第287話 ポリネシア観光の前に!
空港の外に出ると、なかなかむしっとしており、夏ー!! という雰囲気だ。
雨季なんだそうで、雨も多いけどずっといい陽気が続く、そんな時期なのだ。
日本の夏よりも涼しい気がする。
「じゃあミナサーン! 最初はご飯にしましょー!」
ビディちゃんとご家族の案内で、わいわいとタクシーに乗り込み、予約してあったレストランに到着。
途中の町並みは、思っていたよりも普通に栄えていて、緑と建物が交互に並んでいる感じ。
高層ビルは見当たらず、みんな三階とか四階くらいの高さだった。
つまり……空が広い!!
「なんかいるだけでウキウキしてくるッスね!」
「うんうん。去年のグラーツとは90度違うタイプの地域だぞ」
レストランでは、ポリネシアのソウルフードだというポワソン・クリュ・オ・レ・ド・ココというものを前菜で食べた。
ココナッツの実の中に刺し身とかカット野菜やフルーツみたいなのが詰め込まれており、ココナッツミルクで下味がついたところにソースを掛けて食べる的な……。
「おお……トロピカーン!!」
「お刺身をココナッツミルク味、新しすぎる……」
衝撃を受けながらもりもり食べるマシロだった。
俺達が飯を食っている間、イグナイトとマリンナが出てきて赤ちゃんの世話をしてくれている。
ありがたいありがたい。
なお、プカプカ宙に浮かぶ魔導書と赤ちゃんズはポリネシアでも珍しいらしく、注目されてしまった。
これはビディちゃんが「ジャパニーズ配信者」と説明することで、納得を得たのだった。
問題は……。
『ウワーッ! いや、私正確にははづきじゃないからー!』
現地の人々が集まって、ベルゼブブにサインを求めている!!
見た目はきら星はづきそっくりだからなあ。
そもそも分身だし。
一人にサインを書いたらみんな集まってきそう!
ということで、今回はご遠慮いただいたのだった。
さて、前菜を食べつつ自己紹介が始まる。
ビディちゃんが自分を指差し、
「インビディア・レヴィアタンです! えっと、本名はヘレヌイって言うんですケド」
現地の高校一年生。
昨年のある日、突然大罪のパワーに目覚めてしまい、相談をVRロビーでしていたら通りかかったクシーとイラちゃんに発見された。
そしてオンラインで顔合わせしたら、まあこの共鳴は大罪で間違いないでしょということで交友を結ぶことになったのだそうだ。
以後、イラちゃんから色々な指導を受けつつ、大罪の力に呑まれないように日々頑張っている。
ちなみに彼女、学校では聖母と呼ばれるくらい人徳に満ち溢れた子らしく……。
「うーん! これは完全に大罪が裏返って宿ったタイプ!」
学力的には普通の女の子。
クシーのように天才で飛び級というわけでもなく、はづきっちのようにマルチになんでもできるというタイプでもない。
ただ、海のように深い慈愛を持つ、沢山の人から愛される女子高生……。
これもこれで凄いかも知れない。
「うちの子もビディちゃんみたいに育って欲しい……」
マシロがうっとりするのだった。
確かに、理想の我が子像かも知れないな。
その後、ご家族……というか一族の自己紹介があり、こちらも自己紹介した。
いやあ、これだけで一時間ちょっと掛かった。
向こうの人数が多いんだもの。
そして食事が終わると、こっちに興味があるらしい一族の若者を残し、皆さん帰っていった。
「みんな配信者に興味があるみたい。この国だけだと、配信者ってそんなにビッグにならないから、ワールドワイドな人ってトッテモ珍しいの」
「なるほどな」
ビディちゃんの説明を受け、俺は納得した。
大罪勢御一行は、これからポリネシアの海で遊ぶため、水着を買いに行くらしい。
現地のものを身につける主義だな。
そのメンバーは、ベルゼブブとクシーとウィンディ。
マシロは赤ちゃんといっしょに浜辺でのんびり派。
俺とイラちゃんはメタモルフォーゼすればいいだけだ。
では女子たちが買い物をしている間に、ビディの親戚の青年たちに配信者とはなんたるかをお見せしようではないか。
そういうことになった!
「えー、皆さん。俺と彼は、日本では有名な配信者です。おそらく変身した姿を見たことがある方もいるかも知れません」
ビディちゃんが翻訳してくれる。
それに、親戚の若者たちもちょっとは日本語が分かるようだ。
配信者文化が隆盛を極めているこの時代、その中心である日本の言語は、コンテンツを十分に楽しみたいならばマストで学んでおくべき言葉になっているのだ!
とにかく、配信にせよアニメやマンガなどのコンテンツにせよ、量が桁違いだからな。
ってことで、説明は案外スムーズに伝わった。
「じゃあ変身するので見ていてください。フロータ」
『はいはーい! ほほー、彼らが未来の配信者ですかー? いいですねー! 素質がある若者も混じってます! あー、ビディさんは別格ですけど! それじゃあいきましょー!』
「メタモルフォーゼ・スパイス!」
俺は白黒の光に包まれ、変身した。
ちっちゃな女の子のシルエットに変化した瞬間、若者たちがどよめく。
そして次々に魔法少女のコスチュームを装着していくと、どよめきが熱狂に変わった。
「うおおおおー!」「スパイス!? スパイスー!!」「本物だー!!」
お肉どももいたか!!
「じゃじゃーん!! 魔法少女スパイス、参上だぞ!! こんちゃー!」
「「「こんちゃー!」」」
元気に挨拶を返してもらった。
なお、スパイスのことを切り抜き動画でしか知らなかったらしいビディ。
ポカーンとしている。
「お、大人の男の人が、ちっちゃい女の子になっちゃった……」
『ははは、それで驚いてたら心臓が幾つあっても足りないぜ。フォーム・イラ』
イラちゃんが笑いながら、変身を開始した。
炎が巻き上がり、これに包まれてコートがほどける。
中身には、実体のない赤黒く輝くエネルギー体だけがある。
これが幼女の形に変化して……コートも炎を巻き込みながら変形。
サタン・イラの衣装となって完成だ!
『おーす! イラだぞー』
「わおおおお!」「キュート!」「イラ、本物だー!」
イラちゃんまで知ってるのが一人いるぞ!
なお、当然ながらイラちゃんを知らなかったビディが、さらにポカーンとするのだった。
「怖そうな人が、ちっちゃい女の子になっちゃった……」
「配信者はこういう世界だぞ。一番近いのがビディちゃんなんだからね」
「えーっ!? わたしが!?」
反応がいちいち初々しくてとてもかわいい。
おじさんたちが色々教えてあげるからねえ。
……とか言うと、とても怪しそうに聞こえるなあ。
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