第251話 勇者パーティ、海へ!
早いものでもう七月!
これに合わせて水着も買ったということで、スパイスは海配信を企画したのだ!
「スパイスが睨むところ、魔王との決戦は近そうなんだよね」
「ええーっ!? そんなにすぐに!?」
バスの中でユーシャちゃんが驚愕する。
前の席では、タリサがシェリーとおしゃべりしながらお菓子をもりもり食べているところだ。
日本のお菓子は美味しすぎてヤバいらしい。
このバスは勇者パーティ専用バスなので、ゼルガーを積める改造が施されている。
彼は上着が派手なグリーンのアロハなのだ。
「スパイスさんはどうして、近いって思うんだい?」
隣りに座っているモリトンくんからの質問だ。
「それはねー。スパイスたちが表で派手に動いているけど、裏でははづきちゃんが着実に魔王攻略を進めてるから。今日から、彼女中国に発つでしょ。魔王にほとんど支配された中国を解放するつもりだよ、あれ。そこまでやったら、絶対御本人が出てくるでしょ」
今この世界は、最強の配信者と魔王が真っ向から喧嘩している状態なのだ。
勇者パーティを魔王にぶつけるつもり?
なんて思っていたが、それは違う。
きら星はづきが魔王を最高のタイミングでぶん殴るために、魔王に付随するダンジョンや魔将やらを片付けられるユニットが必要だったというだけだね。
それが勇者パーティだ。
いやあ、スパイスとしては若い子たちと交流できて、世の中の未来は明るいなーと思えただけで大収穫だったけど!
みんな我が子のようにかわいいー。
今度生まれてくるうちの子も、彼らみたいに育って欲しいもんだなあ。
「スパイスさんが遠い目してる」
「ほら、冬にはお子さんが生まれるから」
「ああー。ちょいちょい仕草が本物の幼女っぽいのに、たまーに大人だから混乱する~」
ユーシャちゃんは大いに混乱するがいい。
そしてカイワレだが……。
「ワオワオ! ジャパンのオーシャン!? ジャパニーズオーシャン? オー! パシフィックオーシャン! オーイエー!」
なんか一人でめちゃくちゃ盛り上がっている。
これを横でゼルガーが聞きながら、
「パシフィックオーシャンとはなんだ」
とかいちいち質問しているのだ。
カイワレのノリが空回りせず、付き合ってもらえてて良かったなあ。
彼の不思議なボキャブラリーが気になるらしく、ゼルガーからボンボン質問が飛ぶ。
ゼルガーがカイワレ語に詳しくなっちゃうよ。
そしてそのうち、二人で作戦を立て始めた。
「僕をゼルガーの前にぶら下げて……」
「なるほど、カイワレを盾にしながら俺が突っ込むのか! それはいいな」
「僕も突破力のある仲間を求めてたんだよー! ザッツディスティニー!」
「俺の背中はモリトン専用だがな」
「オーケー! ミートシールドは僕の担当だ! イヤッホーウッ!!」
とんでもない戦法が誕生したようだな……。
人間二人を乗せて走れる、ゼルガーの超パワーあってのものだ。
彼、ケンタウロスの中でも並外れたパワーがあるらしいからね。
こうしてバスは海水浴場までひた走り……。
二時間の移動の後、到着!
「海! だー!!」
タリサが思わず立ち上がり、大きく歓声をあげる。
「飛行機からは見えてたけど、目線の高さになると格別ねー! スーダンの海も見たけど全然違う! きれー!」
「管理されてるし、海の種族がやって来てからは環境保全がしっかりされてるからねー」
そして現地には、スパイスが仲良くなった海の仲間たちが、はるばる石垣島から駆けつけてきてくれています!!
バスを降りると、その彼らが海からやって来るところだった。
おお、海水浴客が悲鳴を上げている!
うんうん、彼ら、本質はダンジョンのモンスターだからねえ。
モンスターが自律意志を得て、ダンジョン外で人と共存するようになった新たな種族。
異種族の中でも異質な、魔種族とでも分類すべき存在かな。
「マンマーのみんなー! おひさー!」
『うおー! スパイスー!』『配信見てたぞー!』
上半身が人間で下半身が魚ならマーメイドやマーマン。
では上半身が魚で下半身が人間なら?
マンマーである!
まあ、人間部分も鱗や水かきがあるんですが。
水中でしか呼吸できないんだけど、彼らの魔法で水のフィルターをエラ周辺に作り出し、空気中の酸素をろ過して吸収できるようになっているらしい。
これで、地上を魚人間がのしのし闊歩するというわけ。
スパイスはトトトトトっと走っていって、マンマーたちと「いえーい!」とハイタッチした。
慣れてくると、魚の顔も表情豊かだって分かるんだよね。
「うわーっ!! スパイスさんの顔が広すぎる!」
「どう見てもモンスターみたいなのに友好的とは……!」
ユーシャちゃんとモリトンが大変驚いていたのだった。
さてさて、スパイスは変身できるからいいとして、みんなはお着替えの時間だ。
ゼルガーは黙々と、仲間用のパラソルを立てている。
いい仕事しますなあ。
「俺は海に入らないからな。入ったとしても、下半身までだ」
「馬ボディはいっつも裸だもんね」
「そういうことだな。戦いのときには下半身にも甲冑を纏うが、配信を始めると生身でも甲冑並の防御力を得られる! 俺にとっては実にやりやすい環境なんだ」
「なるほどー! 機敏に動いたりしやすいもんねえ」
『ほほーん』『我々も裸の方が動きやすいからなあ』
マンマーたちもそうだそうだと言っております。
そして日差しに照らされて、ちょっと暑くなってきたマンマーたち。
一旦海に退却していく。
野次馬が勇者パーティを遠巻きに見ているのだけど、ちょこちょこ海からマンマーが来て、勇者パーティのパラソルでお手伝いをするので怖くて近寄れないらしい。
役立ってるぞマンマーのみんな!!
本日のこれは、水着配信でもあるからね。
あんまり野次馬が入り込んできちゃうと良くないからね。
ここは公共のビーチなんだけど、勇者パーティの水着配信をしまーすということで、優先的にスペースを使っていいと県から許可をもらっています!!
社会人の段取り力が唸りをあげたのだ。
さてさて、そろそろみんな出てくる頃合い……。
配信もスタートするとしよう。
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