第320話 最も古き魔女アネット
はづきちゃん引退イベント終了の翌日。
色々終わってしまったんだなあ、と感慨にふけっていたら、タリサから『スーダンまで送ってー!』というコールが来たのだった。
「よーし! スパイスタクシー発進!」
飛び立つスパイスなのだ!
日本海上空にて……。
『あっ!! 主様まずいですよこれ!』
フロータからの警報が!
「なんだなんだ!?」
『メンタリスが常に魔力感知しながら活動してるんですけど、どうも私が知ってる魔力の波動が来てるんですよー! それがものすっごく大きくなってるやつ!』
「どゆことー?」
『つまりー!』
『フロータの元の持ち主ってことよねぇーっ!! それって、最も古き魔女でしょーっ!? アタシたち今、三冊しかいないからヤバいわよ!!』
『いいでやんすか主様、姿が見えたら最高速度でモンゴル方面に移動でやんすよ!!』
「魔導書みんな慎重じゃん!! だけどそのレベルってことだよねー。これは気をつけないとねえ!」
「ほんとほんと~」
「ねー! ……あれ? 上空で相槌が返ってきた」
『で、出た~!! 出ました!!』
「えっ!?」
すぐ横に、髪の毛を金色に染めたギャルっぽいのがいる!
これ、映像で見た魔王じゃない!?
いや、魔王ははづきちゃんに倒されて、確かその力を最も古き魔女が奪ったから……。
「そそ。そういうこと~! ウチが最も古き魔女……ってなんか年寄りみたいじゃね? アネットって名乗っとくから。んじゃ……配信もしてないみたいだし……死ね」
「うおわー!!」
ここで即座に動けたの、スパイスの危機管理能力の賜物だね!
ってかちょっと気が緩んでたのは反省だ!
即座に全力でスパイラルを展開したら、そこにバババババッと降り注ぐバカでかい槍みたいな魔法!
これ、魔王が使ってた槍状宇宙線だ!?
スパイラルでなければ即死でした!
これを散り散りにしながら、スパイスは魔導書たちに指示を下す!
「フロータ、フライト全速力! 宇宙!? 出てもいいー!! メンタリス全出力でショック!! パワードひたすら魔力供給! みんな同時にゴー! おらー!! スパイスはリバースを暴走させてぶつけるぞー!!」
「うわお!! 判断はえー!! 初撃で仕留めらんなかったのマズったかあ!」
最も古き魔女……アネットがちょっと驚いたみたい。
不意打ちで殺しきれなかったのが意外だったか!
スパイス、優位側で戦うことが多いけど、本分はアクシデントが発生した時のリカバリー能力なのだ!!
うおおおおイレギュラー対応しまくってきた社会人を舐めるなー!!
ってことで、ありったけのショックがアネットに叩き込まれる。
「わはははは! これなかなか!! やるじゃんやるじゃん! ウチの足が止まるわこれー!! 一瞬だけどー!!」
「その一瞬で十分! じゃあねー!!」
フライト全速力!!
バビューンと宇宙に飛び出すスパイスなのだ!
『マスター、追跡の魔法が掛けられています』
「フロッピー解除できる?」
『解析中です。解析が終わるまでの間、フライトでの飛翔を継続してください!』
「おっけー!!」
スパイスの周囲の光景が青空から、どんどん黒い宇宙に変わっていく!
そして超高速で飛んでるつもりなのに……!
『うおおおお!? 最も古き魔女! 迫ってくるでやんすー!!』
「フライトより速いのずるいでしょ!!」
『アタシの魔力、全部ショックに叩き込んでるからよぉー!! それにアタシの力は接触しないとぶつけづらいけど、近過ぎたらマスターがまずいでしょー!!』
「それはそう! じゃあパワード!! 魔力はフライトに全部! メンタリスは魔力感知とフロッピーの解除手伝って!」
『了解でやんす! さすが冷静な判断でやんす!!』
ピンチの時ほど頭が冷静に冴えわたるぜー!
中間管理職経験者のパワーを見よ!
スタッフの能力を把握して、状況に応じて指示を出す!
これがスパイスの一番のスキルかも知れない……。
「マジ!? 判断はえー!! ギリギリ届かな……」
すぐ耳元で声がしたと思ったら、フライトが超加速した。
やべー!!
手が届くところまで追いつかれてたじゃん!!
ただ、向こうも手出ししてこなかったということは、自力でフライトに迫る速度を出すので手一杯だった可能性がある。
だが、パワードの協力でむちゃくちゃ加速したので……。
今、地球の全貌が見えるところまで来ております。
完全に宇宙に来ちゃったねえ……。
エーテルがなかったら即死だった。
エーテル宇宙バンザイ!
アネットはスパイスを見失ったらしい。
しばらく待っても何の反応もない。
「一時間くらい待ってからモンゴルに降りよう。いやー、怖かったー」
『あれ、絶対に私達が揃ってないところを狙ってきましたよね』
『やっぱりあれでやんすね。きら星はづきが引退するまで大人しくしてたでやんすね、これ』
『ずる賢いやつねえー! 絶対に勝てない相手とはぶつからないってことよね!? 男らしくねえぞ!!』
魔女だから女だしね!
『先程、この宙域到達前にメンタリスお兄様と共同で追跡の魔法を解除してあります。あとは、マスター。恐らく私の分析では、今回の件はフライトによる加速を捕捉されたものと思います』
「ほうほう」
『魔女アネットはもともと、フロータお姉様のマスター。ということは、フロータお姉様の魔力をよく知っているものと思います。フライトはその性質上、強い魔力を周囲に振りまきますから、今回のスパイスタクシー後は使用に封印を掛けるべきだと思います』
「な、なるほどー!!」
『私のことをマークしてるってことですかあー!? な、なんたること~!!』
ひとまず今回の移動は、超高速でモンゴルに降り立ち。
タリサを回収して、フロッピーがカラフリーから習い覚えた魔法で彼女をカバー。
そしてそして、スーダンまで送り届けたら……。
「なんかスパイス急いでる? じゃあまたねー! また遊ぼうねー!」
「タリサばいばーい!」
『ここでゲートを開いて、異世界を通って帰りましょう!』
フロータの提案でそういうことになったのだった!
いよいよ、直接的に接触してきたなラスボスめえ。
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