第218話 ダークスパイス……えっ、ブライト!?
『奥さんのつわりが起きた時に軽くする魔法ざんすか?』
「そうそう。マシロ、ギリギリまで仕事するつもりらしくってさ。やっぱそんな便利な魔法はないか」
『あるざんすよ』
「やっぱないか。ゴメンなカラフリー。そんな便利な魔法……あるの!?」
『フヒョヒョヒョヒョ! あるに決まってるざんす! ミーの所持者に、普通に人間と結婚して人生をまっとうした魔女がいたざんす。チミたちが第一次世界大戦と呼んでる頃だったざんすねー。そこで当時のマスターはつわりが重かったので、ミーが魔法を開発したざんすよ。いやー、人間のいのちの輝きにミーは圧倒されたざんすねえ』
「本当に便利だなあ、カラフリー。それに聞いてたよりも人情派か」
『ミーは人間を愛してるざんすからねー。アホな魔女は反吐が出るほど嫌いざんすけどね!』
あっ、この間やっつけたあれは大嫌いなのね。
だからスパイスにやられた時、魔女を魔力に変えて食っちゃったわけだ。
「じゃあ今度頼む」
『オッケーざんす』
『主様、驚くほど早くカラフリーと打ち解けましたねえ』
「なんとなくね、彼が何に価値を感じてて、価値を感じないものには徹底的に冷淡なんだろうなーってのはよく理解できたからね」
『新しいマスターは理知的ざんすねえ! 先々代はミーを危険視して半ば封印してたざんすが、マスターなら使いこなせそうざんす! ってことは、いのちの輝きマスターと同じ姿になれるかもざんすねえ』
「いのちの輝きマスターと同じ姿!?」
それはなんだというのか!
そこまで考えて、俺はハッとした。
あの三百年生きた魔女すら侵食しておかしくしてしまう色彩の魔導書に、マスターとして選ばれながらも子どもを産み人生をまっとうした魔女がいる。
それはつまり、侵食を抑える事ができたという証明ではないか。
「スパイス以外にも、フォームチェンジを使いこなす魔女がいた……?」
『いたざんす! まあ、マスターは多数のフォームチェンジを使っている時点で異常でやんすがね!』
『ふふーん! 主様は特別ですからねー!』
ということで!
本日は、フロータとカラフリーを連れて近所の鉄道公園まで来ている。
平日の午前中だから、全く人がいないんだよね。
「じゃあまずは試していくか。メタモルフォーゼ、スパイス!」
俺の足元から飛び出した、白と黒のリボンに似た光。
それが全身を包み込み……。
うおおおー、白黒エプロンドレスの魔法少女、黒胡椒スパイスの登場だー!
『スパイスに変身するとマスターテンション上がるざんすねー!』
「エネルギーが満身に満ち満ちるからね!! 十歳くらいの女の子のパワー!!」
それでいて全身の筋力は、全盛期の頃のショウゴのそれなんで、でかめな成人男性の身体能力と小さい女の子の無限エネルギーを併せ持つスーパー存在がスパイスなのだ。
この体重であのパワーだと、普通に壁を走ったり連続宙返りできたりする。
多分、ウィンディと根本的に違うのは、このフィジカルの強さだと思うなあ。
あっちはベースが女の子なので、どうしてもスパイスには及ばないからね。
『ハフーン? なるほどー! しみじみと見て行くと……これが男子が変身した魔女ざんすか~! 歴代のマスターでダントツの最強フィジカルざんすねえ~。話に聞く大物食いを、周囲の助けがあったとは言えやってこれた理由がこれざんすねえ』
「冷静だなー! じゃあ、カラフリーでスパイスの新フォームをやってみようと思うんだけど!」
『合点承知ざんす~!! ミーは色彩。つまり色と色を混ぜると……』
「真っ黒! ダークスパイスだ!」
『ノンノンノン! あんなの下手くそが無理やり乗りこなそうとして色を混ぜただけざんす! 黒から取り出した色なんか、全部濁った偽の色ざんすからね~』
あの魔女を指して下手くその偽物って言うのかー。
口調が怪しいのに、カラフリーはかなり格の高い魔導書のようだ。
『でしょー? 私と格的に並び立つのは、色彩と力って言ったじゃないですかー』
「他の四冊も強いのにー」
『言葉の綾というものざんす! フロータ、パワード、そしてミーはエレメントではなく、抽象的な概念……コンセプトを司る魔導書ざんす。メンタリスがここに近いざんすが、あれは魔法の範囲を制限することで力を高めたタイプざんすねえ。なお、ミーたちは全員著者が違うざんす』
「えーっ!! ここで新事実!!」
『それじゃあ行くざんすよマスター! ミーを手に取るざんす!』
「いきなりだなー! ほいほい! カラフリーをキャッチ! うおおー! 体にパワーが流れ込んでくる~!」
『パワーは力の魔導書ざんすよー!! カラーが流れ込んでくるとか表現を変えて欲しいざんすねえ! それじゃあ、頭の中に浮かんだ名前を唱えるざんす! アン・ドゥー、トロワ!』
「メタモルフォーゼ! ブライトスパイス! ……ブライト!?」
スパイスの足元から、七色の輝きが飛び出してくる。
あれっ!?
これって、色彩の魔女が使ってた色の魔法よりも、遥かに彩度が高くない!?
『真に素質ある者が使う色は、輝くざんす。無能が使うと絵の具みたいになって全く力を発揮できないざんすよ~』
「な、なるほどー!」
納得しながら、混ざり合う色彩の輝きを全身で受ける。
スパイスの姿が変わっていくぞ!
バレエのチュチュだこれ!
しかも、キラキラ輝く純白のやつ!
混ざりあって白になるのかー!?
「あっ、右手についてるシュシュがプリズム色だ。反射で全然色合いが変わるぞ」
『全ての色彩を纏うのがブライトスパイスざんす! 真の色彩魔法を存分に取り出せるざんすよー。ただ、このままだと難易度が高いざんす。色をより分けて構成する必要があるざんすからね。なので、シュシュをそのための入口にしたざんす。これに任意の色を反射させて、それを使うざんす~』
「ほえー、高度ー!!」
スパイスのまとったチュチュ衣装は、胸元に大きなリボン、背中にはさらに大きなリボンがあって、シルエットが翼みたいに見えるのだ。
影を見たら、お団子になった髪にもプリズムのシュシュがついてるみたい。
うおー、禍々しい色彩の魔女から打って変わって、めちゃくちゃ天使みたいじゃーん!
早く鏡で見てみたいぜー!
と思ったら、鉄道公園の係員さんが巡回してたみたいで、スパイスを見て「はわわわわ」と腰を抜かしたのだった。
いかーん、おじいさんをびっくりさせてしまった!
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