第296話 六冊の魔導書が我が家に!
『久しぶりに来たわよ。ここがスパイスのハウスね』
「真っ先に部屋に入っていったぞ」
風と氷の魔導書スノーホワイト。
堂々としたものである。
『ちょっとはわきまえというものをですねえ!』
『ん我が物ヅラが過ぎるぅ』
『あいつ魔導書で一番ハートが強いかもでやんすねえ』
『こらぁ~! ここは新たな主様のおうちですよぉ!』
『いやあ、六冊になると賑やかざんすねえ!』
ウィンディから借り受けたスノーホワイト。
一冊増えて魔導書がわいわい賑やかになったのもあるが、何よりもここで風と氷の魔法を確認できるのがありがたい。
「ふぃーっ、帰ってきたッス~! もう動けないッス~」
『おぉ、ん主の奥方よぉ! ゆっくり休んでろぉ! 新しい主たちは俺達が世話するからなぁ!』
『うんうん、お任せですよぉ~! 主様は多分異世界の方で、スノーホワイトを試すと思いますんで』
「うひー、魔導書のみんなありがとぉー!! ……って、ええーっ!? ショウゴさん、元気過ぎる!」
「スパイスのエネルギーが体内にみちみちている気がする……! お陰でまだまだ動けるよ。じゃ、行ってくる」
旅の服を脱ぎ捨て、俺は魔導書四冊を連れて異世界へ。
『へえー。これが異世界なのね? あたしがいた世界とはちょっと違うのね』
異世界都市の廃墟に降り立ったスノーホワイトが、くるくる回って辺りを確認している。
そこへ、サポートのためにフロッピーが飛んでいった。
『スノーホワイトお姉様、補助させていただきます』
『あらフロッピー、気が利くわね。あたし、スパイスとの合わせは初めてだからありがたいわ。じゃ、お願いね』
スノーホワイトが俺と向き合う。
『まず一つ。あたし、ウィンディに自分を最適化してあるわ。だからあんたとマッチングする際は、普通のやり方だと力を半分も発揮できなくなる。だからフロッピーが必要ってわけ』
「なるほど。魔法少女ウィンディのための魔導書だもんな」
『そういうこと。だけど悔しいことに、あたし一冊だと限度ってものがある。こないだの魔王みたいなのは無理ね。恐らく、最も古き魔女も無理。だからあたしは、ウィンディを守るためにこっちに来たってわけ』
つまり、スノーホワイトは決戦まで付き合ってくれるつもりということだ。
ありがたい!
場合によっては、ユーシャちゃんのドローン、アフームたんの助けを借りねばならないところだった。
オリジナルの魔導書が揃うならそれに越したことはない。
「ありがとう! じゃあ早速だが、やってみようか」
『いつでもいいわよ。フロッピー、チューニング頼むわよ!』
『はい! マスターとお姉様の魔力波長……合わせます!』
俺の中に、スノーホワイトの持つ魔力が白と緑の渦になって流れ込んでくる。
「メタモルフォーゼ!」
宣言と同時に、俺の体が光に包まれた。
緑と白のアリスドレスがウィンディの姿だったが、どうやらスパイスは全然違うアプローチになるようだ。
なんかこう、スカートじゃないぞこれは。
スースーするような……。
そして頭上で揺れる何かの感覚……。
ま、まさかこれはー!!
『同調完了よ! ははーん、あんたの能力はこっち方面なのね』
「こっち方面とは一体!」
声が完全にスパイスのものになってる。
見下ろすと……。
あっ、これはグリーンのバニールックではないか!!
腕に真っ白なもこもこと、お尻にまんまるな尻尾がつているのが分かる。
足は網タイツで、履いているのはグリーンのハイヒール!
そして頭上には……。
ウサギの耳!!
「あ、そっか! ウィンディがアリスだから、スパイスはラビットになるわけね! ということは、ラビットスパイスだ!」
『ミーのブライトスパイスに近いざんすが、こっちのがもうちょっと扇情的ざんすねー』
『ちょっとカラフリー! あたしの司るキュートな変身衣装を扇情的とか言わないでよね!!』
いやあ、でもカラフリーの言う通り、なかなか刺激的じゃないかなー?
スパイスボディはぺたーんなので、あんまバニー向けではないかもだけど。
それがいいというお肉どもはたくさんいるのだ!
今度配信で反応を確かめてみようっと!
んで、試してみたい技が一つあるんだよねー。
「スノーホワイト、あれいける? ウィンディがやってた技!」
『あー、あれね。普通はあたしとマッチングしたばかりじゃ無理だけど、五冊を使いこなすあんたならできると思うわよ。イメージ、自分で構築なさい!』
「おっけー! 氷の魔法をスロットにセット! 風の補助魔法もセット! ほほーん、これ、足首を氷のブーツで強化してたんだ! そりゃあねえ、ただのキックだと足痛くなるからねえ」
『解析速度はや!! あんた本当に才能あんのね!!』
フフフ!
自分だけではなく、たくさんの配信者や魔の者たちと接触したことで、スパイスは多くの学びを得ているのだ!
実際、物凄く成長してると思うよ。
えー、眼の前にある立ち枯れた木を標的に……。
「照準セーット! 凍てつく柱よ、敵を縛り付けろ! アイシクルバインド!」
地面から氷柱が逆向きに生える!
これが何本も出てきて、標的の木を包みこんだ。
そこでスパイスは風をまとって飛び上がる。
おおっ、フライトとは違って、慣性を感じる飛翔だ。
これこれ!
『フライトだと、速度は出ますけど重力もカットしてるんで、攻撃技への転用は別のやり方が必要なんですよねー』
しみじみ呟くフロータの言葉を聞きながら、スパイスは空中で飛び蹴りモード!
「うおー! いっくぞー!! 技を作った人に敬意を表して、おんなじ名前で使う! ウィンディストラーイク!!」
風を纏い、猛烈な勢いで突っ込むスパイス!
その蹴りが、凍てついた樹木に突き刺さると……。
パキーンと粉々に砕いた!
樹木の逆側まで通過して、着地!
スケートの要領で滑りながらくるりと回転するスパイス。
背後で、樹木がパーンと破裂するところだった。
「おおー!! これ! これこれ! やってみたかったんだよね!」
『一発目から大技成功とか。あんたほんっとに天才タイプね! ま、ウィンディもやる気があったらこれくらい出来たと思うけど!』
力を使いこなしてもらったスノーホワイト、まんざらでもなさそうなのだった。
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