第270話 魔法少女エコー!
「ふむ、魔導書を片手に、メタモルフォーゼと宣言するといいのかね? そんなに簡単でいいの? 娘が子供の頃に一緒に見た番組では、もっとファンシーな変身道具があったが……」
「議員の魔法少女知識が偏ってるなー」
もうすぐ七十歳のおじいさんだからね……!
だが、それでも孫のために魔法少女になろうとする辺り、心は若い。
若いのか……?
本日は議員を連れて、我が家から異世界に来ているのだ。
魔法少女のテスト、ここならば誰にも見られない。
「よし、行くぞ! メタモルフォーゼ、エコー!」
探知の魔導書を掲げて、凛々しく宣言する議員!
すると……。
銀色の輝きがバーっと広がったと思ったら、木霊議員を飲み込む。
光は急速に縮み……。
そこに現れたのは、銀髪に真っ赤な和装、そして袴みたいなイメージの金色のミニスカートを履いた女の子だった!
おしゃれな背負子が出現し、彼女の背中にセットされる。
探知の魔導書はそこに収まった。
「どうなった? おや? スパイスくんがわしと同じ背丈になっている……。んんーっ!? わしの声が! ヘリウムを吸った時みたいに高くなっている! こ、これはーっ!!」
「姿をみますー? イリュージョンミラー!」
幻で鏡を作り出す、カラフリー便利魔法の一つ!
これで映し出したら、エコーが「ウワーッ」と叫んだ。
「わ、わ、わしが! 女の子になっとる!! しかもちっちゃい! 衣装が赤い!? もっと渋いのでは無かったのか? うーむ、しかし……なかなかわしは可愛いな……。孫娘ほどではないがな……。あれは別格だ」
お孫さんラブ過ぎる。
「孫はな、君を見て配信者に憧れたんだ。そんな君から教えてもらって、わしが魔法少女になるというのはなかなか趣深いものがある。人と人は繋がっておるな」
うんうんと頷くエコーなのだ。
超新人魔法少女なのに、風格がベテラン過ぎる。
外見はスパイス同様、小学校中学年くらいの女の子なのにねえ。
魔法少女の背丈は、120~130センチくらいに収まるっぽいな……。
ウィンディもそれくらいだったし。
なお、エコーの足元は舞妓さんが履くようなぽっくりで、しかも割と厚底。
お陰で背丈は魔法少女で一番高いかも知れない。
「よーし、それじゃあ行ってみよう! この姿のときはタメ口を許してくださいね!」
「君が先輩だぞ。構わんとも! では魔法を使ってみるか。どれどれ……うわっ、魔導書が勝手に手元に飛び込んできた!」
「魔法少女と魔導書は一体だからねー。自分の近くなら意志のままに動かせると思うよ!」
「なるほどな……。どれどれ? 探知の魔法とやらを使ってみるか。行くぞ、おほん。響き渡る音色にて、近隣の状況を探る。ソナー!」
ブォンッ!と音がして、その音の波がぶわーっと広がっていく。
エコーの眼の前に画面みたいなのが出現し、辺り一帯を音で走査した結果の図面が表示された。
「ほうほう、これがわしでこっちがスパイスくん。茂みには動物が隠れておったが、今のソナーで逃げ出したな。地形もはっきりと分かる」
ぐるぐると3Dに動かせる画面。
地形の凹凸も分かるねー。
これは優秀。
というか、探知に特化したからこそ、エコーはこの関係の魔法の精度が高いのだろう。
御本人に魔法の才能がないと、そもそも変身すらできない。
ということは……木霊議員の血筋には魔法の才能がある可能性が……。
「エコーの魔導書には便利魔法が色々詰め込まれてるんで、これで色々やってみよー」
「うむ! どれどれ」
歩きながら試していくエコーなのだ。
スパイスはその横をトコトコ歩く。
鳥がケーンと鳴きながら飛んでいく。
これを見て、エコーがふむ、と唸った。
「聞いた音を再現する。鏡写しに現れよ、リプレイスサウンド!」
そうすると、エコーの周囲からケーン!と鳥の鳴き声がした。
「おおーっ」
「だがこれはレコーダー機能があれば誰でもできるのではないか?」
「あらかじめ録音しておけばでしょ? こっちは録音しないで、任意の音をピックアップしてから再生するから」
「ああ、なるほど。備える必要がないのか! ふーむ、この肉体になってから、頭は冴えるし肩こりは消えるし、腰も膝も全く痛くない。若返ったようだ」
「若返ってるんだよね」
走り回ってもらうことにした。
木霊議員、お若い頃は高校球児だったらしく。
「むほー! な、な、なんたること! 地を駆ける度にこの身が猛烈に前に進む!! これが……これが若さかー!! どんなに走っても息切れしない! というかわしが高校生の頃もここまで速くなかった気が……」
「スパイスより足が速いんだけど!! 現役高校球児の身体能力で幼女のサイズと軽さはやっぱり凄いなあ!」
エコーの威力をしっかり確認できたのだった。
その後、音の反響でモノの内部を確認する魔法とか。
大きな音を立てて相手を麻痺させる魔法とか。
そういうのをチェックした。
「なんか全ての魔法が音をきっかけにして放たれるようになってるというか」
『それはですね! 編纂するにあたって、私がそう調整したんです!』
フロータがえっへん、と反り返った。
「そんなことできるの?」
『できますよー! その人が魔女の才能を持っているなら、性質に合わせて変化させたほうが力を発揮するんです。全部下位の魔法ですけど、音の魔法にチューンしたことで威力が跳ね上がってますからね! 実戦で戦えますよ!』
フロータのお墨付きだ!
「だけど、エコーは直接攻撃する魔法がないでしょ。そこはどうすんの」
スパイスの疑問に、エコーがフフフ、と不敵に笑った。
「ボールを投げつける!!」
「元高校球児~!!」
「攻撃が全部デッドボールになるのが難点だがなあ……」
さあ、お次は議員のお孫さんに、魔法少女エコーを披露するぞ!
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