第291話 ビディ、ダンジョン初体験!
「ダンジョンってどんなのかなって体験してみようかなって」
ビディ、ダンジョン初挑戦宣言!
「おー! 危ないぞー。大罪パワーがあってもなれるまでは大変だからなー」
イラちゃんが脅かすけど、ビディはケロッとしたものだ。
「私もイチオウ大罪ですし! あとはセンパイたちに頼ります!」
「おおー、模範解答! スパイスはいいと思うなー」
「スパイスちゃんがいいなら、イラもいいと思うね。じゃあ、ビディにはちょっとここで変身してもらおう。例の暴走モードじゃなくて、イラやスパイスちゃんみたいな活動形態の大罪モード!」
「ええーっ、わ、私がー!?」
ダンジョンの入口あたりで、わちゃわちゃするスパイスたちなのだ!
既に配信は始まっていて、ビディちゃんがダンジョン初挑戦という話で大いに盛り上がっている。
※『そう言えば大罪の人って配信者やってないもんな』『イラちゃんだけでしょ?』『うぉっちもんはニュース配信だし』『二人目の冒険配信者なるか?』
「私、高校を卒業したら外の大学に行こうーって思ってるノデ! それで、外でも友達いっぱい作るノデ! そしたら、おしゃべりするきっかけは何かなーッて考えて……あ、私大罪だから冒険配信者向いてない? って思って!」
「なるほどなー! 普通の人なら危ないけど、大罪勢なら全然あり」
「うんうん、大罪の力を継承してると、素のままでもめっちゃ強いからなー。えー、ではへそに力を入れます」
「オヘソ?」
「で、ビディは多分力のイメージは蛇だから、オヘソを中心に蛇の体と尻尾が生えてるのを考えて……人間の自分が大罪の力を纏うみたいな、そういうのを思い浮かべてねー」
「おおー、大罪の人はそうやって変身するんだねえ」
「そうそう。イラがね、クシーに教えてやった変身方法だよー。怠惰のやつはこれを知らないから、人間と完全変身のどっちかしかできないからね。あいつそもそも覚える気ないからねー」
怠惰の大罪とも顔見知りだった!?
なお、実はうぉっちさんの変身もイラちゃんに教えてもらったものなんだそうで。
うおー!
この人、大罪の父みたいな役割を果たしてるんじゃん。
VR空間で授乳カフェに通ってるだけのおじさんではなかったのだ。
いや、初対面の印象があまりにもノイズ過ぎる!!
※『おっ、顔にモザイクが掛かったままのビディちゃんが!』『だんだんシルエットが変わっていく~!』『変身か!? 変身できるのか!?』ザブトン『自分としてはストンとしたシルエットに変身して欲しい』ランプ『欲望を吐き出してるやつがいる』マルチョウ『だが眼の前にいるお手本がみんな幼女に変身しているおじさんだからな』
ほんとにね!
どうやら、ザブトンの思いやマルチョウの予測が当たったようだ。
ビディちゃんの背丈がしゅるしゅるーっと縮むと、そこには尻尾の生えた小さい女の子がいた。
「変身できたー!」
しかも声にエフェクト掛かってないから、人間に近い変身だ!
海水浴のときの蛇モードよりも、魔法少女寄りだぞ!
『やりますねえー。この時代、普通にこういう人間態の魔王クラスが歩き回ってるので、魔法が一般的だった昔よりもずーっと魔法的なんですよねえ』
フロータがしみじみ呟いた。
「で、どう? ビディちゃんの強さ的に」
『そうでやんすね。あっしと出会った頃の主よりは弱いでやんすね』
「ははあ、それくらいかあ」
つまり一般配信者よりは上だけど、大罪勢のバフが掛かってる感じではない……というくらいらしい。
今は、ダブっとしたシャツを纏い、お尻から尻尾が生え、シャツを隔てて肩甲骨の真上あたりにヒレみたいな翼が一対浮かんでいる女の子の姿だ。
肌の色がちょっと薄くなってる? これはスパイスたちの影響だな。
「イラたちがお手本になったから、このモードになったっぽいねー。素直だねー。クシーなんかイラが教えたのに、あんなさらにボインボインになったからねー」
我道を行くクシーに、真面目でお手本通りにやるビディちゃんとうぉっちさん。
うぉっちさんの場合は自分のキャライメージも重視してると思うんだけどね!
「ウワー! すごいすごい! なんだか体がかるーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるビディ。
大罪の身体能力を、幼女のミニボディで発揮できるわけだからね。
※おさかな『肌に鱗が出てるガール……いい……』
そうそう。
肌と鱗が半々みたいな見た目だから、元のビディとはかなり違ってていいんじゃないだろうか。
これなら配信しても、彼女だってわからない。
今のビディという呼び名だって、大罪同士で呼び合うためのものだ。
彼女には本名がちゃんとあり、大罪名を名乗ってるときだけその力を使うことで、精神汚染みたいなのを防いでいる……らしい。
「クシーもそうだぜー。人間が本名のまま大罪の力を使うと、侵食されて魔王になるからなー。本名じゃないにしても、変身名を設けてワンクッション置く。活動者の名前のままでやる例外はいるけど」
「きら星はづきなー」
当たり前みたいな顔して大罪を乗りこなしていたけど、あれは異常。
本名のまま、イラちゃんから分離していた頃の憤怒を継承したナカバヤシさんという人は、力に飲まれて魔王化してしまった。
で、きら星はづきに滅ぼされた。
このナカバヤシ氏の父親が、二代目迷宮省長官にして冒険配信者界に大混乱をもたらした稀代のダメ政治家、中林議員ね。
一ヶ月で引退した人。
イラちゃんはあの件を調べ、人間が人間のまま大罪の力を引き受けると狂ってしまうことを突き止めた。
なので、新しい世代の大罪勢には、その力を受け止めるための名を持たせて活動するよう教えているわけだ。
大罪の父じゃん!
「ってことで、三人で配信をやっていこー!」
「おー!」
「やっていこうやっていこう! あぶなーい! 配信中に色々考えすぎて、ずっと黙ってて放送事故になるところだった!」
スパイス危機一髪!
ではビディに色々教えながらやっていくとしましょうかね。
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