第232話 勇者部のユーシャ
勇者部ちゃんねる!
先日、変装したきら星はづきが、他の配信者をフォローする企画っぽいのに関係した配信者だね。
これ、どういうわけかはづきちゃんは自分のチャンネルで配信してなかったんだけど。
今回は、ちゃんとお互いのチャンネルでコラボ配信をしている。
『私に近い存在がいます。生まれたばかりの私のような』
「ああ、配信者支援型ドローンだね。あれ、どうやら勇者部のみんなで作ったものっぽいよね。最近の学生は凄いな」
画面を見ながら感心する俺である。
勇者部ちゃんねるは、とある高専のメンバーが作った勇者部という活動の一環。
つまり……その気になればスタッフや、配信のメインであるユーシャちゃんの正体も分かってしまうわけで。
いいのかなあー。
いや、きら星はづきが関わったなら安心だろう。
彼女の関係者は、リスナーや外部からの悪意に対して妙に強くなるという評判だ。
悪意を持って接しようとした人物は、誰もが正体不明の衰弱を引き起こして入院したりするからね。
……はづきちゃんが呪詛でも使っているのでは?
この疑問を投げかけてみると、メンタリスが頷いた。
『十中八九間違いないでやんすねえ。呪詛の中でも、日本独自のやり方をしてるでやんすね。魔法の才能がまったく関係なく、使い手の存在力ぅ……みたいなもので、世界に言うことを聞かせる技術でやんすねえ』
「ははーん……。法では取り締まれない呪詛によって、自己防衛をする配信者……」
それが彼女の強さの一環でもあるのだろう。
それはそうと、画面の中で活躍しているユーシャちゃん。
黒髪にバンダナを身に着けて、耐火性マントにちょっとヒロイックなバトルスーツの女の子。
どうも近々、かなり親しい関係になりそうな予感があるんだよなあ。
プライベートではなく、あくまで配信者として。
ということで。
「見に行ってみるか……。スパイスとして」
『いいと思います! 主様は配信者の中でも、最高の機動性を誇りますからね! 主に! 私のフライトの力で!』
得意げなフロータ。
だが、他の魔導書たちは最近、完全に自分の得意分野でアイデンティティを確立しているので『よかったねー』くらいの空気である。
フロータもすぐにスンッとなった。
『魔導書のお姉様、お兄様がたの関係性が出来上がりつつありますね。私は私で、あのドローンに興味があります。私もフロータお姉様から教えをいただく前は、意志の薄いAフォンでしたから』
「完全に普通に喋るようになり始めてるからなあ、フロッピーは」
『名付けることで、そこに魂が宿りますからね! 宿った魂は小さくても、力を注ぎ込み、意識を注ぎ込み、語りかけ続けると確固たる意志を持つようになりますよ!』
『ん魔法の基本中の基本だなぁ~』
『フロッピーちゃんは私達のカワイイ妹ですからねえ。惜しみなく色々教えますよぉ』
『ま、ミーは一般魔法しか教えてないざんすが。他の専門分野が分かるなら、色彩の魔法はあえてメインで使うまでもないざんす~』
またまた、カラフリーは謙遜を。
こうして俺はスパイスにメタモルフォーゼ。
「うおー! 勇者部を見学に行くぞー!!」
ベランダから飛翔するのだ!
「あっ、スパイスちゃんが飛び立ってる! リアルで飛ぶんだ……!」
おっと、座天使くおんちゃんに見られてしまった。
隣の隣の部屋だもんなー。
こうして飛び立ったスパイスだけど……。
「勢いで飛び出したけど正確な位置知らん」
『マスター、ご安心下さい。既に勇者部のある高専は特定されています』
「おおーっ、フロッピー優秀!!」
『マリンナお姉様がずっとネットサーフィンしてらしたので』
『ついつい暇つぶしに~』
すっかりインターネット魔導書になったな、マリンナ!
でも今回は助かった。
教えてもらった方角へとバビューンと飛ぶ。
ほうほう、八王子市にあったのね。
案外近かったぞ。
見えてきたのは、幾つもの棟が連なる大学のような施設。
ちゃんとしてるー!
ここのサークル活動としての勇者部か。
工業系の専門学校だから、あのドローンもお手製。
ユーシャちゃんの装備もお手製というわけだ。
いきなり校内に行くのもマナー違反なので、ストンと校門に降り立つスパイス。
守衛さんのいる入口で一声かけた。
「あのうー!」
「はいはい」
小さい女の子がやって来たと思ったらしい守衛さんが、にっこりする。
「勇者部の人に会いたいんですけどぉー!」
「あー、勇者部ね。すっかり有名になったよねえ。だけどごめんね。学校の決まりで、部外者は通せないんだよ」
ほほー!
ちゃんとしている。
「なるほどー。じゃあ会うためにはきちんとアポを取ったほうがいいんだねー」
「そうだねえ。難しい言葉を知ってるなあ」
驚く守衛さんなのだった。
『主様を知らないとは、この人あんまり配信見ない人ですね?』
「冒険配信自体、まだまだ新しい文化だからねえ」
その新しい文化が、人類にダンジョンと戦う力を与え、反撃の狼煙が上がるきっかけになったわけですが。
『主様、どうします?』
「古き魔女が関わりあるかなあ? ちょっと相談して、中に入れるように話をしてもらおう」
入口の近くで、魔導書たちとこちゃこちゃお喋りしていたら、ちょうど校門からライトバンが出てくるところだった。
窓から見えるのは、照明や音響……。
様々な配信機材。
そして助手席に、配信画面のユーシャちゃんによく似た女の子。
「いたーっ!」
追跡開始だ!
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