第205話 グラーツ名物川下りバトル
「そんじゃあ、スパイスたちは川下りしながらバトルしまーす!!」
魔女が現れて、川が絵の具色で染まる前にこっちの領域を確保することにしたのだ。
「配信スタート! こんちゃー! どーもどーも! スパイスです! いきなりですがメタモルフォーゼ!! アクアスパイス!」
※『こんちゃー!?』『うおおおおいきなりスク水!』『サービスシーンスタート!?』『グラーツの明け方だー』
「私も水着欲しいなあー。スノーホワイトー」
『仕方ないわねー! カンザスに帰ったら断片集めしましょ。新しいメタモルフォーゼが手に入ったら新フォーム作れるから!』
「イェアー!」
おおー、スノーホワイトは一冊でも色々やるんだなあ。
優秀!
『彼女、唯一操る属性が二種類の魔導書ですからね。真っ当な方向で一番器用なんです。さーて、では色彩のアホから水の支配権をもぎ取りますよ!』
「ってことで、リスナー参加で色彩の魔女から、ムール川の支配権を奪取します! 呪文詠唱カモーン!!」
※『うおおおおお!!』『俺達で魔女に一泡吹かせるぞ!!』『目にもの見せてやる!』『よこせ! 水は俺のもの!』『お前の水も俺のもの』『おちつけーw!』
「俺達で魔女に一泡吹かせるぞ! 目にもの見せてやるー! よこせ水は俺のもの! お前の水も俺のもの! ウォーターシップ!」
※『そんなひどい詠唱を採用するやつがあるかw!?』『ネタで言ったら拾われてて草』『ジャイアニズムあふれる詠唱をしたから見ろよ! 水の船が……』『海賊船だーっ!!』
「なるほど……! 視聴者を巻き込みながら大きなムーブメントを作り、魔法の力にミームで対抗する……! これが新時代の配信者なんだね。我々エクソシストも新時代に合わせてパワーアップしないとなあ」
「頑張って! それじゃあウィンディ行こっか。じゃあねーおじさん!」
ジョギングしてたエクソシスト協会理事とここでお別れ。
流れてくる絵の具みたいなものの中、真っ青な水の海賊船が浮かんでいる。
スパイスとウィンディが「ほーい!」「とーう!」と飛び降りても、ボヨーンと受け止めてくれるのだ。
ウォーターベッドみたい!
「えー、それではー。戦いながら色彩の魔女相手に、本格的な情報収集をしようかと思いまーす!!」
「イエース! レッツインタビュー!」
海賊船の周りはきれいな水。
真横の流れは絵の具が混ざりあった色。
そこから、『ウボアアアアア~!』と叫びながら、バカでかい極彩色おばさんがせり上がってきた。
これはレイドバトルするスケール感!!
「こんちゃー!!」
「はろーはろー!」
『ああああああ! おおおおおお!!』
叫びながら、色彩の波を引き起こす魔女。
絵の具の塊が跳ね跳び、着弾した水面で大爆発する。
さらに海賊船に付着した絵の具が、じわじわと侵食してこようとするわけで。
『ふんぬらばー! 不純物の塊ごときが純粋な水であるこのマリンナの力にぃ! 侵食しようなんて片腹ぽんぽん痛いんですよ!!』
「フロータみたいな怒り方してる」
『ウォーターシップーッ!! 撃てーっ!! ウォッシングバレットーッ!!』
「おっ、この間の清掃魔法が砲弾になってぶっ飛ぶ!」
バンバンと水の砲弾がぶっ放される。
これが絵の具側の水面に着弾すると、そこの色彩が一挙に吹っ飛んだ。
魔女にもぶち当たり、巨体が『ウグワーッ!』と削れる。
断面も絵の具だねえ!
「戦いの最中で失礼しまーす!」
『ウゴオオオーッ!!』
「あなたも分身だと思うんですけどー、本体ってどこにいるんですかー!」
『ングワアアアアッ!!』
「スパイス、この人完全におかしくなってますよー」
※『言葉が通じぬ!』『どうしたもんかなー』『狂気には狂気をぶつけるんだよぉー!』
「おっ、いい発言来てた! それだ!」
「スパイスが何かやるんです? それじゃあわたし、色彩のオールド・レディを攻撃しておきまーす!」
ウィンディが、ウォーターシップの砲門を使って氷の弾をぶっ放し始めた。
頼りになる~!
質量のある塊が、飛んでくる絵の具攻撃を凍らせ、ぶっ飛ばす。
その間に、スパイスの魔法準備完了!
カバンからメンタリスがスポーンと飛び出してきた。
『あっしの仕事でやんすね? メタモルフォーゼ!』
「変身! マインドスパイス! そんじゃあ行ってみよー! えーと……まずはショック!」
川底から浮かばせた小石を投げつけて、そこにショックの魔法を乗せる!
当たると魔女が、ちょっとビクッとした。
このスケール感だとダメかあ。
『ショックだとちょっと弱いでやんすね。ハードショックだと相手の意識をふっとばすだけでやんすし。ここは……主様はあんま使わないと思うんでやんすが、新魔法を開示するでやんすよ~』
「おおーっ!! それはなに?」
『インサニティ! 相手の正気を失わせる魔法でやんす』
「おおー? つまり狂気を狂気でぶっ飛ばす?」
『端的に言えばそうでやんすねー。これの仕組みは、相手の今の感情を正気として判定するでやんす。だから今の錯乱してる魔女の感情を失わせれば……』
「正気になる!」
『そういうことでやんすよー! ただーし! 魔女クラスとやり合うなら、深く接触する必要があるでやんす~! あっしだけだとこれは困難!』
「つまり~?」
スパイスが配信画面に問いかけると、コメント欄がワーッと沸いた。
※『この時のためのリトルウィッチ・デュオ!』『ウィンディちゃん行っちゃえー!!』『いけいけー!』
「イエース! やりまーす!!」
『なんか応援されると妙にパワーが湧いてくるわね!? なにこれ!? でもまあいいけど!』
ウィンディの背中に真っ白な翼が出現して、高く飛び上がる。
「あちょーっ! ウィンディストライク・セカンド!!」
ウィンディストライク!
この間のは氷を纏っての貫通キックだったけど、今回は風を纏ってのキック!
猛加速したウィンディが、飛んでくる絵の具を全部跳ね飛ばしながら色彩の魔女にぶち当たる!
すると、魔女の表面の絵の具に巨大な波紋が出現した。
その波紋が、魔女から水面まで一気に広がる。
『ウグワーッ!?』
魔女の巨体が仰け反った。
既にスパイスは船を寄せているぞ!
「ちょっと聞いてもいいですかーっ!! インサニティ!!」
スパイスのパンチが、魔女の絵の具ボディに突き刺さったのだった。
そこから送り込まれる、正気をふっとばす魔法の波動。
『ウグワガガガガガガガガ!! 新しき魔女どもめえええ!! ここまでとはああああ!!』
「あなた本体はどこにいるのー?」
『そんなことをっ! 話すわけ』
「追加でドランク!」
『ウグワーッ!』
「今どこ住みー?」
『グラーツ郊外のっオフィスビル……!』
意識に正気を浮かび上がってきたところを、自制心をドランクでガタガタにしてから無理やり喋らせたぞ!
『さっすが主様、とんでもねえ尋問でやんすよー!! こんなの見たことねえー!』
『やるわねー。スカッとしちゃったあ』
『でしょー! 主様は凄いんですから! これが魔女たちにはない社会人経験ってやつですよ!!』
「お酒飲んでべろんべろんになると、べらべら喋りだすからねー」
てなわけで、腕を引っこ抜いてからのフォームチェンジ!
再びアクアスパイス!
「いっくぞーウィンディ! 打ち上げまーす!! 水の支配領域もらったー!! 集まれ水! 打ち上げろ水! こいつを絵の具から引っ剥がして空の上まで! スーパー・ゲイザー!!」
次の瞬間、スパイスの詠唱に応えてムール川の水が一気に打ち上がった。
間欠泉とか噴水のような攻撃だ!
『ウグワーッ!!』
色彩の魔女の分身が、巨体を上空に打ち上げられる。
「ターゲット、ロックオーン!! ウィンディ~! ストラーイク! アチョーッ!!」
空に向かって逆さま体勢で飛び上がっていくウィンディ!
全身に風と氷を纏い、猛烈なつむじ風で魔女をロック!
低温で絵の具ボディを凍りつかせて……。
「インパクト!」
『ウグワーッ!!』
ウィンディキックが魔女の巨体を貫通した!
ばらばらになって飛び散る、色彩の魔女!
「たーまやー!」
スパイスは思わず掛け声をあげたのだった。
いやあ、キラキラの朝日に、飛び散った絵の具が反射してきれいですねえ。
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