第215話 グラーツに別れを告げる
「濃いのが五冊揃ったなあ……。色彩の魔導書はもっとこう、落ち着いた感じだと思ってたんだけど全然そうではなかった」
『ウヒョー! もしかしてチミ、ミーが思っていたよりもエレガントだったからびっくりしてるざんすね? うんうん、チミの困惑はよく分かるざんす~』
『ねー、主様! こいつウザいでしょ~! 私カラフリーきらいー!!』
『これは痛烈ざんすねー! だけどミーはわかってるざんすよ。嫌いよ嫌いよは好きってことざんす。ミーもマリンナのことは憎からず思っているざんすよ~。ん~っ、ジュテーム!』
『うわーん! 話が通じない~! やっぱり嫌い~!』
『あたしも苦手なのよねカラフリー。あまりにも独特過ぎて、こう……。色彩の魔女はこいつを手懐けようとしておかしくなっちゃったもんね』
マリンナに嫌われ、スノーホワイトから敬遠されるカラフリー!
大変個性的だけど、スパイスの放った必殺魔法を初見で読み解き、元マスターである色彩の魔女を魔力リソースにして魔法を解体して異空間からサラッと脱出してくる凄腕でもある。
「じゃあよろしくねカラフリー! スパイスも専用の新フォームが生まれそうな予感……」
『ほほーん。チミはミーたちの侵食を専用フォームを作ることで受け止めてるざんすか! それは賢いざんすね~。生身だと食い止めていても侵食は溜まっていくざんすよ。だからどこかで精算しないといけないざんす。だがしかし! それぞれの魔導書に特化した形態を持つことで、ミーたちとマッチして侵食を受けなくなるざんす。まさに現代の魔女だからこそのアイデアざんすねー』
『解放されたからかよく喋るわねー。しっかし私と主様で考えた魔法をよくぞ初見クリアしましたねー!』
『おーフロータ! 不調ざんすか? あ、いや、マスターの成長度合いがまだ追いついてないざんすね。ミーがサクッと解体できる魔法だったざんす』
『そこは研究が必要よね! 威力はまずまずじゃないかしら!』
『そうざんすねー。生きてきた年月しか誇れない小物には抵抗できなかったざんすが、配信者っていうのの上澄みなら普通に突破してくるざんしょ』
『なるほどなるほど……。やっぱあんたがいると研究がはかどりそうですねー! 手伝って下さいねー!』
『ガッテンざんす! またカラフロコンビでやっていくざんすよー!』
『フロカラでしょー!』
フロータとは仲がいいのな。
で、メンタリスともぺちゃくちゃお喋りし始める。
『おひさでやんす~。どうだったでやんすか? やっぱめんどい魔女に捕まると自由が利かなくて大変でやんしょ?』
『そうざんすねえ。ミーを真っ向から支配しようとしたことは評価するざんすが、まあやり方が悪かったざんすねえ。色彩の魔法を真っ向から受け止めるなんてナンセンスざんすよ。場合によって必要な要素をピックアップするのがクレバーざんす』
『あー、さもありなん。どうりであの魔女、カラフリーの魔法の一部しか使えてなかったでやんすからねえ。一般魔法なんかほとんど使ってなくて、挙げ句がドロドロに混じり合った絵の具でやんすもんねえ』
「魔導書たちのお喋りが参考になるなー」
「わたしはさっぱりです!」
「驚いた……。魔導書はこんなに世間話をするものなんですね……」
改めて、周囲を見回す。
すっかりドロドロになった、レーゲンボーゲン社の残骸の前。
スパイスたちは地面に降り立っているのだ。
向こうから車がたくさんやって来て停まった。
エクソシストたちと、社員さんたちだぞ。
「ああ~弊社が~!」「何が起こったんだ~!?」「普通じゃないでしょこれ」「社屋が溶けてる~!!」
「色彩の魔女が倒された!?」「ウワーッ! 六冊の魔導書が地面の上でぺちゃくちゃ喋ってる!」「刺激するな! ヨーロッパ全土が沈むぞ!!」
「大変そうだなあ」
「俺が説明してきましょう」
「助かります~!」
魔導書たちのお喋りは全然止まらない。
なので、好きにさせておくのだ。
スパイスたちは車に乗せてもらい、エクソシスト協会まで帰ることになった。
途中、現地の配信者たちにも会って挨拶などする。
情報提供感謝なのだ!
そして協会の会議室。
狭いところに、昨日みたいに協会の重鎮が集まっている。
スパイスとウィンディが並んで座っているのだけど、眼の前には六冊の魔導書。
グスタフと理事さんだけ近くにいて、他の人は離れて座っている。
「ご……ご協力を感謝します。そしてまさか、魔女の持っていた魔導書まで手にしてしまうなんて。あの魔女は色彩の魔導書を持っていたのですね。それを我が協会に引き渡すわけには……」
「スパイスは構わないんですけど、これ、あの魔女ですら管理しきれずにおかしくしちゃった魔導書なんで」
ざわつく重鎮たち。
どこで引き取るかの押し付け合いが始まった。
じゃあ本部長が……となったら、このおばさんも顔色を青くして返答できないでいる。
うんうん、三百年生きた魔女すら制御できない魔導書、コワイよねえ。
話してみると、怪しい口調のキャラが濃いだけの本なんだけど。
『ンマー! シツレイなやつらざんすねえ!! もういいざんす! ミーは新しいマスターであるスパイスのところに行くざんすよ! ミーたち魔導書との付き合い方に関しては、新しいマスターは魔法世界最先端ざんすからね!』
カラフリーが起き上がり、宣言した。
誰も止められない。
だって、どこもこの恐るべき魔導書を引き取りたがらないからだ。
これはもう、国家規模で予算を割いて封印するしか無いレベルだし、しかも永久に厳重な監視を続けなきゃいけなくなるからね。
相性の良い魔女に引き取ってもらって、平和に暮らしてもらうのが、一番安全で安上がりなのだ。
「うんうん、それでは私がカラフリーをいただいていきますね。そして、これで色彩の魔女に関する案件は終了ということで。ああ、もちろんこれは私達の目的でもあったので金銭は発生しません。みなさんが私達を無事に見逃してくれることが報酬ということでいかがです?」
向こうの顔を立てる提案をしたら、本部長をはじめ、重鎮たちが頷いた。
ホッとした顔をしている。
これでウィンウィンだね。
会議が終わり、重鎮たちがそれぞれの地域に帰っていった。
理事は彼らを見送った後、去っていった方向にむけて頭の横で手をひらひらさせて、舌を出してから目をぐるぐる回して「あばばばばばばー!」とか叫んだ。
ストレスが溜まってたご様子で。
「いやあ、スカッとしたよ。色々ありがとうね、スパイスさん。ウィンディさん。またグラーツに遊びに来てね」
「ありがとうございますー! お世話になりました!」
「なんだかんだ楽しかった~」
スパイスとウィンディ、今回の旅はなかなか満足。
魔女退治と同時に、異国情緒を堪能できたしね。
グスタフも握手を求めてきた。
「俺も世話になりました。最初は魔女と言うので警戒していましたが、お二人共ごく普通の善良な方で、色眼鏡で見ていたのは俺の方だったと気付かされましたよ。魔法は使う者が悪なのではなく、悪しき者が使う時に悪になる。お二人ならば安心でしょう。そのうち、日本やアメリカにお邪魔することがあれば、観光案内をお願いできますか?」
「もちろん!」
「任せてください!」
握手したグスタフの手は大きかった!
こうして、スパイスとウィンディのグラーツ滞在は終わり!
また日本での日常が戻ってくることになるのだった。
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