第312話 グッズを作るぞ!!
前々から連絡をもらってはいたのだが……。
ついに、その日が近づいてきた。
『アーラアー! 天才赤ちゃんは違うわねーっ!! なーに? アタシのパワーを使いこなしたいのぉー!? だったら力をくれてやるわよぉーっ!!』
『んやめろパワードォ~!! 赤ん坊にお前の力は使いこなせないだろうがぁ!』
『そうですよー! あなたの力ってほんと抽象的なんですからーっ!』
魔導書たちが我が家の赤ん坊たちの上でわあわあ言いながらポカポカ争っている。
ホムラもミナトもこれを見上げて、キャッキャッと喜んでいるのだ。
この光景を見ていたマシロが、浮かぬ表情の俺に気付いた。
「なんスかなんスかパパ。何かを深く考えているような」
「いやな。いよいよ今月、きら星はづき引退なんだ」
「あー」
きら星はづき。
三年前、まさにきら星の如く現われ、ゴボウでモンスターを倒すというセンセーショナルなデビューで瞬く間にトップ配信者への道を駆け上がった女の子だ。
まだ現役女子高生にして、俺が調べたところ、一切の魔法的バックボーンを持たない。
本当に、完全に、ごく普通の女子高生が世界の頂点まで駆け上がり、そして全てのダンジョン禍の根源であった魔王、マロングラーセを倒した。
こうして世界は救われ、ひとまずは調和が保たれた……。
なんか、魔王はこの星をゴボウアースと呼んでいたらしく、今ではいろいろな場所でゴボウアース呼びが定着し始めている。
そんなきら星はづきが引退するのだ。
「一つの時代が終わるなあ」
「そうッスねえ……。ほんと、冗談でも誇張でもなくてそうだと思うッス」
世の中は、きら星はづき前ときら星はづき後に分けられると俺は思っている。
もともと、冒険配信者の商業展開は行われていた。
だが、これはあくまでアイドル売りやキャラクタービジネスとしての延長線上だった。
それが、なんときら星はづきのアクスタや抱き枕カバーなどのグッズは、実際にダンジョンで魔除け的な効果を発揮したのだ!
これによって、冒険配信者のグッズはその配信者の認知度によって変わるが、ダンジョン避けやお守りとして使えることが判明した。
今ではどんな配信者も、自分のグッズを出したりしてるからな。
俺は出してない……。
なんでだ?
出すか!!
リスナーからもずっと要望が多かったし。
「ということでー! 流石にそろそろ、黒胡椒スパイスグッズを出そうと思うんですけどー」
※『うおおおおおおおお』『ついに!!』『今までネットで配布される画像とかばっかだったからな』『極稀に何かとのコラボでちょっとだけ商品が出てた』『なんでスパイスちゃんは頑なにグッズを出さなかったんだ』
「実は他の業務で忙しくてそれどころではなかったんだよね! 魔導書集めるのと、あとは裏で人間関係調整とか色々やってたでしょー」
※『そう言えば……』『なにげに激務の幼女なのだった』『だけどグッズ出るの嬉しい!』
「うんうん、ってことで今日はグッズの種類会議! 何がいいと思うー? まずアクスタは出すけど、七つのモードのアクスタを一度に出すと大変だし在庫が……だから基本フォームから毎月追加していく感じで」
いきなり抱き枕案が出たが保留しておいた。
それはあれだろう!
必殺技みたいなものだろう!
「まずはジャブからやっていくから、覚悟してろよみんな~」
※『ひぇー』『震えて眠る』『楽しみすぎる』
そんなこんなで、スパイスグッズを発注だ。
もともと、グッズ制作の会社から声を掛けてもらってたんだよね。
趣味で、会社の裏取りなんかもしてたんだけど……。
やはりここでしょう。
この二年ちょっとで大きく勢力を伸ばしてきた、バンダースナッチ㈱さん。
きら星はづきグッズもここが出してるので、配信者からの人気は抜群。
制作依頼をしても順番待ちだそうだから、スパイスはまったり進行かな……と思っていたら。
『あのスパイスさんですか!? ぜひぜひ! やらせてください!! きら星はづきちゃんの引退グッズ企画が終わったところだったので、新しい大型企画を探していたんですよ』
なんと!!
この会社には、通常受注部門と大型企画受注部門があるのだった!
スパイスが大型企画部門だってー!?
こうして、バンダースナッチ㈱まで出向いたスパイス。
きら星はづき引退イベントまで日が近いし、簡単なリハーサルみたいなのもあるのでそのついで。
「どうもー。黒胡椒スパイスと申します~」
スパイス姿で訪問すると、社員の方がワーッと出てきた。
この人たち、なにげにミーハーだな?
「かわいいー!!」「本当におじさんなんですか!?」「冒険配信者ってアバターで現実の姿も変わるから、年齢も性別もわからないもんな……」「こんなに可愛いならおじさんでもいいのだ」
会議室にて、スパイスに応対してくれた人が既に企画書を作成し終えていたのだった!
な、なんだってー!?
本人不在の状態で作られることってあるの!?
「スパイスさん初のグッズということで……。あ、七冊揃っておめでとうございます!」
「あっ! ありがとうございまーす!」
「スパイスさんの場合、バリエーションが凄いことになるんですよね。七冊それぞれのフォームに、魔導書が変身したアナザーフォームが五種類、さらにインフィニティフォームがあって……。これで数年いけますよ」
「そんなに!」
「コンテンツがしっかり熟成したところで、満を持してのグッズ展開ですからね。これは売れますよー!!」
こうして、会議は大いに盛り上がるのだった!
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