第301話 冬はあんまり観光できない
北海道と言えば……。
「北大見たい!」
「遭難しますよ!」
またぎちゃんに却下されてしまった。
札幌市内の、さらに大学の中で遭難……?
彼女の車で運んでもらって、その様子を見て納得した。
「吹雪いてる。どこからが大学なんです?」
「あの雪の塊辺りが大学ですよ」
「ひえーっ」
ということで、冬の北海道は恐ろしいところだ。
なんだってパワードは2月に、北海道上陸をしたんだ。
外を歩くんだろうなと思ったら、ずっとまたぎちゃんの車の中だし。
「外を歩いている人驚くほど少ないね」
「こっちでは、家のドアから車の中へ、車の中からお店への移動がメインなんですよ。市営地下鉄を使う場合もありますけどー」
「な、なるほどー」
どうやら遊べないタイミングで来てしまったようだぞ。
いや、パワードと戦うのが主目的なんだが。
とりあえず、ご飯を食べに行こうということでまたぎちゃんイチオシのラーメン屋に連れて行ってもらった。
あー、味噌ラーメンの香り~。
『主様、一旦情報収集で私達はばらけますよー』
「おっ、フロータお願い!」
『情報収集ならあっしの独壇場でやんすよ! うおお、マインド・リーディングだーっ!』
『ミーが補助するざんすよー! 読心対象を見極めるざんす。ちょっとした話題を幅広く集めてざんすねえ』
『あいつら仲いいですねぇ』
なんかしみじみしているマリンナは、スパイスと一緒にいるつもりらしい。
フロータなんか、アテもないのに『うおー! やりますよ!!』とか叫んで飛び出していったけど。
『ん俺は味噌ラーメンに興味があるなぁ。本場のラーメン! うおお、焼結!! 実体化だぁ!』
「あっ、スパイスさんが増えた!!」
「こっちの色違いは魔導書のイグナイトです」
「な、なるほどー。これが噂の……」
またぎさんが感心しているのだ。
スパイスの魔導書が人になるのは有名なのかもしれない。
なお、マリンナが実体化するとスク水なので、今回は遠慮してもらった。
スパイスとまたぎさんとイグナイトで、カウンターに三人並んで味噌ラーメンを食べる。
太麺うまーい!
麺の味が濃くない?
それに乗ってる炒め野菜や焼き豚と言った食材が明らかに……こう、東京とはモノが違う……!!
『うめえ!』
イグナイトも同意!
「魔導書もご飯食べるんだ……」
『ん本来は必要ないがぁ。食べたものを魔力変換もできるぅ』
「へえー! 私、魔法と全然縁が無いからそう言うの知らなくって。勉強になるべ」
またぎちゃんはスナイパースタイルの配信者だもんねえ。
ダンジョンで戦うために、アサルトライフルの使い方もマスターしているが。
Dすぽっ!で随一のシューターなのだ。
まあ本職なんだからそりゃあそうなんだけど。
「ちなみにまたぎさん、魔導書が御飯食べるでしょ。魔力を使うでしょ。その後、吸収した栄養はエネルギーみたいなのになって世の中に発散されて、また肥料になるっぽい」
「ええーっ! エネルギーが循環してる!!」
わいわい盛り上がりつつ、ラーメンを堪能したのだった。
そこからまた車に戻り、ぬくぬくしながら札幌市内を巡る。
情報収集しようにも、外に人がいない!
寒すぎるし雪が多いのだ!
魔導書の帰還待ちだな……。
おっ、フロータが帰ってきた!
窓を開けたら、雪まみれのフロータが飛び込んできた。
「どうだった?」
『何の成果も! 得られませんでしたあ~!』
「そりゃあね、無策で飛び出してもね……。スノーホワイトは?」
『聞いて下さいよ主様! あいつったら魔法で雪や風を避けながら、民家に入り込んだりしてるんですよ!』
「あ、そうか、彼女本職だったわ」
「魔導書たくさん持ってると、ほんと便利なんですねえ……」
「みんな自主的にやってくれるからね! っていうか多分、札幌が珍しくて飛び出したのが半分だと思う」
好奇心旺盛だからなあ。
それに、グラーツとは違って魔女の魔の手が街中に広がっているわけでもない。
『んパワードの場合ぃ、搦め手なんざ使わずにぃ、正面から力で攻めてくるからなぁ!』
ずっと分身モードのイグナイトが、後部座席で足をバタバタさせている。
この姿が可愛いらしく、またぎちゃんがニコニコした。
その横で、マリンナがスク水モードに!
さらにフロータが分身スパイスに!
「増えた!!」
「またぎさんの車が広いからね!」
魔導書たちが後部座席で、わあわあきゃあきゃあとお喋りを開始する。
変身したイグナイト、声色が野太い男から甲高い女の子になるから面白いんだよなー。
とかやっていたら、色違いのウィンディがやってきて窓をノックした。
スノーホワイトか!
彼女が分身モードになると、ウィンディになるんだなあ。
青いエプロンドレスだから、まんまふしぎの国のアリスだ。
彼女は助手席に乗り込んできて、スパイスの隣にぎゅうぎゅう収まった。
「そんな無理矢理乗ってこなくてもー!」
『みんな人型になってるんだから、あたしだっていいでしょー! ちなみにカンザスだと、二人で並んでこの姿になってシャイニングごっこしてるわよ』
「こわあ! ちなみに情報は?」
『掴めてるわよー。あいつ、基本的に昼間はどこかで寝てて、夜になると動き出すみたい。昨夜は豊平区の美園十条あたりにいたって』
「そこまで絞れてるの凄いなー!!」
マインドリーディングとかなしに、ガッツリ核心情報を掴んでくるとは……!
後は、メンタリスとカラフリーコンビの帰還を待つばかり。
もうちょっと細かく、パワードの行動予測なんかができるデータを持ってこないかな……。
そう思いながら一時間ほど経過。
すると、メンタリスから『ヘルプでやんす~! 雪で固まって動けないでやんす~!』という声が届いたのだった。
な、なんだってー!
どうやら北大に潜入したらしい二冊は、クラーク博士前で落ちてきた雪に埋もれ、動けなくなっていたようだ。
スパイス、ラビットになって救出!
「えっ!? 雪の中にバニー姿の幼女が!?」
目撃された!
これは都市伝説になってしまうな……!
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