第242話 ダンジョン攻略して反省会
タリサ曰く、日本のダンジョンはスーダンに出現するそれよりもずっと難易度が高いとか。
そりゃあまあ、魔王が本腰入れて侵略してきてるところだからねえ。
勇者パーティだって、魔王に注目させる意味があると思うし。
だが、後半のタリサはちゃんと大活躍だった。
サイの霊を纏ってパワーでオーガを吹っ飛ばしたり、ジャッカルの霊の力を借りて一時的に分身して攻撃したりする。
技の幅が広いなー。
そうか、タリサはシャーマンスタイルなんだな。
おっ、はづきちゃんに文句を言ってるタリサが、むくれたところをほっぺを突かれたりしている。
このじゃれ合いに、リスナーが大いに喜んでいるではないか。
「スパイスは楽ちんだけどねー。おやー? カイワレがゴブリンと互角の戦いをしているぞー」
※『あの男、強いのか弱いのかわからんw』『防御に特化してるから、攻撃は一般人なのかw』
そうかも知れない。
ゴブリンと千日手みたいなバトルをする配信者初めて見たよ。
仕方ないので、スパイスが近くまで来て……。
「おりゃ、フレアアロー!」
『ゴブグワーッ!』
「オー! せんきゅー! 助かったよー! 恐ろしい相手だった! きっとダンジョンのグレートエネミーだねー!」
まるでさっきのビーフパティ魔将より強かったみたいないい方するじゃん!
『雑魚が! なのですー!! かーっ!!』
おっ、向こうで命を得たドローン、アフームたんの声がする。
ユーシャちゃんとともに、厨房から飛び出してきたスライムと戦っていたようだ。
吐き出した冷凍ビームで、スライムがカチコチになる。
「どりゃー!」
これをユーシャちゃんがもたもたーっとキックして砕いた。
理系女子、格闘技系は苦手だな?
おっと、そうこうしていたらどんどんモンスターが溢れてくる……。
なにげにここ、魔王肝いりのダンジョンだったりしない?
「ワオ! 待ってよ! くっそー、僕の相手のゴブリンは強いぞ! このっ! カイワレ、アッセンボウ! うおおー!」
「またカイワレがゴブリンと互角の戦いを繰り広げてる。背後ではみんながド派手にボスのデーモンとやり合ってるのになー」
これは、パーティの采配を考えていかねばならなそうだ。
タリサにゼルガーは突進して行ってしまうタイプだし、ユーシャちゃんはバランス型だが近接に不安が残る。
いきなり目の前に、倒せる敵を差し出されるともじもじするのだ。
そしてカイワレは弱いのと戦わせるとすぐに千日手になるので……。
「ふんふん、スパイスは司令塔をやるのが良さそうだなあ……。それなら若者たちの出番を奪わないし」
手の内を、この配信を見ている相手に晒さなくて済むし。
おっ、ハンバーガーみたいなボスデーモンが『ウグワーッ』って言って倒された。
スパイスは……と。
「メンタリス、ダンジョン内に生存者いない?」
『精神探知でやんすね? やってるでやんす。一人いるでやんすねー。奥のあたりに……』
ダンジョン化が解けていく中、厨房の奥にバックルームを発見!
そこで倒れている、女子高生っぽい女の子。
バイト中にダンジョンに巻き込まれちゃったんだな。唯一の生存者だ。
これをはづきちゃんが助け起こし、カメラに女の子の顔が映らないように配信を終了。
※『今回のスパイスちゃんは見に回ってたな……!』『ここまで手を出さないスパイスちゃん初めて見た』『カイワレ助ける時だけしか魔法使わなかったなw』
「うんうん、こうね、スパイスの秘密を知るお肉どもにはね、色々分かってると思うんだけど!」
※ランプ『魔女対策了解!』『俺らでスパイスちゃんの隠密行動を盛り上げよう』
理解のあるお肉どもで助かるよー!
配信が終わり、勇者パーティを連れてとあるいいレストランで夕食ということになった。
みんなほとんどが顔出しだから、どこを使ってもいいみたいだね。
スパイスはあくまでスパイスの姿のままだぞ。
「えー、それでは反省会をします! あと、私も自分の方で色々準備とかあるので、勇者パーティのまとめ役を誰かにお願いしたく……」
はづきちゃんの目がチラチラとこちらに向けられている……。
そうだねえ、ここはおじさんが引き受けましょう!
「はーい! まとめ役とかを担当することになりましたスパイスでーす! 後ろからポジショニングとか色々お伝えするんでよろしくねー」
「なるほどー。そういうのタリサは面倒だから苦手だし。スパイスがやってくれるなら楽かも!」
「うん、スパイスなら適任だと思うわ。今回のダンジョンでも、ずっと全体を見通して動いてたでしょ? みんながめいめい勝手にやったら、わちゃわちゃしちゃって大変だったもの」
シェリーが肩をすくめた。
モリトン&ゼルガーはテラス席にいるので、この会話には加わっていない。
だが、スマホを通じて話は流れており、窓越しに二人がオッケーというハンドサインをした。
物わかりがいい男子たちだ!
「あー、私、実はホッとしてて」
ユーシャちゃんがなんかへなへなーと崩れた。
「どうしたどうした」
「勇者パーティだから私がまとめなきゃいけないのかな!? とか思ってて。私が一番の若輩なのにーって」
「わはは、そういうのはこのおじさん、スパイスに任せなさい!」
「スパイスちゃん心強い!」
うんうん、年長者の担当するものだからね。
はづきちゃん、それを狙ってスパイスを入れたなー?
「えー、とにかくみんなの個性がぶつかり合うと、このチーム全体のスペックが落ちるんで。あとカイワレを自由にさせると、この人、勝手に最弱のモンスターに足止めされるから」
あー、と納得する一同。
何も分かっていない様子で、ハンバーグステーキのラージをもりもり食べているカイワレ。
こっちを見る顔の、頭の上にはてなマークが浮かんでるな。
「ここは僭越ながら、スパイスが采配を担当します! みんなが一番効果的に動けるようにやっていくねー。あと、雑用はスパイス一番得意だから。大人なので」
おおーっと感心する一同なのだった。
うんうん、大人がやるべき仕事は多いからね!
ここからは、一週間くらいコーチングされる配信があって、そこからは勇者パーティが独自に動くんだとか。
「私、正直スパイスちゃんはコーチングいらないと思ってるので」
「はづきちゃんの目は鋭いなー」
「コーチング期間中に色々お願いします。みんなの個性つかんだりとかー。なにとぞ、なにとぞ~」
「うんうん、任された!」
それにしても……。
あのもじもじしてた女子高生がねえ……。
こんなに立派になって……!
もうすぐ親になるおじさん、はづきちゃん相手に親目線になっちゃうのだった。
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