第229話 はづき主催イベントへのお誘い
ダンジョンの休日における配信は、何気にあちこちで話題になったらしい。
フォーガイズ以外にも、多くの配信者が今回の法令には逆らったんだよねー。
しかも迷宮省側はこの違反に対し、軽い注意程度。
一切のおとがめなし。
そりゃあね。
現実的に考えたら、国民を危険に晒すだけで一切の利のない悪法だからね。
「わはは、うちにも迷宮省からの注意が来てる」
「大丈夫なんスか?」
「文面だけさらっと注意するだけだからねー。実効的なものじゃないよ。ただまあ、国の方ではちょっと紛糾するかも?」
来月までに、大きな事件が起こって方針転換をしてくれるといいんだが。
どうも、まだまだこの国にはお花畑な人が多いらしい。
明らかに魔王とやらの手勢に絆されて、異常な決まりを作ってしまうくらいだから。
「こう、俺達が配信をボイコットすると、一般市民がダンジョン被害に遭うだろ? だから配信を止めるわけにもいかない。一応、フォーガイズとしてはチャラウェイのつてで弁護士を雇って国にその辺りを訴えかけるべく、裁判でも起こせないかなという話になってるんだけど……」
「凄く大きい話になってるー!!」
「大人の世界は大変なのだ」
こう言う状況をひっくり返せるのは、社会のルールとかそういうのの外側にいる存在だけだろう。
「おっ、他の配信では、きら星はづきが応援配信に来たって話で持ちきりだ。ははーん、勇者部チャンネル……? ユーシャちゃんという女の子がそこのメインで……ほほーん」
登録者一万人ちょっとのチャンネルのアーカイブを見る。
華がある女の子だね。
そのうち関わることになったりして。
「なんか変装してるはづきちゃんは分かるッスけど、たまに映り込むこのサングラスの外人の人はだれッスか? 画面きわっきわで素手でオーガをふっ飛ばしてるッスけど」
「イカルガエンターテイメントの新人じゃないかな……。あそこは本当に層が厚いなあ。強力な新人ばかり次々見つけてくるし」
「あっ、はづきちゃんのアクスタ!」
「うん、巷ではあれを持ち歩くだけでダンジョンに対する強力な防御効果があると言われているね……。生産が全然間に合わないくらいのニーズがあるとか」
「ほへー。そんなに品薄なら、転売とかされてるんじゃないッスか?」
「不思議なことに転売しようとした人がひとり残らず、不思議な病で倒れるらしい。ひどい衰弱状態になっていて、精気を根こそぎ吸われたようだとか」
「ひえええ、呪いのアイテムじゃないんスかー!?」
「大丈夫じゃないかなあ。あ、うちもね、リスナーの人が一個送ってくれたから。マシロが持っててね」
「えー! ショウゴさんのじゃなくていいんスか?」
「奥さんと子どもの命を守るためだからね! 俺はなんでもするぞ」
「嬉しい~!」
というようなやり取りをマシロとやったりなどした。
しかしまあ、世の中は新たな転換期に来ている気がする。
そうこうしている間に時は過ぎてGWが近づく……。
そこで、スパイスのところにイカルガエンターテイメントからとある打診があったのである。
『わたくし、イカルガエンターテイメントの権堂と申します』
「あっはい、スパイスでーす」
ザッコでやり取りをするぞ。
『今回はスパイスさんに依頼がございまして。弊社の配信者、きら星はづきがスパイスさんをぜひともと推薦しておりまして。配信者強化計画という、GW中に行う番組のコメンテーターとしてですね』
「ほほーん!」
なんだそれは。
面白そうな気がする。
概要は、ダンジョンが強力になり、ダンジョンの休日というデバフまで掛かってしまっている昨今の配信者業界。
ここにおいて、配信者の皆さんをパワーアップさせるにはどうしたらいいか……!
という議題を話し合う、討論型エンターテイメント番組らしい。
これの司会を、あのはづきちゃんがやるの!?
脳内を、初めて出会った時の内気そうな女の子の面影がよぎる。
成長したなあ……。
若者の成長は速いのだ!
「やりまーす! はづきちゃんによろしくお伝えくーださい」
『はい、ありがとうございます! ではこちらがその企画書で……』
司会進行は、はづきちゃんと、その分身である魔王ベルゼブブ。
もうこの魔王という時点でツッコミどころ満載なんだが、そういうものなのだから仕方ない。
そして石垣島でお世話になった、ぱいかじゆくいちゃん。
Dすぽっ!の新人配信者、熊内またぎちゃん。
最後にこの黒胡椒スパイスなのだ!
イカルガエンターテイメントのスタジオで、生配信するらしい。
贅沢な作りの番組だあ。
進行は大喜利形式。
面白おかしく、だけどためになる。
全ての配信者を応援するための番組なんだそうだ。
なるほどなるほど……この企画を現役JKであるはづきちゃんが?
すげー。
おじさんはすっかり感心してしまうよ。
そして、昨今のダンジョン事情への対策を考えているのが、スパイスたちだけではないということが実感できて安心する。
やはりこの苦境はね。
配信者界みんなで手と手を取り合って頑張っていければと思う次第ですよね。
ということで、台本なんかを渡され、スパイスは大イベントに向けて準備をしていくことになるのだった。
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