来ることを警戒しているんだろうな」
「でしょうねえ。しばらくは様子見しつつ、自分の勢力を広げようと暗躍すると思います」
その間に、スパイスとしても魔女包囲網を作っておきたいところ。
現在は欧州のエクソシストたちに連絡を取っている。
オーストリアは丸ごと味方についてくれたんだが、あの辺り、一国ごとに一勢力だからなあ。
その他に、イギリスのルシファー議員やアフリカの呪術師たちにも繋がりを持っておきたいし……。
いや、アフリカは欧州以上に細分化されているから、タリサの親族以外は難しそうだなあ。
「スパイスくん、肉を食う時に顰め面をしていると、不味くなるぞ」
「あ、これは失礼」
「つーか、思った以上に婉曲な攻め方してくるよな、例の魔女……。最初にスパイスさんに接触してきたのなんだったんだ」
「テンション上がって攻撃してみたけど、よく考えたらはづきちゃんがいるから自重してる……みたいなのじゃないかなあ。しばらく裏で活動したら、表でも動き出す気はする……」
「なるほど。タイムリミット付きというわけか。では、俺達も準備しておかなくちゃな」
「ほんとだぜ」
フォーガイズの二人も、何気にやる気なのだ……!
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