第324話 力をお借りしてですね
現れたのは八咫烏の妹さん。
次期当主で、術の才能に満ちたお人で、この国の呪的防御の要みたいな人らしい。
「エミナは男としての呪力と女としての呪力を両方持っていて、同時に術を使えるのが天才なんだよ」
「ほえー、すげー」
「お兄様!? 我が家の秘密をペラペラ喋らないでください!」
エミナさんにペチっと叩かれる八咫烏なのだった。
彼女は、長い黒髪の女性で着物を身に着けている。
上座から、彼女はスパイスをジロッと見た。
「なんですか、貴女。お兄様の特別な人ですか? 見た目は幼くても、その精神が老成している事はわかります。只人ではなく、魑魅魍魎の類ですね? というか、頭の上に魔書の類が我が物顔で飛び回っていますが!」
「ごめーん! 魔導書戻れー!」
『はーい!』
『はいでやんす~』
『分かったわよぉ~!』
戻ってきたぞ。
「えー、じゃあまずは自己紹介を。黒胡椒スパイスでーす。魔女やってます」
「なるほど……。シヅル様がご一緒されているから、関係者ではないかと思っていましたが」
古き魔女、顔が広い!
彼女はニコニコしながらお茶を飲んでいる。
「スパイスさん、ね……。お兄様とはどういうご関係で?」
「友達ですね! 一応スパイスは妻子持ちなので怪しんでるような関係もありません! ヤタさんとは一緒にゲームする仲でーす!」
「妻子持ち……!? ま、ま、ま、まさか男性なのですか!?」
久々だなーこの反応!!
詳しい説明をした後、ついでに最も古き魔女アネットの復活とパワーアップ、世界的な新しい危機の話などをする。
「待ってください! 待って待って! 情報量が多すぎます! あまりにも多いです! 我々の力でも及ばなかったかの天魔を何者かも知れぬ娘が倒しただけでも、術者たちが横転したのに……」
「今の世界の流れは超速いからねえ」
「ほんとほんと」
スパイスと八咫烏で頷き合う。
その渦中にいたもんねー。
「ちなみに僕も配信しながら戦ったぞ」
「お兄様!? 公衆の面前で斬魔の剣を振るったのですか!?」
裏社はインターネット環境が無いそうなんで、エミナちゃん見てなかったっぽいな。
「ラーフで射撃しながらたまに斬る感じで騙したからセーフだよセーフ」
「うーん」
エミナちゃんがぶっ倒れてしまった。
こりゃいかん。
ワーッと使用人みたいなお面をつけた人達が出てきて、エミナちゃんを介抱した。
おお、すぐに回復したみたい。
「失神しているうちになんとなく理解しました。つまり、天魔の力を奪い取った魔女がいて、それが何者かも知れぬ娘が引退したのを好機と見て、世に覇を唱えたと? うーん、倒れそう……」
「なので、みんなで力を合わせて行こうーっていう呼びかけのために来ました。以上でーす!」
「な、なるほど……。スパイスさん、あなたがその中心にいることは分かりました。我々裏社も協力することにやぶさかではありません。手をお貸ししましょう」
「前のやつはうちが内部でわあわあ紛糾してるうちに、はづきちゃんが解決しちゃったんでしょ」
「お兄様ーっ!! 家の恥を口にするのはおやめください!!」
な、なるほどー!!
裏社という八咫烏のご実家の存在感が薄かったのは、様々な勢力がいてその意見がまとまらなかったからなのか。
で、どうやらエミナちゃんが最近、ようやくその連中を一掃して意見を統一できたらしい。
「とにかく! お兄様がせっかく帰ってきて下さったのですから、しばらく家にいて下さいませ。ああ、お客様方はご自由にどうぞ」
「いや、僕も帰るよ? 帰るからね?」
「駄目です! いけません! 許しません!」
「帰るよ! 帰るからね!」
あっ!
八咫烏が逃げ出したので、エミナちゃんが式神みたいなのを大量に呼び出して追いかけ始めた!
「まあ、ご家庭の事情にはあまり突っ込まない方向で……」
「そうですね。それにしても、あんなに小さかったエミナさんがこんなに大きく……」
おおーっ、シヅルさんのおばあちゃんモード!
見た目が物凄く若くなっているから、ちょこちょこおばあちゃんムーブしないとあの校長先生と同じ人だとは思えなくなるんだよね。
ということで。
約束も取り付けたし、はづきちゃんの卒業式も近いしということで撤退!
色々な秘密が隠されていそうな裏社だけど、スパイスたちの主目的ではないからね……!
「ヤタさん大丈夫かなー?」
「坊っちゃんなら平気でしょう。あの人を止めるには、裏社全員で掛かっても足りませんからね」
シノさんがニヤニヤしながら言うのだった。
その言葉の通り、空港に到着したスパイスたちは、ロビーで待っている八咫烏に遭遇した。
はやーい!!
「ハハハ、逃げるのは得意なんだよ! それに、実家じゃ僕が果たす仕事も特に無いからねー」
その割には妹さんからの愛が重かったような気がするなー。
近い内に妹さん、東京に襲撃に来ない?
当主になる人だから来ない?
ほんとぉー?
こうしてスパイスたちは再び機上の人に。
あっという間に成田到着。
リムジンバスで都心へ!
「ということで、本日は解散です。お疲れ様でした」
シヅルさんがペコリと頭を下げて、スパイスとシノさんと八咫烏でわーっと拍手したのだった。
いやあ、弾丸旅行だった。
日帰りで出雲の裏社行って協力とりつけて帰って来ることある?
あるのだ!
なお、島根県の名産お菓子をたくさんお土産で買ってきたので、マシロは大喜びだったのだった。
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