第265話 魔導書と義母顔合わせ
さて。
仕事と育児の両立を考えた時、赤ちゃん二人を育てていくことは一族の総力戦であると言えよう。
つまり、各種の仕事などをしている余裕はない!
一ヶ月ほどダンジョン配信をお休みしたので、そろそろやろうと決める俺である。
ここまで、従妹のシオイに育児を伝授された魔導書たちが、マシロとともに赤ちゃん対応を頑張っていた。
だが、ダンジョンは魔導書なしで行くわけにはいかない。
赤ちゃんを見てくれる人が必要である!
ということで、召喚!
マシロ母!
彼女は嬉しそうにいそいそやって来た。
「もうね、赤ちゃんのお世話するのは久しぶりでね。あー、マシロが小さかった頃が懐かしいわ……」
やって来て早々にニコニコの彼女なのだった。
「ありがとうございます、お義母さん。それで実は打ち明けねばならないことがありまして」
「あらどうしたのショウゴさん。改まって……」
「実は我が家は、魔導書の力を借りて双子を育てていたのです」
『ん俺だぞぉ。はじめましてぇ』
『私ですぅ。ミナトくんをよろしくお願いしますねえ』
イグナイトとマリンナがにゅっと出てきて挨拶をした。
もともと見下していた人間にも、必要とあらば対等に接することができる魔導書!
偉い。
お義母さんは目を丸くしていたが、
「そうねえ、そういう時代よね! マシロも配信者? っていうのやっていたし、ショウゴさんもそうだったのね」
すぐに理解してくれたのだった!
そして、魔導書たちと育児の情報交換を開始する。
適応力が高い!!
「多分、うちのお父さんだと大混乱して何もできなくなると思うけどね。私達の世代の男の人って、こういうお話みたいな世界に上手く適応できてない人が多いのよね」
「そう言えばうちの父親もそうですねえ」
現実と向き合って生きてきた男たちは、現実そのものがエンタメみたいな世界に変わってしまって、適応できなくなっている。
これはよく言われている。
冒険配信を見ていないのも、この世代の男性たちだ。
なお、退職して暇になると冒険配信を見始めるらしいので、普通にリスナーになったりするとか。
仕事している間は、配信者の応援をするのが理解できないのかもしれない。
「では行って来ます!」
『理解のある人間でしたねー。主様はまだ、スパイスの姿を披露しないんですか?』
「流石に情報過多で頭がパンクするだろうからな……」
俺が配信者であることをしっかり受け止めた後、スパイスとして挨拶しよう。
そうしよう。
いや待てよ。
スパイスの姿のまま挨拶したことあったな!?
案外、何もかも明らかにする日は近いかも知れない。
子どもを育てる関係上、義実家との関係は切り離せないからな。
『ほんと、現代は大変でやんすねえ。家族が細切れになって生活してるでやんすし、もともとの関係を再構築するために努力しないといけないでやんすからねえ』
『その代わり、事が起こるまでは最小の社会単位だから楽ざんすね! 合理性は別の面では極めて非合理になるざんす! 人間の業ざんすねー!』
「難しい話をする二冊だ」
彼らを引き連れて、家の外でメタモルフォーゼ!
フライトを覚えてからは、ちょっと離れたところのダンジョンでも予約できるようになった。
いいことだいいことだ。
バビュンと飛んで、目的地に到着だぞ。
「おやー? スパイスが予約した洋館ダンジョンなのに、見知らぬ若者たちがいるぞー」
『マスター、彼らはショート動画を撮影しているようです。ダンジョンをバックにしてPickPockで映えるダンスと音楽の動画を作るのですね。アカウントも特定しました』
「フロッピーはやーい!」
『あー、バカですねー! ダンジョンの入口で無防備に踊って! あの階段がもうダンジョンなのに! あー、呑まれた』
フロータがなんか克明に解説するじゃん!
「ウグワーッ!」という悲鳴と同時に、若者たちがダンジョンに飲み込まれてしまった!
映えるかも知れないけど、ダンジョン前で踊るのは命がけだよねえ。
「おっしゃー! 助けに行くかあー! 配信スタート! こんちゃー!」
※『はじまた』『こんちゃー!』『こんちゃー!』『スパイスちゃんがもう行動開始してる!』
「みんな久しぶりー! あのねえ、話せば長いことながら、そこはさっきの映像をガーッと流すから理解してください!」
※『あっ! ダンジョン入口で撮影してる!!』『洋館の扉が開いて、階段で踊ってる連中が……』『みんな引きずり込まれた!』『アチャー』マルチョウ『魔王が倒されてから、なんかダンジョンに対する舐めが生じているらしい』ランプ『知ってる知ってる。むしろ一般人の死亡者は一時的にだけど増えてるらしいよな』
な、なんだってー!!
アホかー!
きら星はづきが魔王を倒したけど、ダンジョン禍の元凶であった魔王がいなくなってもダンジョンは消えてなくならなかった。
この世界の一般的な現象として定着してしまっているらしい!
それでまあ、魔王が倒されたんだしダンジョンも危なくないっしょ! くらいのノリな人が増えて、かえって犠牲者が増加したとか笑えないニュースが……。
いやあ、育児に必死で見てなかったなあ。
この一ヶ月間で、我が家のジュニア二人はかなり大きくなったもんなあ。
目もカッと開いて、おっぱいだってごくごく飲む。
マシロはマシロで栄養補給しながら対抗し、さらに魔導書たちは粉ミルク作成にも精通した。
我が家の総力戦で育成しているぞー!
「まあ、身の程を知らない若者もどこかの家では愛されて育った赤ちゃんなので! これから助けに行きまーす!! せめて一人くらいは生きててくれよー!」
それでは、魔王消滅後のダンジョン、行ってみよう!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




