第233話 えーっ、ユーシャのドローンに大魔将!?
ばびゅんと飛び上がるスパイス!
まあ、追跡って言っても一瞬で追いつくんですけどね。
ライトバンの上に、ストンと降り立ってからカラフリーで迷彩をかける。
「いやー、どこ行くんだろうねー。楽しみだねー」
『ほんとですねえ! 主様が注目する配信者! どれほどのものか! まあ、かなり筋が良いのは確かですね彼女! 多分、魔女の才能がありますし魔導書も使えると思いますよ!』
「フロータがそこまで言うとは!」
『魔女の血そのものは広く拡散していますからねえ! 才能がある人はちょこちょこいるんですよ。最近の配信文化で、眠っていた魔女の血が目覚めたタイプの人が多いと思いますけど!』
「へえー!」
どうりで冒険配信者、凄い異能を持った人がちょこちょこ出てくると思った。
『マスター。私と同じ系統の反応のモジュールがこちらを見ています。車の天板を透過してこちらを認識しています』
フロッピーがピカピカ光っている。
ふむふむ、お互い、通信し合っちゃってる感じかな。
『マスター、該当モジュールの中に、よくないものの気配を感じます。ダンジョンと同質のものです』
「なんだってー!」
『それを言ったら、ミーだってダンジョンくらい発生させられるざんす。他の魔導書も一緒ざんすよ。ただ、フロッピーちゃんが言うのはミーたちが引き起こす疑似ダンジョンではなく、モノホンのことざんしょ?』
『はい、そうです。あれは魔将や、もっと上の存在です』
「もっと上と言うと……はづきちゃんが退治してた大魔将かあ。地の大魔将は行方をくらましたし、他の三つの大魔将は倒されたし。まだまだいたの?」
『通信障害が起きていた時に計測した数値と、電磁波の波長が一致しています。炎の大魔将です。正確には、その1%ほどの欠片です』
「うへー! そんなのがユーシャちゃんの近くにいるわけ? 何が起こるかわからないなあこれは!」
ライトバンは、八王子市郊外にある廃屋の前で止まった。
長く放置されていたこの家がダンジョン化したらしい。
「あー、ダンミーにも契約済みってある! これを勇者部で攻略するわけね」
どれどれ……?
スパイスは「よいしょー」と天板から降りた。
もちろん、振り返った勇者部のスタッフの人に気付かれる。
「ウワーッ! 車の上から小さい女の子が!!」
「どーもー! ユーシャちゃんに興味が湧いたのでちょっと見に来ました!」
「よく見たらスパイスちゃんだ!」
「はづきっちに続いてスパイスちゃんまで!? うちのユーシャはどんだけ注目されてるんだ!」
「これはビッグになれる予感」
盛り上がる勇者部の面々。
ユーシャちゃんはと言うと、既にダンジョンに飛び込んでしまっている!
勇者部はバックアップだから、ここからドローンを操作しつつ撮影と配信の補助も行うのだ。
「ちょっと見に行っていーい?」
「どうぞどうぞ……でも配信に映っちゃうと台本が」
「じゃあ影から見てるから!」
というわけで!
スパイスもダンジョンに入ってみたのだ。
どれどれー?
一般的な廃屋ダンジョンだねえ。
家に染み付いた思いとか、残された物品に宿った記録を利用し、ダンジョンが拡大するやつ。
これ、ダンジョンは現象ではなく、魔王による侵略だと考えると、ここにある物品には悪意とかは全然ないんだよねえ。
ぎしぎし音がする床を歩いていく。
前方で、ユーシャちゃんが戦っている音がするな。
「ファイアボール!」
『きゃーっち!! 拡散してどばーん!』
『ウグワーッ!』
「ドローン喋ってる!」
『あれは完全に自律意思が芽生えつつありますねー。なんか中心に大きなダンジョンコアが組み込まれてるので、あれのせいじゃないでしょうか? あの恐ろしい女が宇宙で倒した、大魔将のコアですよ』
『いけません、暴走しかかっています』
フロッピーがピカピカした。
なんだってー!
ドローンが受け止めたファイアボールを拡散して、周囲のモンスターにぶっ放している。
現代魔法のファイアボールは、イグナイトのあれよりももうちょっとCGっぽいんだよねえ。
『んん~、あんなファイアボールはぁ、なってなぁーい』
唸るイグナイトなのである。
だが今はそれよりも、ドローンの暴走しかけが気になる!
モンスターを一掃したあと、ドローンがピカーッと光った。
おお、炎をまとってだんだん大きくなっている。
「あれ!? わたしのドローンが……!」
おーっと、ここでスパイスが登場だ!
タタターッと走ってきて、ドローンに話しかける。
「しずまれ! しずまれー! なんか勝手にダンジョンコアに呑まれかかってるけど、しずまれー!」
『うごごご、なんなのですあなたたちー』
「スパイスと」
『魔導書フロータ!』
『イグナイトだぁ!』
『メンタリスでやんす』
『マリンナでーす』
『フヒョヒョ、カラフリーざんす!』
『あとフロッピーです。私達はマスターと共存してるので、あなたもここで変な自我を出さずに共存するのがいいですよ』
ドローンは、いきなり目の前に同類が六人も現れてびっくりしているようだ。
燃え上がっていた炎がしゅーんと消えた。
逆に、内側から青い光が漏れつつある。
『なるほどですー。ファイアボールを受け取ったことで、うちなる炎に焼き焦がされそうになりましたです! ですがみなさんがやってきたら、そもそもこの炎なんだよ、僕は僕ですーって自我がはっきりしたですよ!』
「うんうん、いいことだ」
ユーシャちゃんはカチーンと固まったような状態。
そして、どうやら配信も途切れているようだ。
『ミーと』
『あっしと』
『私でちょちょっと時間を止めてあります! まあ、魔女や魔導書同士による認識の加速みたいなものなんで! もうすぐ切れますけど! でもこのドローン、私達と同調して意識がはっきりと生まれたみたいですよ!』
「よきよき! おや? ユーシャちゃんもちょっと動いてる! なるほど魔女の才能だねえー。ま、スパイスはこの後も、ユーシャちゃんやドローンとは初対面みたいな反応するからね。よろしくー! それじゃドローン、ばいばーい。ユーシャちゃんを助けつつ、ガンガン成長するんだぞ!」
『頑張ってください』
魔導書たちもわあわあと声援を送る。
これを受けて、ドローンが『がんばるです~!』とやる気になった。
いやあ、はづきちゃんも大魔将のコアをぽんと渡したらいけないね!
あんなの、はづきちゃんやスパイスじゃなきゃ管理できないんだから!
でも、コアは完全に別人格として目覚めたし、こっちからの影響でフレンドリーになった!
成長したドローンとの再会が楽しみだなー。
ユーシャちゃんが動き出し、配信が復活するまでの間に、スパイスたちは急いでダンジョンをあとにするのだった!
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