第308話 パワード、欲求不満!
『んおーっ!! 欲求不満だわよー!!』
おっ!
パワードの発作だ!!
こいつはスパイスとのバトルで全力出し切る前に倒されたので、フラストレーションが発散されきっていないのだ。
異世界で暴れてもいいよと言ったが、それはそれで違うらしい。
『こうねえ、力を振るうためにも大義が欲しいわけよ。アタシ、こう見えて属性が善だから』
「属性なんてものがあるんだ」
『あるわよぉー! 結局は力を振り回せればいいんだけど、ちゃんとリアクションしてくれる相手がいいわけね。力の魔女はアタシの力を押し込めて、良からぬことに使おうとしてたから反逆したわけよぉ』
なお、フロータが混沌・悪。
イグナイトが秩序・善。
メンタリスが中庸・中立。
マリンナが混沌・中立。
カラフリーが中庸・悪。
スノーホワイトが中庸・善。
で、混沌・善がパワードなんだと。
ほえー。
悪ってなんだ。
『秩序は一応、建前を大事にして行動するやつね。混沌は結果良ければ全てよし、よ。善は一般モラル的な行動をよしとするけど、悪は己の思うがままに振る舞おうとするわねー』
「ほほーん」
『あれー!? 主様なんで私を見てるんですかねー!?』
俺の最初の魔導書が、混沌・悪属性だったからだよ!
イグナイトが秩序・善だったのは納得。
ところどころでフォローや解説を的確に入れてくれてたもんな。
『ん炎というものはぁ、ルールや決まりがあって初めて大きく燃え上がるぅ。己だけがいいというのではぁ、炎は大きくならないぃ』
「なるほどなあ。それはそうとしてイグナイト。パワードが欲求不満なんだが」
『んそうだなぁ。見つかってるダンジョンもちょっと小ぶりなのが多いぃ。ここは封印案件に関わるのがいいと思うぞぉ。ちょうど俺がぁ、迷宮省からAギルドに管轄を変更してもらった案件があるぅ』
「前から報告受けてたけど、イグナイトが普通に職員として仕事してるじゃん」
『報酬が入るとぉ、新たな主のためにもなるからなぁ』
「優秀~!!」
『イ、イグナイトちゃん、まさかアタシのために!? アラヤダー!! アタシ嬉しいーっ!!』
パワードが感激でぴょんぴょん飛び跳ねている。
ホムラのためだって言ってるだろ。
なお、マリンナはミナトと二人で、水を呼び出したりうねうねさせたりなどしている。
まさか、赤ちゃんなのに魔法を使い始めている……!?
俺の知らない英才教育が行われてる。
なお、封印案件というのは危険度が高いため、ダンジョン自体に陰陽術による凍結処理を施したものだ。
入口が狭く一名ずつしか入れないのに、最初から殺意マックスのダンジョンとか。
強力な配信者が対応してもいいのだが、周辺にとても繊細な利権関係が存在してたりするのでそこが周目に晒されるのはよくない……みたいな。
『ん今回のは問題ないぞぉ。先日凍結から這い出たダンジョンの亡霊が、土地管理者を殺してしまったぁ。相続関係でゴタゴタしているうちにぃ、ん俺がダンジョン攻略後は土地の管理権を長男に委譲する約束を取り付けぇ、対応可能になったぁ』
「優秀過ぎる!!」
『ん主の仕事をずっと見てたからなぁ』
『交渉はあっしも手伝ったでやんすよ。いやー、こういう裏方、なかなか楽しいでやんすねえ。しっかしややこしくてぐちゃぐちゃな権利関係の封印ダンジョンが多いこと多いこと。この国、伏魔殿でやんすよ』
裏でも強いぞ、うちの魔導書たち。
さて、イグナイトが用意してくれたという封印指定の危険なダンジョン。
ここをパワードの欲求不満解消用とすることにした!
配信してもOKらしいし。
ダンジョンが敷地内に出現した全責任は、先代の管理者におっ被せるらしい。
闇を感じる!!
「では、俺はフロータとパワードを伴って出かけてくるが、うちのコたちは任せたぞ……」
『ん任せろぉ!』
『バッチリですよぉ~』
『ミーがサポートしておくざんすよー!』
「あれ? スノーホワイトは?」
『散歩に出ていったでやんすねえ』
自由な魔導書だ。
外に出ると、ちょうど座天使くおんさんがゴミを出すために外に出てきていた。
男性モードの俺を見て、ハッとする。
「メタモルフォーゼ!」
スパイスに変身!
ホッとするくおんさん。
「すみませえん。あの、男の人がいると緊張してしまうので」
「いえいえー。みんな色々ありますからー!」
「でもほんとにスパイスちゃんって男の人だったんですねえ」
「そうなんですよー! で、新しい魔導書をゲットしたので、ちょっとこいつのフラストレーション解消のために……」
「この間、北海道から帰ってきたばっかりなのに!? お疲れ様でーす!」
「どうもどうもー!」
ということで、フライトー!!
なお、マシロは産休明けが近づくにつれて、赤ちゃんズを預ける必要が出てくるので保育所探しに行っているのだ。
働きたくないと嘆いていたな。
働きなさい。
あるいはシロコとして配信しなさい。
フライトでビューンと飛んでいくと、見えてきました封印案件。
山あいにある町の中、お社のある丘を背にした古風な屋敷だ。
見た目は昭和の頃に作られた和風の大きな家だが、この奥まった部分は江戸時代に作られた構造で、そこがダンジョンになってしまったらしい。
なるほどー、大きな家の奥だけがダンジョン。
これは配信させたくなくなりますわ。
あらかじめ、メンタリスが連絡を取ってくれていたので……。
「こんにちはー!! 配信させてもらいますスパイスでーす!!」
「ああ、これはどうも」
出てきた六十代くらいの男性が会釈した。
この人が、この家の長男。
相続争いで今のところトップにいる人ね。
ドラマとか小説とかだと、真っ先に暗殺されそうなポジションだけど……。
迷宮省とAギルドに素早く連絡を取り、イグナイトとの直通ラインを作り上げることで死亡フラグを回避したやり手だ!
もうこの人、死なないと思うな!
「スパイスさんですね。配信は拝見しています。その技量もよく把握しています。どうかよろしくお願いします。反対する家の者は、外に出払っておりますので今のうちに……。ああ、ツブヤキックスでの配信の広報もどうぞ」
「いいんですかー? じゃあ遠慮なく!」
「ええ。ええ。先代の管理不行き届きが原因ですから。私の代になってからは、もっと管理を徹底させますから」
にっこりと怪しい笑みを浮かべるご長男なのだった。
明らかに悪人っぽい人だけど、完全に味方だからな……!
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