第231話 サミット始まる
配信者強化企画会議……という配信タイトルだったのだが、スパイスからするとこれは配信者サミットだね!
各企業勢の方々だと自由な発言が難しかったりするからね。
ライブダンジョンやなうファンタジーからは来ていない。
まあ、Dすぽっ!のまたぎちゃんが来てるんだけど、ここははづきちゃんとの交友関係があるからということで。
「ということで! GW最後の三連休中日はこれで決まり! きら星はづきの、配信者強化プロジェクト~!」
はづきちゃんが宣言し、ベルゼブブが空き缶をカンカン叩いて盛り上げた。
世界の話題を席巻する超大物配信者なのに、なんというチープな演出!!
「今回のこれは、配信者がいかにして同接を集めて、パワーアップしてダンジョンに挑むかっていうのをみんなで考えるプロジェクトなんです」
すらすらと説明している。
うーん、成長したなあ!
すっかりエンターティナーだ。
そんな彼女は、高校三年生を最後に配信者を卒業すると小耳に挟んだんだが……。
まことにー?
世界を制したのにもったいなくない?
いや、彼女が驚くべき速度で世界の頂点に立ったのも、誰もが彼女に魅了されるのも、意味のわからない強さで魔導書すらおののかせるのも、彼女が配信者という立場に己の全存在を預けていないからだろう。
多分、今のきら星はづきという少女は道の半ばで、配信者は彼女の人生の通過点に過ぎないのだ。
「スパイスさん、百面相してる」
おっと、またぎちゃんに見つかってしまった!
「でも考えてること分かります。若いのに本当に凄いですよね、彼女。私が高校生の頃なんか、まだ何も考えてなくて。成人して猟銃の免許を取って、やっといろいろ考えられるようになったから」
「うんうん、色々規格外だよねえはづきちゃんは! 大人チームで支えてあげないとねー」
見た目幼女なスパイスが一番大人だしね!
「はいはーい! ほんじゃあはづきちゃん!」
「はい、ゆくいちゃん」
「ばー(あたし)らがお題もらってなんかやって、はづきちゃんがそれをジャッジするの? ははあ、うむっさん(面白い)」
「ふむふむ、それじゃあま、私たちなりにこうすれば人気になるーっていうアクションを見せる感じだべ?」
ゆくいちゃん、またぎちゃんが次々リアクションしたので、ここでスパイスも腕組みして分かり手みたいな顔して頷いておくのだ!
「うんうん、なるほどねー」
なんかコメント欄が、
※『うおおおおおスパイスちゃんうおおおおお』『かわいいーーー』『声が好き、完璧すぎるボイチェンで編み出された声だとしても好き』
とか盛り上がっている。
残念ながら……ボイチェンではなく変身なので素の声なのだよ……!!
「はい。司会は私、きら星はづきでお送りします。コミュ障だと思ってたんですけど、知ってる人が多いのとまあまあ脚本があると全然普通に行けることが分かりましたんで」
はづきちゃんが台本も見ずに、ぺらぺら喋っている。
これが以前の、内気な少女だったというのか。
圧倒的成長!
この先の彼女を見てみたい気がするなあ。
あと一年足らずでおしまいなのかあ。
今回の配信は、強力になってきたダンジョンをいかにして攻略するか。
絶対的強者、きら星はづきの視点ではなく、一般的なダンジョン配信者にできる方法で考えていこうという企画なのだった。
その形式が独特なんだけどね……!
おっ、またぎちゃんの話題になって、バーチャルスキーボードの提供画面が出てる!
案件配信でもあったのか!!
バーチャルスキーボードいいよね……。
誰でも手軽に3次元立体機動ができるし、バーチャライズした配信者ならダンジョン内でも使用できる。
まあ二桁万円後半近くするけど。
その後、スパイスが話を振られたので、当たり障りのない事を言っておいた。
コメント欄にはお肉どもじゃない人も多いみたいで、ちょっと前の切り抜きの話なんかしているね。
おっと、話がそれた。
だが、ここは名司会者きら星はづき。
「話をぐーっと戻して! ここで、私がダンジョンが強力になっちゃったよー、とお題を出すので、みんなはそれぞれ、こうやって対抗します! っていうのを答えてください」
ま、まさかの大喜利スタイルだーっ!!
「ダンジョンが強力になっちゃったよー」
「ゆくいにお任せ! ばーはね、水着の写真を自撮りしてツブヤキックスで配信中って流す! ツイッピーでもネチョネチョ動画でもいいし! エッチなにーにーはまーる(とっても)いるから、みんな見に来てくれるー!」
お肉ども大歓喜の提案じゃん!
センシティブを嫌う勢を敵に回す判断、イエスかもしれない。
「おおーっ!! それは確かに効果的ですね! センシティブを求める紳士たちは常にネットを徘徊してますから、撮りたての水着写真とか動画を見たらすぐに馳せ参じますからね!! 技有りです! 座布団一枚どうぞ」
『どうもベルっちですー。お座布団どうぞー』
「わーい!」
しかし座布団がもらえるんだ……。
テンションがあがったゆくいちゃんが、水着姿に変身!
リスナーがうおわーっ!と大盛りあがりする。
※『サキシマツツジ柄の水着だ!』『白地に真っ赤なサキシマツツジがたくさんついてるチューブトップビキニ、かわいい~』
南国の花に詳しい識者がいるぞ!!
センシティブ勢には賢い人が普通に紛れ込んでいるので油断できない。
「むむむ、女の武器だべ……」
唸るまたぎちゃん。
北海道出身、熊撃ち猟師系配信者女子は、露出度は常に低いからね。
「で、でも場所によっては、私も脱ぐ」
この発言に、リスナーがどよめいた。
あるリスナーは、関係するURLなんか貼っている。
「あっ、コメント欄でURLが貼られたみたいですね。今式神が安全性をチェックした後、詳細欄に貼り付けます。ご確認くださーい」
「ひぃー!? な、なんでその動画が今ここで出てくるのーっ!!」
「恥ずかしがるまたぎちゃんが可愛いので、お姉さん座布団一枚あげちゃおうかな」
心におじさんを飼っているらしきはづきちゃん、にこにこしながら座布団を配る。
「さて、いい答えが出ましたけど、でもそれって女の人限定ですよね。男性だと水着になっても人が来ないかも……いや、来るかも……? 全性別全年齢対応のお答えはあるかな? ダンジョンが強力になっちゃったよー」
おっと!
ようやくスパイス向けのお題が来たようだねえ。
女子たちの中で唯一のおじさんであるスパイスがお答えしよう!
「はいっ!」
「はいスパイスちゃん! ダンジョンが強力になっちゃったよ~」
「じゃあさじゃあさ、かっこよくとか面白く編集したプロモーション付けてツブヤキックスに流しちゃおう! これなら男の人でも安心だね! これには、切り抜き師の人たちも協力して欲しい~! 動画は切り抜き師の人のチャンネルで、そこから配信者のチャンネルに案内!」
多くの人がウィンウィンになる社会人的提案!
「なるほどー! これは効果的! 男の人の水着はマッチョとか綺麗系だとさらに効果的かも? 確かに水着ごとプロモーションであげちゃうのはあり! 座布団どうぞ!」
なぜマッチョに!?
だが座布団をもらってしまった。
おお、ふかふか。
その後、バンバン発言が飛び出し、ゆくいちゃんとまたぎちゃんが多くの座布団を獲得。
賞品のイカルガエンターテイメント寮の温泉利用チケットを得たのだった。
あの寮、温泉出てるのか……。
きゃあきゃあ喜ぶ女子二人を見て、スパイスは微笑ましさにうんうん頷きながら拍手をした。
「おめでとー!」
「スパイスちゃん、人間ができていらっしゃる」
はづきちゃんのそんな感想に、いやいや、と肩をすくめてしまう。
「スパイスは魂の形がおじさんだから、魂が女の子の人に譲ってあげてもいいかなーって」
「もう姿形はおじさんになっているけど、魂の形がスパイスちゃんなのではないだろうか」
「よく言われるんだよねー」
鋭い。
あんまりスパイス化し過ぎるとマシロが悲しみそうなので、程々にしておきたいところだ。
ということで、このイベント配信は同接三万人を越えて大いにヒット。
今後の配信者たちを強化する上でも、重要なイベントになったのだった!
で、その後、切り抜き師と協力してのプロモーション映像や、カワイイ水着やムキムキアバターでの水着が流行り始めたらしい。
みんなで同じことをしたら埋もれるぞー!
個性出してけー!
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