第208話 出てきた! CEO!?
オフィスフロアは段ボールが二箱動いてたら不自然だろうという話になり。
「意外といけるもんですね」
「うんうん、スパイスたちがちっちゃくてよかった」
前より大きい段ボール一箱に二人で収まって、こそこそ動くことにしたのだ!
最小限しか魔法を使わないから、魔力感知にもほとんど引っかからない。
誰かに気付かれたら、接触でちょっぴりだけ認識阻害の魔法を使ったりしてその場を切り抜ける。
この方法で、オフィスを闊歩するスパイスたちなのだった。
みんな忙しそうに動き回ってるので、後ろにある段ボールが動いててもそんなに気にしない。
胸から下を見てない人ばかりだね!
それにこのフロアにも、たくさん段ボールがある。
スニークミッションにおあつらえ向きな場所じゃあないか。
「わたし、ちょっとトイレに」
「あ、はいはい」
段ボールでオフィスのトイレに向かうぞ!
ウィンディがトイレに行っている間、スパイスは外で待つのだ!
「お待たせしました~。トイレで話を聞いたんだけど、会議があるみたい。CEOも出るって」
「なんだってー!」
ということで、魔女っ子入りの段ボール、会議室入りします。
「……あれ? さっきまでトイレの前に段ボールがあったのに」
誰かが持っていったと思っていただきたい!
会議室はどこか?
それは廊下に出て観察していると分かった。
上のフロアね。
他の人の認識をコントロールしながら、エレベーターに乗って運ばれていく。
最上階の一個下のフロアに到着した。
出ていく社員の人たちについていく。
なるほど、ここはフロアがまるごと会議室なのね。
部屋の片隅にある段ボールの中に紛れ込むスパイスたちなのだ。
「完全にスニークミッションをものにしましたねー!」
「うんうん、スパイスたちは潜入の天才かもしれない」
『ギリギリのところであっしが必死に抑えてるんでやんすからねー!』
メンタリスには感謝だなー。
精神の魔導書が、ここまで潜入工作向きだとは思わなかった。
「メンタリス頼れるなー。あとでご褒美あげるからね!」
『おっ、楽しみにしてるでやんす!』
ということで。
CEOの登場を待ちましょう!
カバンの中から、魔導書たちもぞろぞろ出てきた。
みんな、段ボールの外に声がもれないよう、ひそひそお喋りだ。
『色彩の魔女どんなやつなんでしょうね』
『ん俺達がぁ、見たのとは姿もぉ、変わってるだろぉ』
『しっかし、よく自我を保ってられるでやんすねえ。狂った自分を会社の外に放りだしてるとは言え』
『いや~。私、これ怪しいと思ってますよー。色彩の侵食から逃れられると思わないんですけどー』
『なんか感性が合わないと永遠に侵食を食らうようなやつよね!』
色彩の魔導書に対して興味が湧いてきたぞ!
会議室の社員たちはノートパソコンを広げながら、ぺちゃぺちゃお喋りしている。
で、そこにCEOがやって来たら、場の空気がピリッと引き締まった。
スパイスたちも静かになるぞ。
現れたのは、五十代くらいのおばさま。
背中がシャンと伸びてて、黒いスーツが似合う。
思ったよりシックだなと思ったら、首に巻いてるスカーフが極彩色だった!
「では、会議を始めましょうか」
彼女が話しだして、レーベンボーゲン社の会議がスタートしたのだった。
内容は、様々な報告会とそれに対するCEOからの質問。
質疑応答を含めて一時間ほど。
今回は新しいことはしないみたいで、サクッと会議は終了した。
CEOが去っていく。
去り際に、段ボール山をちらっと見た。
ドキッ!
「商品を積み上げるのはいいけれど、中身を改めて片付けておきなさい」
CEOは指示を出して去っていった。
ホッとする。
節穴だった!
『あいつ、色彩の魔女じゃないでやんすね』
「ええーっ!?」
いきなりメンタリスがそんなことを言うのでびっくりだ。
『色彩の魔女の、恐らく使い魔でやんすよ。それを通じて、スカーフで情報を集めてるでやんすね。つまりあのカラフルスカーフが本体の端末でやんす』
「な、なんだってー!!」
「ぐうぐう」
あっ、会議の間にウィンディが寝てしまっている!
あー、スパイスの背中にウィンディのよだれがー。
いかん、寝起きのウィンディを連れて戦うのは危険すぎる~!
それに流石に段ボールでCEOルーム行くのはあからさまでしょ。
しばらく会議室にとどまって情報を集めることにした。
「ウィンディおきろー」
ほっぺたをぺちぺちすると、「あうー」とか言ってウィンディが目覚めた。
いかん、メタモルフォーゼしてると、生態まで幼女に近くなる気がする!
ここで、段ボールの上が開いた。
覗き込む社員の人の思考をちょっとコントロール。
うんうん、スパイスたちは普通の通販グッズだからね。
分解されたぶら下がり健康器だからね。
そしてフロータを使って重さをコントロールし……運んでもらう!
台車に乗せられて楽ちん楽ちん。
そのままエレベーターで一階まで運ばれつつ……。
「CEOなんか雰囲気変わったよなあ」「ああ。なんていうかこう……ロボットみたいな。笑顔とユーモアなくなったもんな」「最近業績よくないからなあ……」「なんか返答までにちょっとタイミングずれてなかった?」「まるで誰かの指示を待ってるみたいな」
ここで会話が途切れた。
そしてふと、
「ところでうちって、ぶら下がり健康器扱ってたっけ?」「えっ? 化粧品とかメインだろうち」
しまった!
二人の思考をショックで軽く吹き飛ばしておく……。
『主様、今段ボールから手を伸ばしてタッチしたの、監視カメラに映ってましたね』
「えーっ、怪奇映像になっちゃったじゃん! っていうかそろそろ撤退しよう、撤退~!」
『了解でやんす。そんじゃあ、あっしはこの社員にバックドアを仕掛けて……。今の色彩の魔女なら、錯乱してるからちょっとした魔力の乱れは見逃しそうでやんすからねえ』
「おや? メンタリスは色彩の魔女本体もおかしくなってると思ってる?」
『その通りでやんす! CEO雰囲気変わった、は、前までは人間を取り繕って外に出てこれたということでやんすよ。そして見て欲しいでやんす、このエレベーターの仕組み。最上階のCEOルームへは、カードキーの認証かCEOの許諾が必要でやんす。つまり誰も入り込めないでやんすね』
「ほうほう」
『自分の城に閉じこもって、色彩の魔女は順調におかしくなっていっているとあっしは睨むでやんすよ。多分、もともとはかなり意識高い系と見たでやんす』
「うおおおメンタリス名探偵~!」
一階に降りたところで、社員の人たちが待ち受けていた。
「段ボールから手が出たのを見たぞ!」「その段ボールを下ろすんだ」「中を改める……」
いかーん。
大勢が監視する中だと、大規模な精神魔法を使わないといけなくなる!
スパイスが思うに、ここは監視カメラよりも魔力感知を恐れるべき!
つまり、魔法を使わずに脱出!
これがジャスティス!
かくして、床に降ろされた段ボールから突如四本の足が生えて、すごい勢いで社外まで走っていったのだった!
「う、動いたー!!」「まさか最近噂の街の怪異が我が社にも!?」「ひえええ」「エクソシスト呼べ、エクソシスト!」
おっと、エクソシストが入りやすい流れになってきたぞ……!
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