第32話 チャライスのお誘い
ダンジョンはおさえた。
酔っ払ってダストシュートへ落下した人が、その恨みから発生させたダンジョンだ。
そもそも社内の、危険なダストシュートがあるところで飲酒をするな。
規模は地下のゴミ置き場がダンジョン化しており、ダストシュートの真下が最奥部になる。
そして、そこから空に向かって貫通するように、巨大な穴が空いていた。
ダンジョンに巻き込まれた業者がおり、彼らはゴミ収集車の中で籠城しながらこの穴を撮影したらしい。
今はどうにか脱出できたそうでなにより。
クリスマスにゴミ収集の仕事、本当にお疲れ様です!
いろいろな意味で時間が無いので、俺はダメ元でチャラウェイに連絡した。
「クリスマス空いてます?」
『およ!? デートのお誘いっすかね? 夜には配信をする予定だけどね。ゲーム配信』
「実はちょっと緊急でコラボして欲しいダンジョンがあってですね。あと、色々道すがら俺の事情もお話するんで」
『ふんふん……オッケー。俺はスパイスちゃんが信頼できる人間だって分かってるから、何かの事情があると察するけど。ただし、条件がある』
「な、なんですかね」
『俺のゲーム配信一緒にやりましょ』
「あっ、そっちですか。いいですよいいですよ」
ということで!
サクッと話はまとまったのだった。
持つべきものは頼れる先輩配信者だ。
チャラウェイの存在がありがたい。
俺はすぐさま、配信予告をした。
『チャラウェイちゃんと緊急コラボだよー!! クリスマスのお昼はハッシュタグ・チャライスで呟いてね! あと、超強力なデーモンの炎の魔女も出るよ! すっごい化け物!』
よし!!
猛烈な挑発を付け加えておいた。
さらに俺の画像もアップ!
出かける際には、スパイスの姿に変身し……。
『主様! 速攻で呪詛の入ったDMが来ました! 効いてます、効いてますよー!!』
「炎の魔女だけあってすごく怒りっぽいな……! 罠とか考えないものかね」
『嵌まってから踏み潰せる自信があるでしょうからねー。超火力ですよ炎の魔女は! あ、でもゴミも焼却できて一挙両得~』
「そう言うこと! DMは開かないでブロックしておいて!」
『はーい! これでブロックとか、挑発もいいところですよねえー』
本日のスーパーモデル・フレイヤの予定は、都内のレセプションへの参加。
そこで急遽スピーチも行う予定だとか。
残念だが、フレイヤはもう来ないよ。
俺が今日ぶっ倒す。
決意を固めて、外に出ようとし……。
「いっけね、スパイスの衣装のままだ! メタモルフォーゼ……制服!」
この間見た、某名門女子校の制服にチェンジだ。
玄関から出たら、ちょうどお隣さんがゴミ出しから戻ってくるところだった。
「こんにちはー」
「あ、こ、こんにちは」
会釈をしてすれ違う。
うん、完璧だ。
完璧に誤魔化せている。
『主様、めっちゃ後ろから見てきてますよ。熱視線です』
「そりゃあ、スパイスがカワイイからでしょ」
『あっ、納得するしかない理由ですねー』
『配信者だってバレていませんか』
フロッピーが不穏なことを言ったが、今はスルーしておこう。
チャラウェイと合流する駅まで到着すると、ハイエースが止めてあった。
例のチャラい姿で、「ウェーイ!」と手を振ってくる。
俺も「うぇーい!」と手を振り返した。
エスカレーターの上だったんだけど、後ろにいた会社員っぽい人がぎょっとして、俺とチャラウェイを交互に見ていた。
決していかがわしい関係ではありません。
あっ、この制服であのハイエース乗り込むの、風評被害かな……。
「お待たせ、兄貴ー!」
一言加えておいた。
そうしたら、会社員の人がほっとしたようだ。
うんうん、兄妹なんだって思っててくれ!
お兄ちゃんよりも、兄貴のほうがリアリティあるだろ。
『主様、こういう知恵はめちゃめちゃ働きますよねー』
『大人の悪知恵です』
「悪知恵ではない」
フロッピーの教育に悪い!
訂正してから、チャラウェイと合流したのだった。
「今日はいきなりスパイスちゃんじゃん。ハイエースの中で変身したら良かったのに」
「それは理由がありましてー」
助手席に乗り込み、シートベルトを付ける。
フロータとフロッピーが入ったカバンは後ろの座席へ。
「詳しい話をすると長いんですけど、スパイスは魔女なんですよね」
「ふんふん。……えっ、設定じゃなくてマジで?」
「そうです! なのでこの変身もバーチャライズじゃなく、メタモルフォーゼという魔法で。メタモルフォーゼ・スパイス!」
Aフォンのフロッピーがカバンに収まったままなのに、俺が変身を始めたからチャラウェイは驚いた。
民生Aフォンは、使用者のすぐ近くにいないとバーチャライズの機能が発生しない。
カバンの中なんてもってのほか。
だけど、こうやって変身できるということは……。
「いつものスパイスちゃんになってるじゃん!! マジのマジで魔法かあ!!」
「そうなんです、そうそう。お分かりいただけただろうかー」
「お分かりしちゃいましたー! んじゃ、スパイスちゃんが今日、俺に共闘を依頼してきたってのは……」
「スパイスは今、先代魔女のおばあちゃんから魔導書を継承して、七人の魔女と戦うところでして」
「行き先に七人いるの!?」
「一人だけー。しかもこっちを舐めて掛かってる魔女が来ますねー」
「あっ、そー! うひょー、それは撮れ高えなあ!」
不意打ちみたいに重要な話をしたのだが、チャラウェイはニヤニヤ笑って喜んでくれている。
本当にいい男だ。
大切にしよう。
「そんじゃあ、スパイスちゃんが狙うのはジャイアントキリングだ?」
「そゆことになりますね」
「うーん、燃えてきた。俺、そういうのだーいすき」
『ご理解いただけてありがとうございまーす!!』
フロータが勝手にカバンから飛び出してきて、チャラウェイにお礼を言った。
「うおーっ! 本が飛び上がって喋ってる! AIではなく? 本物の魔導書? 魔法? うほお、本当にあったんだなあ」
「理解が早いなーチャラちゃん」
「俺はゲーマーだからね! こういう設定には慣れっこよ。よろしくな! えーと」
『フロータですー! よろしくお願いしますチャラちゃん~!』
「おっけー! フロータよろしくな! ウェイウェイ! 面白くなってきたじゃんよー! クリスマス最高の盛り上がりが待ってるぜ!!」
ハイエースは猛烈な勢いで、ダンジョンへと向かうのだった。
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