第225話 社会的侵略!
「ショウゴさん! なんか大ニュースになってるんだけど」
「なになに? どうしたんだ?」
朝起きて顔を洗っていると、マシロが慌てて呼びに来たのだった。
リビングのPC画面で、ライブ配信が流れている。
「あれっ? 首相がモンスターと握手してるじゃん」
「そうなんスよー! なんかダンジョン側から融和の申し出があったー! とかで。それで、ダンジョン攻略をしない日を作りましょうみたいな、そういうことに決まったらしいッス」
「ひえー!? なんだそれ! 正気かー?」
時は四月終盤。
GWの始まり。
巷では、奇跡の十三連休! なんて騒いでいるが、配信者である俺はむしろ、そんな時ほど稼ぎ時なのだ。
どこのダンジョンでどういう配信をして……。
ゲーム配信でリスナーと交流するのもいいな……。
そんな事を考えている朝だった。
まさか世の中の裏側で、こんな事態が進行していたとは。
早速、シノを呼んで詳しい話を聞くことにした。
すると、狐幼女と迷宮省職員の男性が同時にやって来た。
「おはようさーん! うちは外部協力者やから、あまり詳しくなくてねえ。だから、ちょうど昨夜泊まっていった職員さんを連れてきたんよ」
「どうもどうも」
職員氏がペコペコした。
「これはどうなってるんですかね」
「はい、これはトップシークレットとして裏で進められていた事案だと思います。我々一般職員にも知らされていませんでした。長官はある程度抵抗はしたようでしたが、あの方は大きな流れには逆らわない人なので」
「あー、なるほど」
内閣から口止めされて、長官も外に漏らさなかったわけだ。
迷宮省の職員は味方だと言えるけれど、長官はあくまで任期の間だけ担当する政治家だもんなあ。
大京さんことスレイヤーVみたいな人の方が珍しいのだ。
なお、そのスレイヤーVからもザッコで連絡が来た。
『な、なんだこれはーっ!!』
「大京さんも驚きましたか」
『そりゃあ驚くさ! 俺は何も聞いていないぞ! いや、もう部外者なんだから当然だが。ダンジョンの休日法案……!? そんなもの、人類になんの得も無いじゃないか。明らかに、拡大するダンジョンを助長するだけの法案だ。あのモンスターがダンジョン側の意志を代表する存在だとするならば、これは侵略だぞ。奴ら、ついに本格的に攻撃を仕掛けてきたんだ』
「随分平和的に見える侵略ですよね。握手して首相と二人で笑顔を作ってる」
人間に近い姿のモンスターだ。
真っ青な肌に尖った耳。
その他は、重力の影響を受けていないようなローブしか存在しない。
空虚なその中から腕だけを生やして、首相と握手をしていた。
「魔導書たちー! 有識者の意見を求む!」
『そうだ! スパイスのところには魔導書がいたな!』
「いやあ、こう言うときに便利便利」
呼ばれてから、ピョーンと飛び出してきた魔導書たちがわいわいと自分の見解を述べる。
これに関しては、メンタリスとカラフリーが一家言ありそうだ。
『今の社会は武力より、こうして政治的に攻めた方が効果的だと理解してるでやんすね。こいつに上がいるとしたら、色々とモノがわかった厄介なやつでやんすよ!』
『マスターのワイフさんと、職員さんはあんまり見ないほうがいいざんす。これ、公共の電波とか音声に乗せて軽い洗脳音声みたいなの流れてるざんすよー。えげつないざんすねー。しかも一気にこれだけの広範囲に魔力を流すとは! この使者らしきモンスターだけでも、相当な手練れざんすねえ……!』
「なるほど分かりやすい!」
『ふむ、今すぐに会見を潰すか』
ザッコの向こうで、スレイヤーVが立ち上がる音がした。
いかーん!
スレイヤーVが犯罪者になってしまう。
正義の人だが、ちょいちょい現代の法治国家だと危なっかしいんだよな。
国会議員という枷が外れると、どこまでも自由になる人だ。
「相手がこうやって正攻法でやって来た以上、こちらは別の対策を立てないといけないでしょう。あとはこの会見をどうにかして止めるしか……」
『私ですね? ネットで邪魔してやりますよう』
マリンナが嬉しそうだ。
インターネットの海を渡り、通信をいじったりできる力を身に着けたらしい。
頼もしい!
「だけどそれじゃあ、テレビの方が対応できないんだよな。年寄りの家は圧倒的にテレビだろ」
『あー、私テレビは専門外ですねえ。インターネットテレビになってればいけるんですけど』
俺と魔導書軍団、シノにザッコの先にいるスレイヤーVで、うーんと考え込んでしまった。
これ、敵側の攻撃だとすると今までで一番厄介だ。
気付かない内に手を回されて、社会の側から侵略される。
パッと見は融和的で、しかもあえて、ダンジョン攻略と縁のない一般人には全く問題のない政策に見せるようにしている。
これは……とんでもなく面倒なことになってきたぞ。
そう俺が思っていると……。
ライブ配信のチャットが解放されていることに気づいた。
多くのコメントは、首相とモンスターのにこやかな関係に好意的だ。
いや、そういうコメントばかりピックアップされているのだろうか?
時折流れる否定的なコメントや、見知った配信者のコメントは一瞬で消える。
BANされている?
これ、国の側まで俺たちの敵になるとか、そういう展開だろうか?
いや、勘弁して欲しいなあ!
次の瞬間だ。
コメント欄に、きら星はづき、という名前が出現した。
コメント内容は、¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥……。
明らかな誤送信。
※『えっ!?』『はづきっち!?』『なんだこれ!』
コメントが反応している間に、配信画面はとんでもないことになっていた。
眩い光が会場にぶち込まれ、阿鼻叫喚になる。
首相と握手していたモンスターが謎のパワーでふっ飛ばされ、光に全身を焼かれながら『ウグワーッ!?』とか叫んだ。
そして消えた。
配信がプツッと切れる。
なんだなんだ!?
『彼女がやったようだな』
スレイヤーVが何やら満足げだ。
声には笑みすら籠もっている。
「やったって言うと……。はづきちゃんってあんなにトンデモなかったっけ?」
誤送信したコメントが攻撃になった?
しかも強力なモンスターを一撃で退散させるほどの。
なんだあれはー!
『我々が活動している間、彼女もまた活動し、成長し続けていたんだろう。婉曲的な陰謀を力で叩き潰せるほどに。つまり、表立った強大な悪との戦いは彼女に任せ、我々は彼女の目が届かない敵と戦う役割分担が必要ということだよ』
「あー、今この瞬間にそんな関係が生まれた気がしますね、これ」
俺は納得した。
ここで思い出すのは、グラーツから帰るときに仙人が口にしていた、『魔王』というワード。
それが動き出して、日本はとんでもないことになる寸前であり、これを食い止められるのがきら星はづきということなのだろう。
「よし、きらびやかな表舞台は若者に任せて、おじさんは影から支援するとしますか!」
新しい展開が始まりそうで、ワクワクしてくる俺なのだった。
なお、きら星はづきの光を浴びた魔導書たちは、一斉に『ウグワーッ!』とか言ったあと、ワーッと和室に逃げ込み、隅っこに固まってガタガタ震えていたのだった。
君らの天敵みたいな娘だもんなあ……。
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