第221話 色彩の多彩な魔法を喰らうがいい
『ははーん、チミ、バレエやったことないざんすね? それでも安心! ミーはバレエの動作を模倣する……今風ならインストールする魔法もあるざんすよー!』
「えーっ、便利ー!! そんなマニアックな魔法なんで持ってるの?」
『ミーの主な活躍場所は、先々代に回収されるまでは東欧だったざんすからねー。東欧ではそういうのが盛んなんざんす!』
※『カラフリー、あまりにも便利すぎるw』『なんでも出てくるんじゃないか?』『バレエ習いたーい!』
スパイスの体にバレエの動作がインストールされる!
ブライトスパイスがくるくる回り、骸骨子どもを跳ね飛ばす!
ぴょんぴょん動く動作が蹴り足になり、骸骨子どもをふっとばす!
※『バレエって戦闘的ぃー!』『一人だけ違うバレエやってない!?』『創作バレエだ!』
『キックを強化しといたざんすよー! 今、ダチョウと同じくらいのキック力ざんす!』
「どうりでキックした骸骨が壁際まで吹っ飛ぶはずだ! おっと、でも骸骨子どもが増えてきたぞ! 移動! 移動しまーす! マリーさんついてきてー!」
「はい!」
ということで、合わせ鏡の向こう側へ移動!
そこはさっきと全く同じ作りなんだけど、窓の外の光景が紫色の逆さになったビル群だ。
バグってんねー。
怨霊に追い立てられて、鏡の中を移動すれば移動するだけ訳がわからなくなる作りなんだろうね。
だが!
スパイスは最終的に何もかもぶっ壊して脱出するつもりなんで、問題なし!
『魔力感知しといたざんすよー。周辺全部魔力反応ざんすが、明らかに濃淡があるざんすねー。隠蔽が下手っぴざんすよ、フヒョヒョヒョヒョ! はいマスター、そこざんす!』
「おっ、この何もなさそうな壁際の空間を~、キーック!」
すると、『ウグワーッ!!』と叫びながらピコーン!と煉瓦みたいな形の怨霊が転がり出てきた。
そこにスパイスは「プリズムビーム!」『ウグワーッ!』怨霊は爆発!
『内部にミーの魔力を叩き込むと、ゴーストは爆発するざんすねー! これは新事実!』
※『このコンビ強いぞ!』『カラフリーがあらゆる状況に対応してくるじゃん!』『こいつなんでもできるんじゃないか?』
『そんなことは無いざんすよ! できることしかできないざんす~! あっ、警報魔法に反応ありざんすねー。慌ててゴースト共が流れ込んでくるざんすよ! 今の隠れ怨霊、どうやらダンジョンのキモだったざんすねえ』
合わせ鏡が壊れたディスプレイみたいに、変な線が幾つも走っている。
「割りたくなりますね、こういうの」
マリーさん武闘派ー!
「気持ちは分かるー。でもね、こういうのはもうちょっと様子を見てからだねー。向こうの手の内を今、どんどん明らかにしながら壊していってるところだから。最初から設置してあるギミックはまだまだ何か役割があるからね」
「なるほど!」
物わかりがいい!
流石、元迷宮踏破者だ。
本当ならスパイスの大先輩なのに、こうやって素直に意見を取り入れられる辺りが、配信がない時代をずっと生き残ってきた証なんだろうね。
「カラフリー、鏡に触ってみたけどどう?」
『移動先が乱れてるざんすよ! んー、魔力感知によると、この先に展開しているフロアの数は86。なるほど、これだけあれば侵入者を焦らせたりするのは十分ざんすねえ。で、魔力の濃淡で言うなら重要なのはこのうちたった一つ! そこに移動するざんすよー。あ、ダンジョンの構造はもうミーがハックしたざんす』
「つよーい!」
『フヒョヒョヒョヒョ! マスターがきっちりと時間稼ぎできるからざんすよー! これが自分が自分がってタイプだったり、変に引っ込もうとするタイプなら無理ざんす!』
出てくる骸骨子どもたちを、拡散プリズムビームで薙ぎ払う。
弱いのは倒せるけど、強いのはひるませるくらい。
でも、これで十分なのだ!
カラフリーが完全解析したダンジョン構造。
バグった鏡を、このダンジョンの中枢に直結させる!
「なるほど、そういうことができる魔導書なんですね」
『そうざんす! これをこうして、こうして……配信的に映えるようにビジュアルで分かるようにもしとくざんすよ。ミーは配信に不慣れなんで、チープな絵面になるのを勘弁して欲しいざんす』
「いえいえ、私も勉強になります」
『ヒョー、一般人なのにチミは理解があるざんすねー』
カラフリーがマリーとお喋りしながら、鏡のハッキングを完遂する。
どういうことが起こってるかというのは、フロッピーに直接チープなアニメーションの形で送り込んでいるらしい。
※『分かりやすい!』『絵がかわいいw』『えっ!? とんでもないことしてないか、この魔導書』『さっきからずっと搦め手ばっかりだけど、全部がクリティカルに状況を解決する搦め手なんだけど!』
『フヒョヒョヒョ! 色彩の魔法というのは、必要な時に必要な魔法を必要なだけ使うことが真骨頂ざんす! デタラメに使いまくればいいというものでは無いざんすねえ。この地味なのが一番強いざんすよ。それが理解できない魔女は、色ばかり抽出して絵の具で侵食したりするざんすねー。雑魚ざんすねー』
※『めっちゃ色彩の魔女をディスってるw』マルチョウ『本当にあの使われ方不本意だったんだな……。今の彼の活躍を見ると納得できる』ランプ『スパイスちゃんって、魔導書がやりたいことを手綱を握ったうえでちゃんとやらせる理想的なマスターなんだなあ』
『おぉぉぉぉぉ!! 恨めしい……恨めしぃぃぃぃぃ』
おっ、ボス怨霊のバレエ先生が来たぞ!
鏡を無理やり抜けてくるみたいな力技。
「どうやら合わせ鏡での移動、コントロールがこっちに移りつつあるねー」
『ほい、ハッキング完了ざんす! 行くざんすよー!』
「ほいほーい!」
スパイスはスパーッと合わせ鏡を移動!
最後にたどり着いたのは、バレエ教室の隔離された一室。
事務室だ。
そこで、PC画面の前で俯いている年嵩の女性がいる。
それが顔を上げてスパイスをギロリと見た。
『見ぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁなぁぁぁぁ』
その姿が膨れ上がり、ボス怨霊の青白いタイプに変化した!
ボス戦だー!
事務机とかPCを蹴散らしながら、向こうの足が振り回される。
物凄い速度だぞ!
スパイスはこれを創作バレエ動作で回避したり、蹴り足に飛び乗ったり!
「プリズムビーム! いかーん! 相手が捨て身で掛かってきてるから、あんま効いてない!」
『ミーもマスターのそういう直接的な魔法は嫌いじゃないざんす! 何よりカラッとしてて晴れ模様みたいでいいざんすねー! ちな、ビームだと薄いんで、デカブツにトドメを刺すなら圧縮がいいざんすよ! イマジネーションはマスターの方が得意ざんしょ? お任せざんす!』
「おっけー! じゃあこれを……循環するプリズムビームをイメージ!」
『ぬおわあああああああ!!』
足の上のスパイスを、大きく振って吹っ飛ばすボス怨霊。
だけど、そこでもうスパイスの中の魔法イメージは完成しているのだ!
プリズムビームを回転ノコギリの刃にして、放つ!
「うおー!! いっけー! 八つ裂きプリズム光輪!!」
プリズムビームがぐるぐる回り続ける、七色の回転ノコ刃が飛んだ!
ボス怨霊はこれを蹴り飛ばそうとしたら、光輪はその足をざっくり切り裂きながらボヨーンと弾んで顔面に!
『ウグワーッ!!』
ボス怨霊の顔に炸裂した八つ裂きプリズム光輪は、超回転!
頭部から股間まで真っ二つだ!
『ウグワワーッ!!』
なんか色々事情はあったんだろうけど、人を呪う怨霊になった時点でおしまいだよね。
ってことで、その怨念ごとバラバラです!
ダンジョンがあっという間に解体されて……。
そこは、めちゃくちゃに荒らされた普通の事務室になっていた。
パーテーションで区切られてるだけだったのねー。
「うーん、勉強になりました! なるほど、構成はこう言う感じで……」
「あまり参考にならないかもだけどー」
「いーえ! ありがとうスパイスちゃん! 持ち帰りして旦那にもプレゼンしときますね!」
マリーがハイテンションで、スパイスの手を取ってぶんぶん振った。
「喜んでくれて何より! なんかカラフリーもマリーさんのこと気に入ったみたいだし」
『ウィー! またコラボするざんすよー! 衣装も白いし、シンパシーを感じるざんす!』
ってことで!
八方丸く収まって、お披露目配信は終わるのだった。
いやあ、ブライトスパイス、あまりにも便利だなー。
ちょっと火力は弱めだけど、火力が全てではないことを思い知った!
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