第207話 侵入せよ、魔女の会社!
「外に出たわけだけど、スパイスはどうやって調べるつもりなんです?」
「中に侵入しちゃおう!」
「ワオ!」
スパイスの決断的アイデアに、ウィンディが目を丸くした。
「わたしとしてはとっても素敵なアイデアだと思いますけど……それって大丈夫なんですか?」
「スパイスたちなら、発見されても無血で無力化できるでしょ。威力偵察が一番早いよ」
『ゴーゴー主様! 敵地に乗り込んで情報収集は戦士の本懐~!』
『フロータぁ、主様はぁ、魔女じゃねえのか?』
『まあ、あっしがいれば隠密行動はかなり楽になるでやんすけどねえ。問題は……』
『色彩の魔女が張り巡らせている魔法の罠でしょうねー』
『何よあんたたち、フロータ以外ブルってんの!? あたしは行くわよー! ウィンディ、準備しなさい!』
魔導書たちがわあわあ騒ぎ出した。
これは、やる気満々のフロータとスノーホワイトに他の三冊が押し切られる流れ!
スパイスたちは潜入作戦を決行することになったのだった。
さてさて、レーベンボーゲン株式会社は、オーストリア全土に商品を届ける通販会社。
ちょこちょこ、トラックが出たり入ったりを繰り返しているので、侵入自体は容易だね。
でも表から入っていくのは監視されていそうだから、ここは裏から行こうじゃない。
「では物陰で、光を出さずにメタモルフォーゼ」
どろんと変身するのは、マインドスパイス。
最も潜入行動に適したフォームだ。
ウィンディはいつもどおり。
「わたしも別のフォーム欲しいなあ! ねえスノーホワイト~!」
『仕方ない子ねえ。カンザスに戻ったらなんか考えてあげる。風と氷それぞれに特化したフォームでいい?』
「やったー!」
仲良しねー。
一人と一冊のやり取りを温かい目で見守りつつ、スパイスはここからの動きを考えるのだ。
配信なんて言語道断。
今回の作戦は、正式な手続きなしに会社に侵入するわけなのでよろしくない行為なのだ。
だが!
これは会社に侵入する意図で行うのではなくて、魔女を追っていたら気付くと会社だったという建付けで解決!
「ゴーゴーゴー」
「ここからは小さい声で会話するんですね」
「知られるわけにはいかないからねー。この裏口の窓を外して入ろう。おっ、セキュリティ掛かってるー」
『マリンナの出番ですね? 力を貸しますよー』
ここで用意しますのはミネラルウォーター、ちょっと塩が入ったやつ。
これを窓にちょっと振りかけると、水が動き出した。
僅かな隙間から侵入し、水がこれを伝って窓に繋がる警報装置に……アクセス!
一時的に、この窓を監視するシステムが麻痺した。
あとは内側から、水を使って窓を開けるだけ。
「完全に密閉されてないんだねー?」
『密閉はされてますけど、水で圧力を掛けてパッキンをたわませて侵入できますから。安価な手段で密閉されてるなら、むしろ入り込むのは楽ちんですねえ』
恐ろしい魔導書だなマリンナ!
裏口の窓が開いたところで、スパイスとウィンディが入り込むのだ。
窓が小さくても、幼女姿の二人なら余裕。
しかも飛べるから、高いところの窓だって問題がない!
出会った社員さんの意識を、ショックで一時的にふっ飛ばしたりしつつ……。
会社内部に降り立つ二人なのだ!
「スニークミッションだね。お誂え向きに、あちこちに段ボールが置いてある」
「さすが通販の会社ですねー。……ということは……?」
次の瞬間!
二つの段ボールが階段を移動していた!
段ボールを被ったスパイスとウィンディなのだ。
「完璧!」
「これは風景に溶け込んでますね! まさにニンジャ!」
スパイスもウィンディもテンションが高い。
なお、スパイスの後ろに張り付いたメンタリスが、常に色彩の魔女の攻撃に備えている。
『ちょこちょこ、警報魔法が仕掛けてあるでやんすねえ。装置はマリンナに誤魔化してもらい、魔法はあっしが騙してくぐり抜ける……。それぞれ専門分野を分けられて本当に良かったでやんすよ。色彩の魔導書は器用なので、一冊で色々やってくるでやんすからねえ』
『ただしあいつ、ムラっ気が強いから。ところどころ詰めが甘いんだよね』
色彩の魔導書についての話をたくさん聞けますなあ。
魔導書たち、長く生きてて記憶が色々混在してるから、こういうきっかけでも無いとピンポイントな情報が出てこなかったりする。
うちにいる時は、最近のゲームはどうだったとかそういう話しかしてないもんね。
「おっと! 社員の人とすれ違うぞ!」
サッとただの段ボールのフリをする、スパイスとウィンディなのだ。
社員の人はトコトコと通過しようとして、
「あれ? こんなところに段ボールがあったっけ……」
と近づいてきた。
流石にゲームとは違うかー!
社員の人の手が段ボールに触れた瞬間、そこから最小範囲でのショック!
「あふん」
社員の人が片膝をついた。
『流石主様。この極小規模、極小魔力でのショックであれば魔力感知には捉えられないでやんすよ。つまりでやんすね、個人間の接触でも少量の魔力が生じたりするのでやんすが、これに擬態して攻撃を仕掛ける手段でやんすねー』
「精神の魔導書、本当に潜入工作にぴったりで笑っちゃうんだ」
こうして幾つかのフロアを抜けて……。
「オフィスフロアだぞ!」
『うーん、魔力の気配が濃厚になってきたでやんすねえ。これ、あっしが魔力感知使わなくても分かるレベルでやんすよ。色彩の、やってるでやんすねこれはー』
敵の本拠地に突入というわけだ。
でも相手の情報がないし、バトルに突入してもいいものかな?
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