第309話 殺意120%ダンジョンを力で攻略だ
ご長男さんに、屋敷の中まで案内してもらったのだ。
配信開始の連絡を見て、飛んで戻ってきた一族らしい人たちが着物姿だったりスーツ姿で待っていて、みんなスパイスを睨んでいるぞ。
うひょー、こえー!
※『因習村!!』『明らかに曰く付きの名家!』『パワードのデビュー配信だと思ったらこんなホラー展開スタートなことある!?』
「下賤な配信者などを屋敷に招くなんて……お兄様は何を考えているのかしら」「全くだ。親父が殺されて、頼る先が配信か? そんな兄貴が屋敷を継ぐなんて、俺は認めないね」「まあまあ。配信者……特にスパイスちゃんの力は確かですから。あのむちっとした太ももと平らな胸が……」
おやあ!?
一族の中に見覚えのあるコメントと同じようなこと言ってるやつがいるぞー!!
も、もしかしてお前ザブトンかーっ!!
ご長男さんの息子さんらしき、ラフな服装の男性だ。
彼がスパイスの味方をしてくれた。
なんか、パネルまで用意して配信者がいかに世界を救ったかを説明している。
しかし、未だに冒険配信者を白眼視する人たちっていたのかあ。
ひえーっ。
彼らをぞろぞろ引き連れて、木造のばかでかいお屋敷の中を歩く。
案内されたのは、屋敷の最奥だ。
そこから先が、明らかに構造材が古くなっている。
黒く劣化した廊下の先が広くなっていて、そこに幅広の階段がある。
階段の上に扉。
神社でよく見るような縄が張られていて、さらに無数の御札。
「お札新しいねー」
「はい。封印を破って怨霊が飛び出してきた時に、陰陽師の方にお願いして封印を厳重に貼り直してもらいました」
ご長男の言葉を、ザブトンが継ぐ。
「あとは、陰陽師さんが言うにはこの奥……旧邸宅なんですけど、そこがまるごとダンジョン化してると。で、代々我が家が受け継いできた人々の呪いに満ちているそうです。並の配信者ではどうにもならないってことで……俺がスパイスちゃんを推しました。ほら、パワード手に入れてノリに乗ってるんで」
「おおーっ、お目が高い! お仕事ありがとうねー!」
握手すると、ザブトンが「うおーっ!!」と盛り上がった。
※『なんたる役得!!』『あんにゃろうイエスロリータノータッチの法則を!』『いやいや、だがスパイスちゃんはおじさん』『おじさんでもいい! おじさんでもいいんだ!!』
「落ち着けお肉どもー! それじゃあスパイス、行ってこようと思います」
「お願いします」
「配信者なんかがうちの旧邸に入るなんて!」「我が家の恥だ!」「殺されてしまえ!」
なんかお屋敷の人たちが恐ろしいことを言ってますねえ!
で、スパイスがトコトコ階段を上がり、しめ縄をぱかっと外したら、彼らが「あーっ!」「なんてことをー!!」と悲鳴をあげた。
だってしめ縄外さないと入れないじゃん!!
『あー、入口付近にいるのは低級なゴーストですねー。端的に言って相手をする価値はないですねー』
『ほんとよぉー! せっかくやってきたダンジョンが退屈だったら、アタシ勢い余ってこのあたりを壊滅させちゃうからね!!』
魔導書二冊が飛び出してきてぺちゃくちゃ喋りだしたので、お屋敷の人々が真っ青になった。
まあ、この時代にこの人たち、どうやってこんな古い感性を保ってこられたのか不思議なんだけど!
放っておいてスパイスは仕事をしましょう。
「スパイスちゃん、がんばって!! 新フォーム楽しみ!」
「おうー! 楽しみにしててー! どーれ!」
木製の大きな扉を、ぎしぎしぎしっと音を立てて開く。
その奥には、闇が広がっていた。
と思ったら、ポッ、ポッ、ポッ、という感じで廊下に置かれた行灯に明かりが灯っていく。
こりゃあ雰囲気たっぷりですねえ。
停滞したカビ臭い空気。
踏み出すと、ぎしり、と音を立てる床板。
スパイスが完全に旧邸に入りきった所で、背後の扉が勢いよく閉じた。
うおー!
これは入り込んだ獲物を逃さないようにするやつ!!
「ホラゲーの世界じゃーん!! テンション上がってきたなー! じゃあ早速! 行ってみようかパワード!!」
『まぁってたわよぉー!! うおおおお!! アタシとしっかりマッチングできる魔女、ひっさびさ!! パワァァァァァ!! チャァァァァァァァジ!! 解放!!』
爆発的に輝き出す力の魔導書!
黄金の光が闇をギラッギラに照らし出す。
近寄ってきていた低級霊みたいなのが、光に照らされて『ウグワーッ!!』と消滅した。
光が当たるだけで!?
スパイスのシルエットが大きく変わるぞ!
上着はなんと『スパイス!』の文字とデフォルメされたスパイスのイラスト付きのTシャツ!
金色の長くなびくマフラーに、活動的なジーンズ地のホットパンツ!
金色のスニーカーと、頭には逆向きのベースボールキャップ。
「これは言うなれば……。アクションスパイス! 意外なモードだ!! 道着でも着るのかと思った!」
『使い手の性質に合わせて、アタシは変化するわ! 力ってそういうものじゃない? だから、マスターがアタシの力、好きに使っていいのよん!』
※『うおおおおおおおお』『かわいいいいいい』『今までにないボーイッシュスパイスちゃん!!』『最後のモードがこれかあ!』『輝くマフラーがヒロイックだな』
「うんうんじゃあ力を試していってみよう! ちょっと進むと……。おっと、なんか念仏を唱える声が近づいてくるね! やたらと複雑で長い廊下の先から、行灯を持った影が歩いてくる……!」
チーン、と手持ちの鉢形仏具を鳴らし、念仏っぽいものをぶつぶつ言っている。
あっ、腕が四本ある、ボロボロの着物を纏ったゾンビ風の人!!
『おお……おおおおおお……!!』
闇の中から現れると怖いかもだけど、アクションスパイスの輝きに照らされているので、もうバッチリ全身が見えてる。
ゾンビ風の人は、まぶしっ!! って感じで一瞬動揺した。
「では初戦いってみよー!! まずは……力をそのまま使ってみる! パワードがやってた攻撃が……こうかな? パワーショット……もとい、波動弾!」
掌底のノリで、力を込めて腕を突き出す!
すると手のひらから光のボールが出現した。
これが猛スピードで飛んで、ゾンビの人に炸裂!
『!? ウグワーッ!?』
光が螺旋を描き、当たった場所からゾンビの人を粉々に砕き消滅させていく~!!
あっという間に、それなりに強そうだった怨霊が跡形もなく消えてしまった。
あとには小さなダンジョンコアが落ちる。
「ほほー!! これ、使い勝手いいねえ! 直線で飛ばしたけど、どうやら軌道もいじれそうだし。しかも威力が凄い!!」
『アタシもびっくりだわよぉー!! これが同接パワーってやつなのね!? あ、この攻撃は撃ち放題だから色々工夫してねん!』
「はーい! そんじゃあ、楽しくダンジョン配信をしていこう!! こんなことやってっていうリクエストも受け付けるからねー!!」
殺意満点のホラゲーダンジョンを、圧倒的な力で踏破するのだ!
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