第214話 完全勝利だリトルウィッチ・デュオ!
バリバリ魔法が飛び交う!
色彩の魔女は本当に器用で、あらゆる魔法をコピーしてるような感じ。
緑の風を巻き起こし、青い波を叩きつけてきて、赤い炎を降らせる。
色から想起されるイメージで効果を発揮するわけだ。
なるほどー。
器用ですねえー。
これは多彩な攻撃と手数で相手を圧倒できそう!
「それらの本物がスパイスたちの側になければの話だけどねーっ!!」
※『うおおおお反撃開始だあああ』『スパイスちゃん、炎と水を同時に使ってない!?』『あれ? 魔導書は今アッセンブルして周りで戦ってるはずじゃ?』
『私です』
ふわ~っと配信画面外から聞こえてくる癒し系ボイス。
そう、フロッピーだね!
うちの使い魔にしてAフォンのフロッピーは、数々の魔導書から薫陶を受けていたのだ。
その成果を今、発揮!
中級くらいの魔法は一通り抑えてあるから、電力と相談しながら使用できる。
「それがお前の魔導書ということか!? 馬鹿な、神秘の薄れた現代に、意思を持つ新たな魔導書が誕生するなど……!!」
「へいへい色彩の魔女焦ってるー!」
その横で、ウィンディもガンガン攻める!
風と氷を纏っての連続攻撃だ。
近距離戦好きなのね。
なんか氷を使ってビームソードみたいなのを作り、それでブゥンブゥンって音を立てて戦っている。
幼女であっても、長物を手にしたらリーチが確保できる。
これで色彩の魔女は攻撃を捌ききれず、窓際まで追い詰められていくのだ。
「なんということなの!? 私が!! 三百年生きた魔女である私がどうして、こんな生まれたばかりのような魔女たちに……!!」
「もう負けそうだぞ!」
まあ気持ちは分かる。
切り離した人格の招集はとっておきの切り札だったみたいだし、さらに多彩な攻撃は並の魔女だと対処できないと思う。
常にじゃんけんで相手の弱点を切れるのが色彩の魔導書の強さだったわけだ。
だがしかし!
そのじゃんけんでは、より強い本物の札をスパイスが持ってるからね。
ウィンディが加わったことで死角もなくなり、さらに魔導書たちのアバター欲しい欲しいブームから生まれたスパイシーズがいる!
『ふんぬらー!! スパイラル! しねえー!!』
またフロータがゴア描写みたいな感じで、色彩の分身を千切ってるし!
そしてこっちに走ってきた。
『主様、注意ですよー! そいつは勝つために手段を選びませんから!』
「注意って言ってももう追い詰めた感じでは……」
「はは! はははははははは!!」
色彩の魔女が哄笑した。
なんだなんだ!?
と思いつつ、スパイスはスパイラルの魔法を準備する。
フロータが戻ってきたし、他の魔導書も分身を片付けてそろそろ戻って来る頃合い。
ウィンディはちょっと相手と接近し過ぎな気がするが……。
「準備は終わったんだよ! お前らはおしまいだ! 私が全員、飲み込んでやる!!」
色彩の魔女が、足元から極彩色に変化していく。
いや、同時に床も壁も天井も変化していく。
「あーっ」
ウィンディが足を極彩色化した床に取られた!
いかーん!
助けに……。
「任せてくれ!」
そこで走ってきたグスタフ!
ウィンディを抱えると、窓に向かってジャンプした。
彼の金属板が入ってるらしい強化ブーツが、強化ガラスに叩きつけられ、なんとそれを粉砕する。
壊れる瞬間に十字架が現れたんで、エクソシストのヤコブ空手パワーかも知れない。
飛び降りたグスタフ、なんと身につけていた上着がブワッと広がり、パラグライダーみたいになった。
「わーお!」
ウィンディがびっくりのし通しで、抱えられたままわちゃわちゃ動いている。
「ふん! 逃げたとしてももう遅い! グラーツ中に張り巡らせた私の根と、今私と一体化しつつあるレーゲンボーゲン社の本社ビルが合わさった時……私は大いなる力を手にする……!!」
※『ラスボスみたい!』『明らかに目がイッちゃってる!!』『全てを捨てて勝つつもりだなこれ』
「なーるほど! ではスパイスも大いなる魔法でお相手するぞー!」
スパイラルで迫ってくる極彩色を削り取り、周囲に飛ばす!
で、スパイス自身はフライトで浮かび上がりながら……。
「お前に……何ができる……!! 未熟な新しき魔女に……!!」
「未熟でも、威力がある魔法の習得と、使い方の工夫はできちゃうんだなこれが! それにこの姿が、スパイスの基本フォームにして魔導書フロータのフォーム! フロート・スパイスなのだ!」
「虚仮威しを……を……おぉぉぉぉぉ!?」
ビルと同化しつつある魔女が、目を見開いた。
お分かりいただけたみたいですねえ!
右手にスパイラル!
左手にリバース!
これを……うんっ! と一つにして……。
「うおおお魔法が暴れる! 制御むずかしー!!」
『主様、制御に失敗するとこの辺りが吹き飛びますからね!』
「分かってるー!!」
近寄ってくる色彩の触手があるんだけど、それがギュルンっと音を立ててスパイスの手の中に引きずり込まれた。
そのままキュキュキュっと圧縮されて消えてしまう。
「なんだ……! 何をしようとしているんだ!?」
「外向きに撒き散らすスパイラルを! 逆回転! そしてぇー! リバースで撃ち出す! ここまでが詠唱!」
※『説明口調の詠唱だ!』『新しい……のか!?』『だけど何をやらんとしているのか分かりやすいぞ!』
そもそもスパイラルは、回転させる力を手の上で生み出して、やってくる攻撃を弾き飛ばすもの。
その力をリバースで逆転させると、回転の力で内に巻き込んで圧縮、さらに移動しながら渦を拡大していくものになる。
「いってこーい! 複合魔法、スパイラル・コンプレッサー!」
ポンッと放たれた渦が、ゆっくりと進み始める。
そして周囲にあるスパイスたち以外のあらゆる者を、吸い込むのだ。
「が、が、ががががががががが! 吸い込まれる……! こんな、私がこんなものに……!!」
色彩の魔女は逃げられない。
だってビルと同化してるからね!
そしてスパイラルコンプレッサーはビルごと吸い込もうとしている。
根幹となったリバースという魔法そのものが、すっごくヤバい力を秘めている。
これをスパイラルに乗せて放つ魔法は、それこそマイクロ戦略兵器みたいな感じではなかろうかとスパイスは考えているのだ。
「ウグワーッ!!」
ついに魔女が断末魔をあげた。
ビルの姿は跡形もない。
三階から上は全てスパイラルコンプレッサーに吸い込まれ、今まさに魔女の最後に残った腕が、空を掻きながら飲み込まれるところだった。
スポンっ。
音がして、色彩の魔女は跡形もなく消え去った。
それと同時に、グラーツに満ちていた魔法的な気配が、嘘みたいに消え失せる。
『おっ、これはやりましたねー!』
「あーん! 最後はスパイスに持っていかれましたー!」
グスタフに抱えられながら、うわーんとバタつくウィンディ。
『そういえば色彩のカラフリーはどうしたんですかあ? スパイラルコンプレッサーに吸い込まれて死にました? やった!』
マリンナが物騒な歓声をあげている!
そう言えばそうだねえ。
巻き込んじゃったかな……?
『笑えないジョークはノーサンキューざんすよー!!』
声がした! と思ったら、スパイスの顔の横にある空間にビシッと亀裂が入った。
※『なんだなんだー!?』『空間が割れる!?』『そこから……うるさい色の表紙の本が飛び出してきた!』
「うわーっ! なんだこれー!」
『うっひょー! ミー、解放……!! ンフーン。ミーを束縛して支配下に置こうなんて、せいぜい三百歳のヤングガールが片腹ポンポンペインざんすねー』
カラフルな本が、なんか凄く賑やかな声でそんな事を言った。
「おやー? もしかして色彩の魔導書のカラフリー?」
『いかにもざんす! ミーはカラフリー! 至高の魔導書にして究極の芸術家……! あらゆる色を司るカラフリーざんすよ~!!』
うわーっ!!
こいつ色だけじゃなくてキャラも濃いぞーっ!!
なるほど、抑え込もうとした色彩の魔女の気持ちがちょっとだけ分かったのだった。
『しっかしカラフリー、主様の生み出したスパイラルコンプレッサー、よく脱出できましたねー。色彩の魔女も脱出できるんです?』
『あー、あれは構造を紐解けば魔法を解体して被害を免れるのが全然楽ちんざんすよ。でもミーはあの女嫌いざんすから、あれが爪の先ほどの魔力塊にまで圧縮されるのを見届けてからゆっくり脱出したざんすよー。魔力塊は美味しくいただいたざんす~』
いや、実力は超一流だなこの魔導書!?
初見の魔法を読み解いて、分解したのか!
今までやり合ってきた魔女よりも、本気を出した魔導書の方がヤバいのかも知れない。
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